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突入



 集合時間ぴったりにV-ルゼスタに到着した丈一郎の前には、レイヴァンとハルナ、そして私服の水天宮寅子がいた。


 丈一郎が驚いて声を掛ける前に寅子が口を開く。


 「加賀君、いつも五分前行動って言ってるでしょ」


 「あ、すいません……じゃなくて、なんで委員長がここに?」


 ハルナが少し呆れ顔で丈一郎の肩に手を置いた。


 「丈一郎君、昨日の夜に寅子ちゃんに研究所の位置がわかったってメール送ったんだって?」


 「え?ああ、そういえば……あ!?」


 ようやく丈一郎も自分のミスに気が付く。そんな事をすれば責任感の強い寅子がどう考えるか。


 「当然私も行きます。自分の事なんですから」


 「何度も考え直してもらうよう言ったんだが、彼女の意思は固いようだ」


 レイヴァンも珍しく少し困った顔を見せている。丈一郎は慌てて寅子の肩を掴んだ。


 「駄目だよ、委員長だってアイツらがどんなに危険な連中かわかっているだろう?」


 「じゃあ危ないのは加賀君も一緒じゃない。聞いたら『ビゲル』と戦うようになったのも最近なんでしょう?」


 「そ、そうだけど……でも、俺はバトルギアコートを貰ってるし……」


 「それ着けても、変身した私とどっこいどっこいだったじゃない」


 う、と言葉を失う丈一郎にやや得意気な顔でそう言ってから、すぐに真面目な表情に戻った寅子が続ける。


 「加賀君が私を心配してくれる理由はよくわかる。でも、当事者は私なの。こんな目に合わせられて仕返しだってしたいし、この変身があれば足手まといにだって……お願い、一緒に戦わせて」


 「委員長……」


 押し黙る若い二人にレイヴァンが歩み寄る。


 「確かに我々も戦力が充分とは言えない。恥ずかしい話だが水天宮さんの協力はありがたい。ここは三人、力を合わせて作戦を無事成功させよう」


 レイヴァンの表情から伺うに熟慮の末決めた事なのだろう。場数を踏んだプロがそう決めたのであれば、丈一郎にももう言う事は無かった。寅子と顔を見合わせて頷いて見せる。


 「よし、じゃあ早速ミーティングだ。座ってくれ」


 ミーティングルームの席には例の未来的な容器に入った飲み物がそれぞれ用意されていた。栄養満点の特製ドリンクよ♪と言うハルナのウィンクを見て丈一郎が一口飲む。確かに元気になるような成分がたっぷり入っている感じはするが、予想通りなんとも言えない不可解な味だ。横を見ると寅子もしかめ面をなんとか隠そうという顔をしていた。


(まぁ、梨依菜の苺料理に比べればそんなに酷いものでもない、かな)


「よし、作戦を説明しよう」


 レイヴァンがテーブルの端末のスイッチを押すと、中空に巨大なホタテ貝のような形の建造物の画像が浮かび上がった。ホログラムという奴だろう。


 「例の大学生からの情報で、駿河湾の海底に『ビゲル』の怪人実験場がある事が判明した。無人偵察艇で得た情報がこの外観だ。内部は不明だが進入口とおぼしき部分は推測できる。ここだ」


 ホタテ貝の下側、中央からやや離れた部分が赤く明滅した。


 「強行特殊戦車『ドルランザー』で我々三人はこの隔壁を突破し侵入する。その後、私と、丈一郎君・水天宮さんの二組に別れ研究室の捜索に当たる。君達二人は脱出の事も考えて『ドルランザー』の近くを当たって欲しい。私は出来るだけ派手に暴れながら中心部に向かう。状況次第では私を置いて二人で脱出する事も念頭に置いておいてくれ」


 「いいんですか?」


 丈一郎はレイヴァンを信頼しているが、心配そうな表情の寅子を見て一応そう言って見せた。


 「V-ルゼスタの支援があればこの程度の施設から一人で脱出するのは難しい事ではないさ。私に取っては二人を無事に親御さんのところへ帰すほうが重要な任務だ」


 レイヴァンもいつも通り白い歯を見せて爽やかに答える。寅子の表情が少し緩んだのを見て、続けた。


 「重ねて言うが、研究室の捜索は私が重点的に行う。二人の最優先事項は無事に脱出する事だ。くれぐれも頼むぞ、丈一郎君」


 「わかりました」


 寅子の安全も自分にかかっている。丈一郎は改めてその責任の重さを噛みしめながらレイヴァンに答えた。


 「よし、V-ルゼスタはまもなく駿河湾上空に到達する。出発は10分後、各自準備にかかってくれ」








 特殊戦車『ドルランザー』のコクピットは思ったより狭かった。一人で操縦することが前提の車両で、丈一郎と寅子は後部の狭い予備シートにぎゅうぎゅうに押し込められるように身を寄せ合って座り込んだ。


 「ごめんね、狭苦しくて」


 寅子の柔らかい二の腕と太腿の感触をこれ以上無く感じつつ丈一郎はそう詫びる。


 「ううん……大丈夫」


 緊張しているのか、寅子は丈一郎と目を合わさずに答えた。その頬は火照っているかのように僅かに赤く染まり、何度も横で唾を飲み込む音がする。


 「大丈夫、俺がちゃんと守るから」


 「……うん」


 寅子の小さな手に右手を重ねると、寅子も少し遅れて丈一郎の手を握り返した。汗ばんではいるが、震えては収まったようだった。


 操縦席からレイヴァンが振り返る。


 「二人とも、用意はいいか?」


 元より身一つ、持って行くものも無い。気持ちの準備の事を言っているのだろう。丈一郎と寅子はレイヴァンの目をしっかり見て頷いた。


 「よし、『ドルランザー』発進!」


 V-ルゼスタの下面ハッチが開き、巨大なドリルを備えたイエローのボディを持つ『ドルランザー』が滑り落ちるように発進する。まるでジェットコースターの急滑降のように勢い良く海面に向かい、盛大な水柱を上げて三人は海中に潜り込んだ。


