後悔のない人生を
不知火道場。剣道、柔道、空手、合気道など武道を指南する名道場であかりの父不知火勝正が道場主である。兄は柔道、空手。あかりは剣道、合気道において負けなしで全国大会の常連で一二位を争うほど。
「ヤアアァァァ!!」
かけ声とともに鳴り響く竹刀のぶつかる音。審判である門下生が旗を上げる。
斜めにあげられた旗を見て、先ほど自分が打った突きが有効だったことが分かった。
「凄い!今日も試合負けなしだね、あかり」
そう言ってタオルを差し出してくるのは幼なじみである宮川薫。
「ありがとー、薫」
私は面と小手を外し、受け取ったタオルで汗を拭った。
薫は道場にいるものの門下生ではなく、お手伝いとして毎日来てくれていた。門下生に誘ったが、本人いわく「腕っぷしを上げるより、花嫁修行として女をあげたい」らしい。実際、ドリンクやタオルを用意してくれたり、備品の整理、大会が近付くと、情報収集や、差し入れを全員分持ってきたりといたせりつくせりで、門下生に厳しい父も薫には感謝してるためか普通に接している(普段厳しい事ばかり言われたり、されてる他の門下生としては普通に接しているだけでも凄いことだと薫を姉御のように慕っている子も多く、薫自身満更でもないようだ)。
「もうすぐ大会だからおじさん気合い入ってるね」
「うん、兄さんも今朝から気合い入りすぎてるよ」
「みたいだね、今おじさんと組み合ってるけど…熱入りすぎ、レベル高すぎて周り引いてるよ」
「あはは」
「笑ってる場合か!?もうあーなったら体力切れまでやっちゃうんだから…」
「大丈夫だよ、だってそろそろ…」
その時ガラッと扉が開いた。
「あんたたち!朝稽古終わりなさい!!」
開口一番に言いはなったのは道場主の妻であり私の母不知火ゆかりその人。母には厳しい父も熱の入った兄も素直に言うことを聞くため、あっという間に父は会社、兄は学校に行く準備。周りのものもそれにならい着替え始める。向こう見ずで時間なんて考えない者が多いため、頃合いの時間で母が止めに来るように決めていたのだ。初めは渋っていた父も会社に遅刻しそうになり、笑顔で提案した母を見てあっさりと了承。近くにいた兄が言うにはあの時の母、黒い笑顔の後ろに般若が見えたそうで、小さいころでも母に逆らってはいけないと学んだ。
「あかりも早く学校行きなさい。はいお弁当。薫ちゃんも」
「ありがとうお母さん」
「ありがとうございます!」
共働きの両親&家事&道場のお手伝いで忙しい薫にもお弁当を渡す母。一人で家にいるより賑やかな道場にいるほうが好きだと言う薫を不憫に思った母は薫にもお弁当を作るようになった。大事そうにお弁当を抱える薫に母は優しげに微笑んだ。
「いってらっしゃい」
「「行ってきます!」」