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再会



 V-ルゼスタに戻った丈一郎と寅子にレイヴァンはまず頭を下げた。


 「すまない、二人を危険な目に遭わせただけで、手がかりは何も得られなかった。私の力不足だ」


 しかし寅子は穏やかな笑顔で首を振った。すでに変身を解いてハルナから借りたショートパンツとパーカーに着替えている。


 「いえ、レイヴァンさんが力を尽くして下さったのは知っています。それにあの科学者も死んだわけではないんですよね」


 顔を上げたレイヴァンはまたバツの悪い顔をして頭を掻いた。


 「恥ずかしい話だが砲撃中に脱出する小型ロケットを一機確認した。おそらくは逃げおおせているだろう。今回の作戦は完全に失敗だ」


 レイヴァンはがっくりと肩を落としている。丈一郎の想像以上に彼には堪えている様だ。


 「じゃあ、また探し出して捕まえましょう。私はそれで良いと思います」


 「それに研究所は破壊できました。やつらが慎重に侵略を進めるのであれば、あれは大きな痛手になるんじゃないですか?」


 寅子と丈一郎がレイヴァンを気遣うように続けて声を掛けた。


 「君達がそう言ってくれるのはありがたい。次はこんな事の無いように尽力する。今一度私にチャンスをくれ」


 そう言って再びもじゃもじゃの頭を勢い良く下げるレイヴァンに二人は苦笑しながら頷いた。寅子の身体が元に戻らなかったのは無念だが、まずは『ビゲル』に一発借りを返してやった形になる。若い二人には、今はそれでよかった。チャンスはまだある。


 「ところで、丈一郎君」


 「はい?」


 改まった態度のレイヴァンが丈一郎の肩に手を置いた。


 「『ビゲル・ゲフィズン』があれほどの施設を地球に建造しているのは銀河連邦警察としても想定外だった。この件を報告したが、もしかしたら応援の隊員がこちらに回してもらえるかも知れん。それで……そうなれば君にはもう危険な戦闘をしてもらわなくても済む訳なんだが……」


 「ああ……」


 確かに、丈一郎が怪人との戦いをしていたのは銀河連邦警察の対『ビゲル』作戦人員不足によるものであった。これが解消されれば自動的に丈一郎の協力は不要という事になる。


 (ううん……)


 丈一郎は迷った。確かに危険な目に遭うのは避けたいが、これは地球の、しかも自分の住んでいる街の問題でもある。巻き込まれた形ではあるが、足を踏み入れておいてこれを他人任せにしてしまうのも無責任で後味が悪い。


 「確かに……あまり戦ったり危険な目に遭うのは嫌ですが……でもこれで綺麗さっぱり足を洗うというのもなんかすっきりしません。委員長の事もあるし」


 「そうか」


 レイヴァンはその答えを予想していたというような顔をした。丈一郎の横では寅子がこっそり顔を赤くしているのだが都合良くと言うか、丈一郎はそれには気付いていない。二人の背後にこっそりと近付いてきたハルナが寅子の腕を軽く小突いた。


 「少し、考えさせてもらってもいいですか」


 「ありがたい返事だ。よく考えてもらいたい、私たちに強制はできないからな」


 レイヴァンは満足そうにそう言っていつものコーヒーに口をつけた。


 「若いっていいわね」


 ハルナがぴらぴらと透明のシートを揺らしながら割り込んできた。はい、とレイヴァンに渡したそれは、レイヴァンの個人データ(基礎体温や脈拍、指紋に電荷等々)を認証して数行のメッセージを映し出す。


 レイヴァンはそれを見て、むうと呻く。後ろから覗き見たハルナもあらあらと口に手を当てた。しかしその目は少し面白いものを見たような、悪戯っぽい笑みを含んでいるが。


 「事件ですか?」


 「事件じゃない……が、これは、ううむ……ハルナ?」


 丈一郎の質問に曖昧に答えながら、レイヴァンは意見を求めるように後ろのハルナを振り返る。ハルナはさぁ?と言うように肩をすくめて見せた。


 「見ての通り、『司令』のご命令よ。今すぐって」


 「むうう……やむをえんか、このまま黙っているわけにも……」


 ぱん、と膝を叩いてレイヴァンは(めずらしく)腰が重そうに立ち上がった。先程よりさらにすまなそうな顔をして丈一郎に告げる。


 「丈一郎君、順番が滅茶苦茶だが我々は君に謝らなければならない事がある。しかしその理由を話す前にまず会ってもらわなければいけない人物がいる。銀河連邦警察太陽系管轄の責任者、司令役職の人だ」


