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激闘









 ホタテ貝の外周に沿うようにカーブを描く搬送用通路を進む丈一郎と寅子は、前面から聞こえてくる無機質な機械音と足音に歩を止めた。ガシャリ、と音を立てて人間大の異形の機械が姿を現す。


 「ロボット……?」


 まるで人間の骨格を模したかのような簡易な作りの機械人形が群れを成して二人の前を塞ぐ。数は七、八体ほどだろうか。脆弱な構造に見えるが、その両腕に当たる部分の先端にはバチバチと青い火花を散らす機械が装備されていた。スタンガンのようにも見える。


(アレには気をつけないといけないな)


 丈一郎は寅子に目配せをした。寅子も、少女には似つかわしくない真剣な顔で返事をする。


 「『電装』!」


 振り上げた腕が輝く粒子に包まれ、それはすぐに全身に広がり瞬時にして丈一郎の体は美しいオーバーバトルギアコートを纏う。その少し後ろで腕時計を外した寅子も怒りのアドレナリンに身を任せた。華奢な身体を包むシャツやジーンズがバラバラに弾け飛び、その下から白とピンクのツートンで彩られた装甲と美しく豊満な女の肉体が現れる。両手の先から延びる長大なツメがギラリと照明を反射した。


 機械人形が近付いてくる前に丈一郎と寅子がジャンプして飛び込んでゆく。反応の遅れた二体の人形がなす術も無く踏み潰され機能喪失した。


 (ロボットなら、手加減する必要も無い!)


 モヴァイターが大挙して現れるようなら、二人とも対処に難儀しただろうがさらに奥から現れる増援もまた同じ機械人形だった。さすがに海底の研究所に生身の身体を持つ人間を多数配備するわけには行かなかったのだろうか。推測をしながらも丈一郎はバトルギアコートで強化された回し蹴りで次々と機械人形達を鉄屑に変えていった。寅子もまた華麗に人形の攻撃をかわしながら鋭い爪で細い手足を切り刻んでゆく。


 「委員長、大丈夫!?」


 「うん!……でも、何か聞こえない?遠くから大きなものが……」


 寅子がそう言ううちに丈一郎のかぶるヘルメットのサウンドセンサーも聞き慣れない不快な音をキャッチした。何か巨大なものが転がって近付いてくるような……。


 音の正体はすぐに轟音を伴って接近してきた。


 「!?」


 通路の向こうから巨大な丸太のような円柱が転がってくる。丸太と違うのは暗い灰色の金属色をしていて、通路の壁に当たる度に耳障りな衝突音と火花が散る事だ。直径は丈一郎の背丈ほどもある。突っ立って待っていれば、目の前でぺしゃんこになってゆく機械人形と同じ運命を辿るのは間違いないだろう。


 「くっ!」


 ボックスに手を回す。ありったけの手裏剣型爆弾、ステイルスローを手に取り円柱の手前の床へ投げつけた。床に突き刺さったステイルスローが2、3回チカチカッと光り次々と爆発して、衝撃波が金属柱を跳ね上げる。空中で回転が弱まった所に寅子が手刀を当てて押し返す。ドン、ドンと床の上で転がって灰色の金属柱の動きが静まった。


 (いや……!)


 円柱は滑らかな表面ではなかった。大小の金属が重なるようにしてその形を成している。その繋ぎ目が蠢くように広がり、柱から唐突に巨大な……腕が生えて床を殴りつけるように叩きつける。二人が呆然とそれを見ているうちにもう一本の腕、両脚、そして頭部とおぼしきユニットが中央からせり出す。金属柱は巨大なゴリラのような戦闘メカへと変貌した。


 グオオオオオッ!


