1桜吹雪の中で
目指せコメディー、だったのですが、どうなることやら、です
ある春の日。一人の少女が学園内を歩いていた。
桜吹雪が舞い散るそこは、とても美しく、幻想的だった。
桜に見とれるように、一度立ち止まった少女。髪を押さえて遠くを見れば、そこにいるのはまるで、桜の精。美しい顔立ちはまるで作り物で、思わず少女は立ち止まった。
その視線を感じたのか、彼は振り返る。
二人の視線が絡み合い、少女は、鼓動が高まり、喉の奥から何かがせり上がるのを感じた。
ザァッと一陣の風が吹いて、桜の花弁が一層美しく舞う。視界を遮るかと思うほどの一面の桜色。それほどの花弁だというのに、二人の視線は絡まったまま。少女は胸を手で押さえ、唇を震わせて、言葉を紡ぎだす―――のではなく吐血した。
「かはっ……」
意識を失ったのか頽れる少女。少年が彼女を見遣れば、苦しげな息を吐いていた。
††††
ふっと意識が戻る。気を失う前のことを思いだし、やっちまったな…と思う。あれってルスレーじゃん。
昔面識のあった彼は私の鬼門なのに……。しかもパワーアップまでしているみたいだ。私を殺す気か!
よく知った天井を見ながら考えていれば、保険医が私が起きたのに気がついて、声をかけてきた。
「スクローさん、起きたのね。良かったわ」
「すみません。いつもお世話になります」
「あらあら、今更じゃないの」
事も無げに言われてしまい、少し落ち込む。私は保健室の常連だ。ある体質のせいでしょっちゅうぶっ倒れてしまうのだ。
寝起きでうまくギフトを制御できていないから、ルイーズ先生の頭上にゲージが見える。そこには【ルイーズ・サクストン 存在値17】とある。まあ普通に一般人な数値だ。
さて、申し遅れましたが、私はベルリナ・スクロー。ちょっとした変なギフトと、生まれる前の記憶を持っていること以外は至って普通の人だ。
え?普通じゃないって?いいや、私は普通の人だ!何故ってそれはこれから分かるから言わないでおくよ!
ふう。それにしても疲れた。今日はもう寮に帰って眠ろう。疲れたし。
そう思って、ベッドから出て、少しの間立ちくらみに耐える。ルイーズ先生は支えてくれようとするが、大丈夫。もうこれは慣れた!心配するようなものではないのだ。
「それにしても先生驚いちゃったわー。スクローさんが倒れてかつぎ込まれるのはいつものことだけど、なんだかすっごくカッコいい男の子が運んできてくれたのよ?きゃーっ。お姫様抱っこよ!彼氏なの?」
「……チ、チガイマスヨー」
先生って独身でしたっけー?目が、ギラギラしてますよー。あら怖い。
まあ、それは置いておいて。………だからかっ!だから私はこんなに疲れているのか!私のギフトはそれである。存在値の高いやつに見られると、私は死にかけるのだ。
ギフト、とは、神様が生まれる前に祝福してくれた子供だけに宿る、魔法とは違う個々で違う、特殊能力のようなもののことらしい。……カミサマ?シュクフクってナンデスカ?
どうしてだか知らないし、どうしようもないことなのだが、私のギフトはそれだ。最早弱点である。
私は他人の存在値が見える。存在値というのは多分、この世界においての存在の大きさだろう。大きな力を持ったり何かを成したりする人は、大概が存在値が高い。運命の大きさというか、世界に持つ影響力というか。私もよくわかっていないが、そんなところだと思う。
それは人によって違って、私には彼らの頭上でピコピコして見える。小さい頃は皆見えると思っていたから、ファンタジー!!と叫んだりしていた。見えないと知って、私変な人みたいじゃん、と少し落ち込んだ。
それはともかくとして、私のことだ。私は生まれる前の記憶がある。つまりは、今流行りの転生者だ。あんなに流行っているのに、私は今世で私以外の転生者を見たことがない。何故なんだっ。
前世の私は地球と言う星の、日本という国で暮らしていた。あの快適さが恋しい。
そして生まれた私はギフトを持っていたのだが、調べたところ、ギフトの名前は【明所恐怖症】。
うん。なんのこっちゃと思うだろう。私もそう思った。明所って!閉所とかなら聞いたことあるのに!
私昼間活動してますよーってすごい思った。けれどこれは、存在値の高い人=明所、という括りらしい。確かにその明所ならめちゃくちゃ怖いですが!
存在値の高い人の括りについてだが、一般人は大抵存在値が低く、国王や世界を表舞台で動かす人は存在値が高い。
そして私は存在値の高い人に見つめられたり注目されたりすると、死ぬ。マジで。吐血がマジすぎてヤバイんだから。……それもギフトの一部に入っているのだろうが、物申したい。
カミサマ!これは、祝福じゃないだろ!呪いだろ!
まあそんな叫びが神様に届くわけもなく。
あのルスレーも存在値の高い人だ。そして、私のギフトは、私を注目する人の存在値も問題だが、私を注目し続ける時間の長さでその分の負荷がかかるようなのだ。
私の葛藤などお構いなしに、ルイーズ先生は言う。
「彼、すっごく心配していたわよー?」
ルスレー、心配するなら金をくれ!あ、間違えた。
「それに、スクローさんのことたくさん聞くから教えちゃった。テヘッ」
おでこにコツンと手を当てて、舌をだすルイーズ先生。さすがにそれは無理があ……ゲフンゲフン。目が怖い。
って、え、あ、ちょっと!
「……困るんですけど、それ」
今日一番の渋い顔をした私に、テヘペロしてくる。だから年れゲフンゲフンっ!すみませんでしたっ!
「取り敢えず、今日はもう帰ります」
「分かったわ。伝えておくわね」
まだ昼前だが、先生はいつものことだと良く分かってくれている。入学して3年目の春。長い付き合いの私たちだからだ。……少し虚しくあるが。
「寮まで帰れるの」とは聞かれない。帰れる帰れないではなく、帰るのだ。
「失礼しました」
「さよーならー」
鞄を持って保健室を出る。講義中だからか、酷く静かだ。そんな中を私はゆっくりと壁づたいに歩いた。
ルスレーの存在値、小さいときよりずっと高くなってた。今のままでもルスレーの存在値は普通の大人よりずっと大きい。きっと、ルスレーは出世して歴史に名を残す人のうちの、一人なんだろうな。
いやー頑張ってるねえ。誠に素晴らしい。……素晴らしいことなんだけど。困った。明日からまた鉢合うはめになったらどうしたらいいんだろう。私、死ぬぞ?
幸いなことに、その日はルスレーと接触することなく一日が終わった。
ま、ずっと女子寮に籠っていたからなんだけどね。
ありがとうございました




