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あたりまえ

作者: AND

ママはいつもご飯を食べる時、「牛さんや魚さんに感謝しなさい」と僕に言う。ママは絵本を読みながら牛さんや魚さんは草を食べてのんびりしたり、大きな海を自由に泳ぎ回るのだと教えてくれる。僕にはよく分からない。僕がいつも食べる牛さんや魚さんと草を食べる牛さんや海で泳いでる魚さんは何が違うのだろう。ひょっとすると僕やママはこうして楽しく暮らしているけれど、どこかでは牛さんや魚さんのように食べられている人がいるのかもしれない。すると急に僕は怖くなった。ママはいつか僕を食べてしまうかもしれない。もしかすると逆かもしれない。



ママはいつも僕にしてはいけないことを教えてくれる。ともだちの悪口を言ってはいけない。人に暴力を加えてはいけない。ニュースで見るように人を殺してはいけない。そこで僕はママに尋ねた。どうして人は人を殺してはいけないのに、人は牛さんや魚さんを捕まえて殺して食べるの?それは誰にも怒られないの?人は人を食べないの?

ママは答えてはくれなかった。



僕は大人になった。現在世界では地球温暖化と人口増加による食物不足の問題にさらされていた。各地で紛争が相次ぎ食料を奪い合った。だが、人が人を食すことはなかった。


さらに歳月は流れた。地球の平均気温は100年前と比べると20度も上がり、植物は育たなくなり、海水温の上昇により魚の数は激減し、北南極の氷は溶け水位が上昇し、陸地面積は減り、牧畜の数も減っていった。世界の総人口は僕が生まれた頃の3分の1にまで減った。食料は金銭では買うことができなくなり、僕たちの国では少しずつ分け合って食べていた。他の国では、未だに奪い合いが続いていた。


僕はかなり年をとった。ママはまだ健在だがもう長くはなさそうだ。食料不足は深刻を極め、畑を耕すも何も育つことはなくなった。この頃から世界の国では力を持つ人が力を持たない人を食べ始めた。人肉は美味しいという噂もあれば、吐き気を催すほど不味いと聞くこともあった。しばらくして、僕の国でも人が人を殺め、食べ始めた。僕の家にももう食料は尽きていた。周囲には何もなく完全に孤立していた。ママは言った。「あなたはまだ生きなくてはならない。人が人を今まで食べてこなかった理由をあなたは見つけださないといけない。その為にもママをあなたの中で眠らせて。」僕は涙が枯れるまで泣きながらママに火を通した。


結局僕は答えを見つけることができなかった。もうすぐ僕の命も尽きてしまうだろう。通りかかった腹を空かせた者が僕を食べてくれるよう僕は家の外へ出た。僕は思った。人が牛や魚を食べることの正当性は分からないけれど、人が人を食べないということは、当たり前のことだけれども、すこぶる幸せだということを。だから大事にしてほしい。自分の大切な人を。その人を食べなければならなくなる前に。

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