 「太陽系管轄……ですか?」


 「くだけていえば私達の上司ね。地球だけじゃなく、太陽系での知的生命体の犯罪に対処する所轄の一番偉い人」


 後ろからハルナがそう続けたが、含みのある言い方だった。少なくとも上司だからと言って好意は持っていないとでも言いたげな感じである。


 「その『司令』が、今回の君達の活躍に対し一言……その、礼を言いたいと」


 レイヴァンの話は引き続き歯切れが悪い。


 「礼を言う前にすることがあると思うけどね」


 「ハルナ!」


 いい加減、茶化すように口を挟むハルナをレイヴァンがやや強い口調でたしなめるが、ハルナもなによう、と口をとんがらせて反抗した。


 おいてけぼりになっている丈一郎はとりあえず間を取り持つように立ち上がる。


 「わ、わかりました。いや、よくわかりませんがとりあえずその人に会えばいいんですね?」


 「ああ、その人は今冥王星軌道付近の中継ステーションにいるが通信室でリゾーラル回線で会話できる。すまないが少し時間をくれないか」


 「はい」


 話の流れはさっぱり読めず、寅子となんだろう?と顔を見合わせてレイヴァンについて行く。ハルナもその後ろからフンフンと鼻歌混じりに同行した。


 ミーティングルームから一つ上のフロア、丈一郎達はまだ入った事の無い航行ブリッジの少し手前にある通信室に二人は通された。壁一面を埋める巨大なモニターに驚きつつ、備え付けの椅子に座らせられる。


 「では、お待ちかねのご対面ね」






 ハルナが手持ちの端末でモニターを起動する。『通信中』という文字が数秒流れた後、モニターは巨大な議事堂のような部屋を映し出した。


 中央には、材質は不明だが緻密な彫刻が施された立派な机が置かれている。その上にいくつかのマイクとおぼしき機械が浮遊しており、その横に半透明のモニターが何枚か同じように浮遊していた。そしてその机に肘を置き、真剣な顔でこちらを見ている、中年、というにはがっしりしたスポーツマンのような身体を持つ短髪の男性。


 「!あ、ああ、あ……」


 丈一郎はその顔を見て、あまりの驚きで言葉を失った。その驚きように寅子もびっくりして思わず丈一郎の腕を握ったが、当の丈一郎はそれにも気付けなかった。


 記憶の中の顔とは違う、それなりに老けてはいるが忘れようもない、その顔は。


 「久しぶりだな、丈一郎」


 「お、親父!?」


 それは紛れも無く、六年来行方知れずであった丈一郎の父、慎一郎であった。


 「な、なんで……親父が、そんな、そんな所に……」


 慎一郎は目を閉じて深い溜息を漏らした。父の吐く息のもたらす沈黙が何十分にも感じられる。丈一郎が堪らず椅子から立ち上がると同時に父は目を開いた。


 「今まで連絡せずにすまなかった。私はこうして生きて、今は銀河連邦警察の一員として戦っている身だ。話は長くなるが、まずは父さんの話を聞いてくれ」


 「……」


 言いたい事は山ほどあったが、頭が混乱して何から言えばいいのかまるでまとまらない。丈一郎は口をパクパクさせるのみで、結果慎一郎の説明を聞く側に回ってしまった。


 「私はそこにいるレイヴァン君、ハルナ君よりも先に、『ビゲル・ゲフィズン』の地球人誘拐事件に出くわし、そして奴らの侵略を知った。奮戦するも他の人々と同じく私も略取されてしまい、『ビゲル』の洗脳を受けそうになったところで、辛くも銀河連邦警察に救出されたのだ」


 丈一郎も寅子も唐突に明かされた話を聞くのが精一杯だった。口を挟む間を与えず慎一郎の話は続く。


 「レイヴァン君達がそうであったように、地球、そして太陽系に仇なす敵性宇宙人の存在を知った私を銀河連邦警察はスカウトしてきた。地球人は未だ宇宙人の存在を知らず、このままでは遠からず地球はなす術も無く宇宙人に侵略されてしまう。それは、宇宙人犯罪の温床にも繋がり銀河連邦としても好ましい事態ではない。それを未然に防ぐ為に、地球の情報を持つ私に協力して欲しいと。悩みに悩んだ末、銀河連邦の一員として地球を守る戦いに身を投じる事にした。……母さんやお前たちには悪いとは思ったが、お前たちの事を思ってでもある」


 「だ、だからって一言くらい!母さんや梨依菜がどんな思いで待っていたか……!」


 気付けばモニターに詰め寄り、画面を叩きそうな勢いで丈一郎が声を荒げる。慎一郎はそう言う息子に頭を下げた。


 「何度謝っても済む事ではない。お前たちには……傍にいてやれなかったのは父さんも耐え切れないほど辛い毎日だった。しかし、こうもよく育ってくれて、今は本当に感謝している。言葉に言い表せないほど、嬉しい」


