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KillEye  作者: 来海 莉穂
第一章 世界の扉
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Ⅰ <邪視> 第一章 世界の扉 8


 残された一人の青年は街灯からふわりと私の前に舞い降りてきた。手に持った大鎌を地に刺し、傷ひとつ負うこと無く着地する。するとどんな仕掛けだろうか、大鎌が鎖とワンポイントの鎌のモチーフがついたアクセサリーへと早変わりした。それを首に掛けた彼は、再び私の方へとその目を向ける。紫水晶のような瞳が私をまっすぐ捉えていた。


 「なぜ俺をかばった」


 思いもよらぬ冷たい言葉は私の胸に突き刺さった。当然のことをしただけだと自分の中では思っていたのだ。私は彼から目を反らす。自分の中でこれは衝撃以外の何物でもなかったのだ。命を救った相手は、元々私を標的として見ていたのだ。そう思うのも無理はないだろう。

 だが、ここで「はい」と答えることは、自ら標的は私です。捕らえてください。そう言うようなものになってしまうはずだ。私の中でこの眼帯の奥のモノは他人に知れ渡ることなどない秘密なのである。今ここで私が彼の死を回避させたことを能動的に行ったとしたと事実として認め、命を失わせたくなかったなど告げれば間違いなく私の秘密は外へとこぼれおちるのだ。自尊心、それが私の口を動かす。


 「かばってなど、いません……」

 「……まあいい。 お前自身にその能力の理解がないことはよく分かった」


 彼のその物言いは、明らかに何かを知っているものそのものであった。私の目のことも、きっと彼は知っているのだろう。

 それと同時に、標的としていつ自分の命が奪われるのだろうか、その不安が私の身を潰そうと、圧力をかけるように募っていた。これ以上、隠し切れない。やはり、嘘を重ねるなど私には無理だった。喉の奥から出そうと思っていた言葉がつまる。そろそろタイムリミットだろうか。先ほど手にしていたあの大鎌に貫かれる――。


 「ずっと抱えていたんだろう、その目を――。 お前は多くの物を壊し、更に人間を殺め、その分だけ自分を責めていたんじゃないのか?」


 固く閉じた目を開く。私が思っていた予想とは真逆の問いかけだった。その目を持っているならば、殺す。それが彼から発せられるものだと思っていた矢先のことである。

 しかし心のどこかでこう訊かれることを望んでいたのだろうか。私の中でずっと目と共に封じていたはずの涙が静かに両の頬を伝う。震えた身体がただ、ゆっくりとその問いにうなずくだけの力を与えていた。

 彼が私と目線を合わせるように屈み、肩にその手が触れる。そして優しく引き寄せ、気付いた時には私の身は彼の腕の中におさまれていた。その突然の行動に私は驚いたが、それもつかの間、人間にこのように肌の触れ合いがあるならば、存在するはずの温もりがまったくなかった。冷え切った身体に近くにあるはずなのに伝わらない鼓動、本当に生きているのだろうか、この世の人間であることを疑うほどだった。それほどまでに凍てついた身体に私の頬を伝う雫がいつのまにか彼に触れ、蒸発してく。表情は見えなかったが、彼の声色がまるであの時のバイオリンの音色のように強さと優しさを確かに感じさせていたのだ。


 「自分でも……何なのか知らないんだろう?」

 「分からない……どうして、こんなふうに、傷つけることしかできないのか……あなたは、知っているのですか……?」


 彼の腕の中で嗚咽を交らせながら問う。そこに羞恥などはなく、ただ何も考えることなどなく途切れ途切れの言葉を放つ。


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