 機械でありながら雄叫びを上げ、太い腕を振り上げながらメカゴリラが丈一郎達に接近してきた。変形が終わった瞬間に攻撃態勢に入っているのだろう。


 「俺が様子を見る」


 丈一郎は寅子を制するように平手を見せて前に出た。それから剣道の試合のように素早く歩幅を狭めて接近する。ブン!と意外な速さで金属の腕が振り下ろされるのを丈一郎は冷静にステップで避けた。速いには速いが犬怪人や寅子ほどではない。しかし丈一郎が立っていた床は10センチほども大きく凹んでいた。


 メットの中を冷や汗が流れ落ちる。さすがに戦闘用ヘルメットの中の汗を拭う機能はついていないらしい。緊張しつつも二発目のパンチをかいくぐり懐に入り込む。ワン、ツー、最近体に馴染み始めた(ゲームでだが)ボクシングの動きで鋭くジャブからストレートを撃ち込んだ、が。


 (……頑丈だな)


 予想はしていたが相手の装甲には軽いくぼみが出来ただけだった。丈一郎は一切手加減はしていない。このマシンを倒すには正攻法では難しいようだ。


 「加賀君、上!」


 丈一郎が視線を上げると、メカゴリラの顔と視線が合った。その口が大きく開き火炎が燃えているのも目に入る。


 「うおおおおお!?」


 猛烈な勢いの熱風を伴って吹き付けられる火炎を後転で辛くも回避する。炎が辺りを舐めるように蹂躙し鏡のように滑らかだった床が真っ黒に焦げて異臭と煙が立ち込めた。


 続けて振り下ろされる鉄拳。しかしその一撃はさらに速い一陣の白い風に阻まれた。寅子が丈一郎の前に瞬間移動でもしたかのように現れ、腕を取りその巨体を投げ飛ばしたのだ。灰色のゴリラが宙でもがき、一瞬の静寂の後自らが焦がした床へ叩きつけられる。


 「すっ……げぇ……」


 思わず正直な感想が口から漏れる。あのタイミングで割り込み1トンは下らないだろうメカを投げ飛ばすのはジェイガーとなった丈一郎でも無理だろう。寅子は肩で息をしているが戦闘の構えを解いてはいない。あの体が元に戻るまでは絶対にケンカはしないでおこうと丈一郎は場違いな戒めを心に課した。


 「ありがとう、委員長!」


 「うん、でもあまり効いていないみたい」


 ゴリラはギシギシと不快な音を立てて、どこか動きがいびつになっているもののゆっくりと立ち上がり振り返った。さすが宇宙人の超技術だな、と丈一郎は嫌味に思った。


 「私が行く」


 「え?危ないよ!」


 「大丈夫、ああいうデカブツは背中に回りこんでやればいい、WSUで覚えた」


 「WSU?」


 寅子はメカゴリラを不敵な視線で睨みつけた。


 「アメリカの女子プロ!」


 「はぁ!?」


 そう言って寅子はバッと飛び出した。


 (委員長、プロレスとか見るのか?)


 悔しい話だが戦闘能力は丈一郎より寅子の方が上のようだ。丈一郎は苦い顔をしてそのサポートをするべくホルスターから光線銃、レイジングシューターを抜いた。


 言葉通り、寅子はゴリラの足元をくるくると回りながら長大なクローで攻撃を仕掛けてゆく。丈一郎よりも危なげなく攻撃をかわしているが、その爪もまた装甲を寸断することが出来ない。早くも戦闘は膠着状態に陥りかける。


 「タァ!」


 寅子もそれを嫌がったのか動きを変えた。振り下ろされた腕を踏み台にして相手より高く飛び上がりながらその頭部に踵を振り下ろす。豪快な音と共にメカゴリラの顔面が砕けた。丈一郎が見ても息を飲むほど鮮やかな一撃だ。メカゴリラも姿勢を崩して後ずさってゆく。


 「やったぁ!」


 歓声を上げて寅子がぴょんぴょんと丈一郎の所へ飛び帰ってきた。


 「すごいね委員長!」


 「スコーピオライジングって技なの!一度やってみたかったんだぁ!」


 「そ、そうなんだ……」


 満面の笑みで(目元は仮面に隠れている為わからないが)戻ってきた寅子と、先程とは違う冷や汗をかきながらハイタッチする。口元がヒクついているのはわかっているが止める事は出来なかった。