 「そんな、そんな言い方で、俺達は……」


 感情が高ぶり涙をこぼしそうになりながら、モニターを殴りつけようとする拳を押さえ込む。生きていてくれた嬉しさと今まで連絡の一つもよこさず黙っていた事に対する怒りが混ざり合いドロドロのマグマのように丈一郎の心で昂ぶっていった。


 「そんなの、一緒に暮らしながらでも出来たんじゃないのか!?せめて、手紙の一つでも……」


 結局怒りが勝ってしまい、涙ながらに丈一郎がモニターに手をつく。寅子もおぼろげながら事情を把握し、親子の久々の対面にうっすらと涙を目尻に浮かべていた。


 「すまない、私はこうして責任ある立場に就いてしまった。お前たちを巻き込まないようにするには、接触も慎重にならざるを得なかった……」


 「親父……」


 丈一郎も父の言う事がわからないではない。50億キロメートルという膨大な距離を越えて、六年ぶりに親子は離れていた距離を歩み寄ろうとした。一同の間に感動的な空気が流れ始めた、が。


 「まぁ、加賀司令がご自宅に帰れなかったのは他にもご事情があったようですけど」


 「ハルナ君!」


 ボソっと口を挟んだハルナに慎一郎が威厳ある父親の顔を崩し慌てた声を出す。そこに、横から慎一郎に走り寄る小さな女の子がモニターに映った。


 「おとーさーん、お話まだ終わらないの?」


 「!?」


 丈一郎と寅子が目を見開いてその幼女を見た。その後ろではレイヴァンは思わず頭を抱えている。


 「お、親父?」


 「い、いや、これはだな、その……つまり」


 慌てふためく慎一郎の膝の上で、無垢な笑顔を見せて幼女が手を振った。緑色のクルクルとした柔らかい巻き毛の可愛らしい女の子だ。


 「あ、ハルナおねーちゃんだ、やっほー、元気―?」


 元気よー♪とハルナは気楽そうに手を振り返している。モニターの向こうの無邪気な女の子は髪の色こそ地球人離れしているが、どことなく幼い日の梨依菜に似ている。直感的に丈一郎はその子が父の血を引く子だと確信した。


 「親父……まさか……」


 「いや、まて、父さんはだな、これはやんごとなき理由が……」


 「そりゃ、偶然そういう流れになっちゃった可愛い女の子が、銀河連邦警察長官の愛娘だなんて、若き日の司令にはわかるはずもありませんでしたものねぇ」


 あくまでのんびりと、世間話でもするように語るハルナを振り返り硬直する丈一郎は、モニターの向こうでバタバタと回線をいじる父の姿に気付かなかった。


 「す、すまん、私はこれから中央議会への説明を任されていてな、また時間を作って通信する。諸君も健康と安全に充分に留意して任務を継続してもらいたい、それでは!」


 「えー、もう切っちゃうのー、レヴィーヤ、もう少しお話したかったなー」


 「おい待て親父!」


 慌てて振り返るが、画面には一杯にカメラに近寄って手を振る幼女(恐らくは、妹)の姿が見えたのみで、それもすぐに消えてしまいモニターは何も映さない真っ白なパネルとなってしまった。


 「…………」


 通信室に、これ以上なく重苦しい空気が充満する。そのど真ん中で丈一郎は全身の毛が総毛立つ程の怒りというものを人生で初めて味わっていた。


 事情はわからないし今は理解する余地も余裕も無い。今、丈一郎の中に混沌と渦巻く怒りと無数の疑問の中で唯一、揺ぎ無い断固とした決意が一つ、口を割って吐き出される。


 「レイヴァンさん……」


 「な、なんだね?」


 十代の少年が発しているとは思えない炎のような殺気に、歴戦の戦士も思わずたじろいだ。


 「俺、この仕事やめませんから。あのクソ親父をぶん殴って土下座させるまで、俺は絶対に連邦警察やめません!」


 ぴゅう、とまるで空気を読まないハルナの口笛が、通信室に響いた。





 

 機動捜査官ジェイガー 主題歌

 『電装!ジェイガー!』


 宇宙の深遠 迫り来る闇の手に

熱い怒りを たぎらせるのさ


か弱い命 守るためなら

流れる血も 勇気に変える


絶望が目の前に広がっても

可能性に賭けるのが 若ささ


『電装』!

立ち上がれ 恐れを踏み越え

『電装』!

唸るぜジェイガースパークブロウ


BLUE RISE FIGHTER 

俺の名は ジェイガー

 









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