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潜入(前)






 「すいません、レイヴァンさん」


 「何がだ?」


 V-ルゼスタの中でうなだれてそう言う丈一郎に、意外と言う顔をしてレイヴァンが応えた。


 「落ち着いて考えれば……罠だと見抜けたはずなんです。そうすれば、最初からレイヴァンさんと二人で委員長を取り返すことも出来たかもしれなかったのに……」


 「まぁ、これが正規の捜査員なら始末書モノだが……」


 息をゆっくり吐きながらレイヴァンは椅子に座り脚を組んだ。


 「君は協力者だ。そしてまだ若い。友人を助けたいと思い身を挺すその勇気があるから、私は君をスカウトした。私達もまさか女子高生を怪人に改造されるなど想定できなかったしな」


 「でも、あんな棒立ちでボコボコにされるのはもう勘弁だわ」


 スライドドアが開き、少しむくれた顔でハルナが入ってきた。手には『電装』のキーとなるペンダントが光っている。


 「直ったか」


 「ええ、ご注文通り装甲強度を一割程度上げてあるけど…その分重くなってるし稼働時間も減ってるわ。第一、一割しか上がってないんだからあのツメを弾き返そうなんてくれぐれも思わないことね」


 ハルナが厳しい口調でそう言いながらも、丈一郎の手を取ってペンダントを渡した。その感触から優しさを充分に感じた丈一郎は素直に頭を下げてペンダントを握る。


 「ごめんなさい。次はもっと上手く戦います」


 「そう願いたいわ。でも何故丈一郎君のクラスメート、それも女の子を怪人になんかしたのかしら」


 「父親を人質に取られているのかもしれんが……何故水天宮氏を誘拐したかが判明しないとなんとも言えんな」


 丈一郎も首を捻る。父親をモヴァイターとして誘拐したのなら、その娘の寅子を怪人にするだろうか。戦力にしたいのなら父親を改造してしまえばいいのではないか?


 「で、どうするの?」


 ハルナからの問いかけにレイヴァンが腕組みをしてううむ……と唸る。


 「コロンボ氏が、俺に丈一郎君のピンチを伝えた後、どうも何か奴らの尻尾を捕まえたような事を言っていたんだが……」


 そこに、ピリリリリと全員のリストウオッチからコール音が鳴り響いた。ハルナが急いでミーティングルームの壁にある通信モニターのスイッチを押す。画面に現れたのは夕暮れを背にしたコロンボだった。葉巻を口から離し、勢い良く煙を吐く。


 「みんな揃っているのか。丁度いい、水天宮氏の居所に目処がついた」


 「本当ですか!」


 丈一郎が勢い良く椅子から立ち上がる。もし寅子が父親を人質に取られて戦っているのならここから解決の糸口を掴むことが出来るかもしれない。


 「場所はどこですか?」


 レイヴァンも立ち上がりながら革ジャンを掴む。


 「港の使われていない倉庫……通称八番倉庫だ。そこに、水天宮氏の所へ豆を納入していた業者がここ数日出入りしているらしい。クサイと思わないか?」


 「なるほど、さすがコロンボさんだ。行こう丈一郎君。こんなヤマはさっさと片付けるに限る」


 「はい!」


 事件解決のチャンスが見えて、丈一郎の気力は復活した。一刻も早く寅子を助けたい。二人はハルナに見送られてミーティングルームから走り出た。








 「首尾はどうか」


 薄暗い研究室の中、通信用の巨大なクリスタルに映し出されるゾークビゲルにパズニベーノは恭しく頭を垂れた。


 「ハッ、上々であります。誘拐した技術者の作る食べ物は、我々が独自に開発したものよりも栄養価が高く、モヴァイターや怪人の健康状態は改善されております。また、その娘を素体とした新型改造実験の結果も良好で、銀河連邦の手の者もやすやすと撃退出来る性能を示しました」