 そうしている内に体勢を再び立て直したメカゴリラが再び二人に近付いてくる。寅子も真面目な表情に戻り丈一郎と並んで構えなおした。


 「……とは言っても、この調子じゃ時間かかっちゃうね」


 「レイヴァンさんにだけ探索を押し付けるわけにもいかないし、いい加減片付けてしまいたいな……ん?」


 二人は寅子が一撃を加えたゴリラの頭部を見る。無残に砕けただけでなく時折漏電しているのか電流がスパークして弾けるのが見えた。


 「あそこにダメージを与えれば、もしかしたら」


 「私が足止めする、加賀君、お願い!」


 止める間もなく寅子はメカゴリラに突撃した。振り下ろされる両の拳を見事に受け止め、ガッチリと組み合う。対格差の全く異なる両者のパワーは拮抗しているようだが、寅子の美しいラインの脚から伸びる爪が時折床を引っかいて嫌な音を立て始めた。若干寅子が押されている。


 「委員長!」


 「つ、強い……加賀君早く!」


 丈一郎はすぐにレイジングシューターを両手で構え狙いをつける。寅子の頭の上、残骸となったゴリラの頭部にレーザー光線が次々と突き刺さり小爆発が起きた。寅子も頭上から降り注ぐ火の粉と衝撃に目を閉じて必死に踏ん張る。


 「まだか……!?」


 不意にレーザー光線が止んだ。引き鉄は空しくカチカチと音を立てるだけで反応が無い。


 (弾切れ!?)


 元々レイジングシューターはレイヴァンのアストラルバスターと違い護身用に持たされている装備だ。威力もそれほどではないし(生身の人間が撃たれれば間違いなく即死するくらいはあるが)装弾数も10発そこそこだった事を、丈一郎は今更思い出した。


 「くそっ!」


 レイジングシューターを投げ捨てる。いまだ動きは止まらないがレーザーの何本かは確実にメカゴリラの体内を焼き機能不全を引き起こしているようだ。強力な一撃を加えれば止めを刺せるかもしれない。


 「うおおおおっ!」


 猛然と丈一郎が助走を始める。バトルギアコートのサーボモーターが丈一郎の動きをアシストし、その身体を高くジャンプさせた。


 「全、力!インパルスジェイキック!!」


 渾身の力を込めて足刀を首元へ叩き込む。丈一郎の右脚はメカゴリラの胸元までえぐり込み内部からその屈強なボディを崩壊させた。


 フン!とゴリラから跳ぶように離脱して、寅子の横へ着地する。そのまま丈一郎は寅子の手を引いて距離を取った。


 「やった……か?」


 戦闘マシンの動きは完全に停止している。間もなくその全身から火花や電流が漏れ出すように散り始めた。悪い予感がする。


 (やばい……!)


 案の定、と言うべきか。ゴリラはお約束のように大爆発を起こした。戦いで深刻なダメージを受けていた通路がその衝撃で崩壊する。丈一郎は悲鳴を上げる寅子を抱きしめながら無数の残骸と共に落下に身を任せた。











 レイヴァンはやがて巨大なドーム上の空間に出た。取り囲む壁は通路のものとは違い強固に作られているようだ。


 物々しい雰囲気に歩みを止め様子をうかがうと、ふと背後に気配を感じた。


 振り返る前に、ガシャリ、と重々しい金属を揺らす音が響く。


 「銀河連邦のネズミが、よくよくここまでやってきたものだな」


 そこにいたのは、物々しいシルエットを持つ戦士だった。美しいグリーンの分厚い鎧を着込んでおり、その鎧からは鋭いトゲがいくつも生えている。右腕にぶら下げた鉄棍は打撃部分が大きく、電信柱ほども太い。それを軽々と肩に担ぎながら戦士はのそりとレイヴァンに近付き始めた。