 「す、すごい……」


 海底まではあっという間だった。光の届かない深海の様子を超音波ソナーで可視化するディスプレイの、美しい海底世界の様子に丈一郎と寅子が見とれる。が、すぐに巨大な建造物の姿を認め、緊張で無意識に身震いするのをお互いに感じ取った。


 東京ドームよりは一回り小さいだろうか、それでも圧倒的な存在感を放つ不気味な研究所を見て改めて丈一郎は侵略者の脅威を思い知った。自分の住む星でこんなに好き勝手されて嫌な思いをしない者はいない。


 「いくぞ!」


 レイヴァンがペダルを踏みスムーズに研究所の下側に『ドルランザー』を潜りこませる。滑らかな曲面の外壁に、一箇所窪んだ部分を見つけ加速しながら直進する。


 「ショックに備えろ!」


 丈一郎と寅子は身を固くした。『ドルランザー』の先端の大型ドリルが激しく回転しながら進入口の隔壁を突き破る。見事に『ドルランザー』は研究所の中に半身を埋め込むように侵入した。


 「よし、急ごう」


 速やかに操縦席を立つレイヴァンに従い二人もコクピットから外に出る。


 隔壁の中は資材搬入庫だろうか、充分に広いスペースがある空間だった。奥に巨大なシャッターがあり、その他に人間サイズの出入り口の扉がいくつか目に入った。そうしている内に緊急事態を知らせる警報だろうか、サイレンが所内に響き渡り始めた。


 「さすがに対応は早いな。私はあのシャッターを破り中心部へ突っ切る。二人はあの扉から少しずつ進むんだ。危なくなったらすぐに引き返せ、いいな!」


 「はい!」


 丈一郎の返事を聞き終える前にレイヴァンは『電装』しながらシャッターへ突撃した。アストラルバスターが激しい閃光と共にシャッターを焼き、大穴を開ける。


 「委員長、行くよ?」


 寅子はかなり緊張しているようだが、その目に怯みは感じられない。しっかりと丈一郎を見てこくりと小さく首を縦に振る。


 よし、と丈一郎は扉に走り出した。













 その三人の様子を監視モニターで見ていたパズニベーノはアゴに手を当ててニタリと笑みを浮かべた。


 「まさか三人も侵入してくるとはな……逆に都合がいいというものだ」


 銀河連邦警察が三号に接触したという報告を受け、近々ここへ侵入してくるだろうという予測はついていた。わざと侵入者撃退用の防衛機雷を撤収し、侵入してきた捜査官を捉えてその装備を研究しようと画策していたのだが、まさかあの小娘まで連れて三人で来るとは予想していなかった。首尾良く三人とも捕まえれば『ビゲル』の邪魔をする者は当面排除できる上に、アバズレ……いやハレンチックタイガーだったか?も再洗脳して戦力に加えることが出来る。あの改造は地球での自分の最高傑作と言ってもいい。


 通信用のボタンを皺だらけのねじくれた枝のような指で押し、警備担当班に遠隔で指令を下す。


 「あの侵入してきた車両はワイヤーで拘束しておけ。開いた穴は車両ごとコーキングで埋めろ。侵入者には防衛用ガードマシンを出せ。娘は拘束しろ」


『了解しました!』


 部下のモヴァイターの返信を受け、自らも警護用の新型ガードマシンを緊急稼動させる為に整備室に向かおうと立ち上がったパズニベーノは、ふと音も無く背後に現れた二つの気配にゆっくりと振り向く。


 「ワシの研究所に無断で踏み込むとは、今日は無礼な連中が多い日だのう」


 そこには鈍く光を反射する黒い鎧に身を纏った屈強な男と、さらにそれより分厚く、体のあちこちに鋭いトゲを配した装甲を持ち、巨大な鬼の棍棒のような武器を持つ男が立っていた。


 「ゾークビゲル様直々のご命令でな。貴公に協力しろとの事だ」


 静かに、だが僅かに尊大な態度を含め漆黒の鎧の男が答える。さらに横の緑のトゲ装甲が、ガシャリと音を鳴らして前に出た。


 「そういうわけだ、まぁ我々に任せて、安心してチマチマ研究を続けていていいぜ」


 「オマエが自慢そうに見せびらかせている装甲も、ワシのチマチマした研究の成果なのだがな」


 明らかに不満そうに言うパズニベーノに、憤慨して歩み寄りそうになる緑の男を、黒い鎧の男がスッと右手で制した。


 「よせ……博士殿の安全は我々が保証しよう。安心して貰いたい」


 「フン、まぁ自分の尻が拭けんほどオイボレでもないが、今日はお主らにお任せしようかのう」


 機嫌は直さずにパズニベーノは振り返って自分の研究室の方へ歩き出した。黒鎧の男は緑の方に指を指し示して、その後に続いた。指し示した指は、研究室を探し疾走するレイヴァンを映し出すモニターに向けられていた。






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