 大首領、ゾークビゲルはその硬質な表情に満足そうな笑みを浮かべた。


 「食糧問題はどこの星でも難しいものだな、しかし重要なファクターである。よくやった」


 「ハハァッ」


 「だが、ヤツラとて無能の集まりではあるまい。警戒は厳にせよ。モヴァイターと怪人の拡充も滞りなく進めるのだ」


 「閣下の御心のままに」


 怪しく光を放っていたクリスタルが、元の暗い灰色の姿へ戻る。クリスタルを背にし、奇妙な金属のパイプを咥えて、パズニベーノは緑色の煙を吐いた。薄れ行くその緑煙の先に、制服姿の寅子が立っている。


 「我々のボスは、実に細心、慎重じゃな……気が弱いと思うかね?」


 寅子は漂ってくる煙に顔を背け、苛立たしそうに口を開いた。


 「お父さんは、約束通り解放してくれるのよね?」


 「フン……まずは必要な生産量を確保できるよう協力してもらう。お前の父親の力が無くてもあの……トウーフ、と言ったか?アレを生産できるようにならんとな」


 寅子が、そのやや幼い端正な顔に苛立ちの表情を見せる。奥歯がギリッ、と鳴るほどに。


 「お前は私の試作中の改造遺伝子と予想以上のマッチングを見せ、予想以上の力を身に着けた……感謝したまえ、お前の強く、堂々とした美しさが欲しいという願望が発現した結果なのだからな」


 「私は、こんな事……!」


 叫ぶように否定する寅子に、パズニベーノはニヤリと笑いながらパイプを振った。その横にあるフラスコの中の不気味な液体がボコボコと泡を立て始める。研究室の中に霧のように煙が立ち込め始めた。


 「隠しても無駄なのだ。我輩が作る改造遺伝子は欲望に反応し素体を成長させる。大人しそうなお前さんの中にそれだけの願望が閉じ込められていたのだ。言わば、我輩がお前さんが求める姿を与えてやったと言ってもいい。感謝して我輩の為に戦うのだ。父親を解放して欲しければな。ヤツラを撃退できれば、元の姿に戻してやろう」


 寅子は耐え切れなくなり無言で研究室を後にした。パズニベーノは、その寅子にはさして興味も無いようにフラスコと試験管を手に取り始めた。









 

 倉庫群から離れた船着場の端で、コロンボは海鳥にパンくずを撒いてやっていた。ウミネコかカモメか……鳥に詳しくない丈一郎にはその鳥の群れが何だかわからなかったが。


 「お待たせしました」


 レイヴァンと丈一郎が駆けてきた為、海鳥達が一斉に夕暮れ空に飛び立つ。それを仰ぎ見ながら、コロンボは葉巻を捨て履き古した革靴で踏みつけた。


 「あれが八番倉庫だ」


 コロンボが親指で示す先に、夕陽を背にして影絵のように黒く染まった倉庫があった。大きい、という以外は特に特徴も無い、どこの港にもあるようなカマボコ屋根のシンプルな倉庫。


 「港に出入りする船が減ったせいで、バブル崩壊以後は只の荷物置き場……港の人間もどのくらい使われていないのか、中に何が入っているのかも知らない始末だ。悪の組織が使うにはもってこいといった物件だな」


 「あそこに、委員長……水天宮さんのお父さんが?」


 倉庫を睨みつける丈一郎にコロンボが頷く。


 「大豆業者が夜中にあの倉庫の近くで何度も目撃されている。水天宮氏と取引のある業者だ。早朝には排気口から湯気も上がっていた。そして数日前に水天宮氏らしい人物を見かけたという話もあった……あそこにいる可能性は充分に高いと私は思うが……」


 「豆腐をあんなところで作っている意味は?」


 レイヴァンが訝しそうに言う。コロンボはその問いに頭を振った。


 「さすがに悪の怪人が豆腐を作らせる事情は推測できんが、それを言うならあの犬男もわざわざあんな能力を与えられながら変態行為しかしていなかったしな、普通の犯罪者と同じ様に考えてはいけないと思っている」