 「俺は『ビゲル・ゲフィズン』戦闘隊長、ギャベリクだ。名を聞こう。覚えておいてやる」


 「銀河連邦警察、機動捜査官、レイヴァン」


 短く答え構えを取る。


 「研究室はどこだ?とか聞かないのか?」


 両手を広げ、馬鹿にするような態度と口調でギャベリクと名乗った男が言う。首を回すたびに兜にしつらえられた鬣のような飾りがレイヴァンを煽るかのように揺れる。


 「お前のようなタイプには身体に聞く方が早い」


 「気が合うな!」


 レイヴァンが床を蹴るのとギャベリクが棍棒を構えるのは同時だった。巨大な金属の塊を、重厚な鎧を着込みながら高速で振り回す。レイヴァンもそれを体捌きのみでかわしながら接近をするが一撃を与えられるあと一歩が踏み込めない。


 「ちょこまかと、やるじゃねぇか!」


 ブゥ……ォオオ!


 さらに勢いをつけて棍棒が下からレイヴァンの顎目掛け振り上げられた。至近距離に留まることに限界を感じたレイヴァンがそれをギリギリで避け、苦々しくギャベリクを見ながら距離を取る。


 「得物が無いなら貸してやろうか?」


 「そんな棍棒ごとき素手で充分さ」


 「抜かすんじゃねえ!」


 怒声と共にギャベリクが踏み込んでくるがそれはレイヴァンの狙い目だった。軽く膝を折り、反動をつけカウンター気味に飛びかかる。


 「レイヴァントマホーク!」


 宙を舞ったレイヴァンの蹴りが、棍棒の柄の繋ぎ目に突き刺さる。見事に棍棒は打撃部分がもげ落ち、グァン!と重い音を立てて転がった。


 ギャベリクがしばし呆然と軽くなった手の得物を眺め、それを背後に放りなげた。


 「華奢な捜査官様が……随分と乱暴じゃねぇか」


 「仕事だからな、悪く思うなよ」


 「その口も黙らせてやる」


 腰から肉厚の刃を持つ剣を抜き、今度はギャベリクが間合いを詰めてゆく。レイヴァンが再び接近戦に備えて身構えるのを見てギャベリクの凶悪な牙が並ぶ口がニタリと嗤う。


 (!)


 接近するギャベリクの胸の装甲が開く。中から六門の小型の大砲のような砲口が現れ、一斉にレイヴァンに向かって火を吹く。


 「フリーゼルシールド!」


 レイヴァンの叫びと共に、掲げた両手の前に白銀の壁が出現した。ギャベリクから放たれた火弾はその壁と相殺するように対消滅を起こし、六つ目の火弾を受け止めたところで壁も消失する。


 「よく防いだな!」


 賛辞を述べながらギャベリクが横薙ぎに振る剣を屈んで避けながら、レイヴァンも下段回し蹴りで反撃する。しかしそれも見抜かれていたのかギャベリクは重い鎧もものともせず身軽に宙に跳び回避した。


 「アストラルバスター!」


 着地を狙う。一度跳べば着地するまで自由な回避は出来ないはずだ。レイヴァンが素早く抜いた銃から圧縮されたエネルギー弾が連続で発射される。


 しかしギャベリクは表情を崩さなかった。剣を構え、素早く回転させる。レイヴァンのエネルギー弾は剣に弾かれ周囲の壁を破壊した。


 「なっ!?」


 さすがにレイヴァンも驚愕する。怪力で敵を蹂躙するパワータイプの戦士かと思っていたが、予想以上に出来るようだ。戦闘隊長という肩書きは伊達ではないのだろう。


 最後のアストラルバスターの弾丸も、やすやすとその剣に弾かれ天井へと突き刺さる。


 ドォ……ン……。


 壁とは違い、天井に弾かれた弾丸は何かの装置を破壊したようだった。


 「ヤベェ、かな?」


 チラリとその天井を見て小声で漏らすギャベリクに、レイヴァンは腰に手を回しながら接近を仕掛けた。


 「レイジングセイヴァー!」


 レイヴァンの手に輝く粒子剣が握られる。振りかぶった粒子剣はギャベリクの剣と激しく打ち合い、辺りに激しい剣戟の残響が木霊する。二人の頭上では、重大な装置が機能停止しつつあったのだがレイヴァンもギャベリクもそれには気付く余裕はなかった。







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