 「なるほど」


 レイヴァンは納得したようだ。拳を鳴らし、よし、と気合を入れている。丈一郎も腑には落ちないがとにかくやるべきことをしようと気を引き締めた。


 「丈一郎君」


 「はい」


 レイヴァンにいつもよりやや硬いトーンで名前を呼ばれて、丈一郎はその顔を見た。


 「君をまた、危険な目に合わせるのは心苦しいが、ここは迅速な救出を優先したい。私とコロンボ氏は速やかに水天宮氏を捜索、救出する。君には正面から飛び込んで派手に暴れて敵の気を引いてもらいたい。身に危険が及んだ時は自分の判断で撤退してくれ」


 「派手に……ですか?」


 「ドア何枚か位なら、私が後で丸く収めておくよ。頼めるかい?」


 レイヴァンは言葉通り申し訳無さそうな顔をしている。どこかズレているが実直で正義感に溢れるレイヴァンを、丈一郎は信頼していた。


 「わかりました、精一杯暴れてきます」


 「すまんな、勝てない相手に意地を張ってケガをせんようにな」


 コロンボは寅子の事を言っているのだろう。丈一郎は無言で頷いてレイヴァンとコロンボに短く握手した。


 「じゃあ、先行します。委員長のお父さんの事、よろしくお願いします」


 「ああ!」


 レイヴァンの力強い返事を見て、丈一郎の中の不安は引っ込んでいった。与えられた仕事は重要かつシンプルだ。ここは、行動あるのみ。人気の無い倉庫群に向け走りながら構えを取る。 


 「『電装』!」


 夕闇を引き裂く閃光と共にバトルギアコートが丈一郎の身体を包む。全速力で走るその勢いのまま、丈一郎は八番倉庫の通用口ドアを蹴破って内部に飛び込んだ。


 倉庫の中は照明もつけられていないため、ほぼ闇夜と言ってもいい位の薄暗さだった。巨大なコンテナや段ボールが迷路のように並べられている。そのコンテナの上から、最早お馴染みとなった仮面の人影が次々と現れた。モヴァイター達だ。それぞれが武器を携えて戦闘態勢を取っている。


 (こっちの襲撃はお見通しって事か)


 丈一郎はヘルメットの中で小さく唇を噛んだ。ならばこそ、敵を引きつける為に大暴れしなくてはいけない。


 「水天宮さんは返してもらう!行くぞ!」


 倉庫中に響き渡る大声を上げ、丈一郎は一番高いコンテナの上に飛び上がり、モヴァイターに襲い掛かった。高所を取れば上空からの攻撃を警戒しなくてもいい。


 「小僧がッ!」


 大柄なモヴァイターが金属バットのようなものを振り回しながら襲い掛かってくる。避ける足場が無いと判断した丈一郎はあえてその一撃を左腕で受けた。強化された装甲はビクともせず、逆に相手の武器が粘土のようにぐにゃりと曲がり、モヴァイターが大柄なその身体を怯えたように後ずさりさせる。


 「ゥラア!」


 気合一閃、丈一郎の足刀蹴りが決まりモヴァイターは床面まで落ちていった。全力ではなく、あくまで吹き飛ばす程度に手加減を心がけたがアバラの二、三本はやってしまったかもしれない。が、丈一郎には吹き飛ばした男を気づかう暇は無かった。新たに二人のモヴァイターが丈一郎のいるコンテナへよじ登ってきたからだ。さらに他の連中も取り付き始めている。


 丈一郎は素早く上がってきた二人を殴りつけて、ひるんだ所を一本背負いとジャイアントスィングで下へ叩き落した。それから、少し離れたコンテナへ大きくジャンプしつつ腰のレーザー銃を抜く。


 「レイジングシューター!」


 輝くイエローの光線が銃口から放たれ、暗い倉庫内を太陽のように照らしながらそれまで立っていたコンテナを爆砕させた。よじ登ろうとしていたコンテナがバラバラになり、モヴァイター達が破片と共に床面でもがく。


 (あまりやりすぎないようにしないとな……)


 これ以上無く派手に暴れているが、倉庫のモノを破壊しすぎてレイヴァンに余計な迷惑をかけるのは心苦しい。丈一郎はレーザー銃をホルスターに納め、接近してきたモヴァイターにラリアットを放った。








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