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優弥と美姫と超能力と  作者: 一 一 
一章 入学と波乱と能力者と
3/24

2話 入学式とクラスと


 能力研究開発大学付属高等学校。

 通称、能大付属高校。

 日本の能力者が集められた学校であり。優弥たちが入学した学校。

 人越島は生徒だけでなく、教師やその他、島で働く社会人まで全員が能力者。能力を持たない「一般人」の介入を一切絶った孤島。優弥たちにとって、周囲が一般人ばかりだった今までとは真逆な環境。

 能大付属校の大きな特色として、普通の学校には存在しない特別な教育プログラムや生育環境が整備されている。

 能力研究開発大学、またはその付属の学校に通っている生徒たちは一般教養の他、自身の能力の知識や制御の仕方、一般人よりも厳格な倫理教育を受ける。

 生徒たちの生活に関しては、児童が小学生に進学するとほぼすべての子どもたちは親元を離れ、学生寮暮らしになる。親が人越島で子の面倒を見ることができるのは幼稚園に通う間か、親が能力者かつ島内で就職できた場合だけ。その他は特別な理由がない限り、島外へと出ていくのが通例。

 学生が親への連絡をとることは自由だが、主に彼らの世話や指導をするのは上級生たち。故に、人越島では年功序列による上下関係が明確にできあがり、世話をしてくれる年長者を敬い、常に年少者を気にかけて積極的に指導する姿勢が身につく生徒が多い。

 このような措置をとる主な理由は、両親の庇護から外れることにより、生徒自身の自律心を養うとともに、年代の離れた家族以外の能力者たちとの相互協力を得やすいよう、年少組の心理的ハードルを下げる役割を持つ。

 とはいえ、甘えたい盛りの年代から両親と離別するため、両親との別居により生徒が抱える多大なストレス、連絡を怠る生徒の家族間のつながりが希薄になりやすい、等の問題も存在する。

 一般人を排除した特殊な環境の中、人越島に集められた能力者たちは日々研鑽に励んでいる。

「ーーであるからして~」

 というようなことを入学式で聞かされた優弥、美姫、柚子。

 内部進学組がほとんどの学校で、先の説明は本来不必要。今年は優弥たちに配慮したのが見てとれる。わざわざ外部からの入学生があった、ということまで触れ、簡単に島についての説明をしていたことからも、学校側の気遣いがうかがえる。

 現在はそれも終わり、校長の有り難くも長い説法中。

 能大付属高校指定の制服に身を包み、どこの学校でも校長の話は長いのか、と変なところで感心する優弥。

 すでに船を漕いでいる柚子。

 優弥の後頭部に胸を押しつけ、つむじに頬を乗せてニヤニヤしている美姫。こちらも深い夢の中。

 優弥とて柚子や美姫と同様、素直に微睡みたいと考えている。しかし、一度目を閉じてしまうと頭から伝わる柔らかい感触に、思春期の体は否応なく反応してしまう。よって、なるべく美姫の感触から意識をそらすため、仕方なく興味の薄い校長の話に耳を傾けていた。

 軽く周囲を確認しても、真剣に聞いているものはいない。大半は柚子や美姫と同じ状態。いかに年長者を敬うといっても、尊敬されやすいという程度で、厳しく取り締まられる程ではないのだとわかる。

(なあ、お前が外から来たやつだろ?)

 他の生徒の様子を観察していたところ、優弥に小声で声がかかる。

(そうだけど? 君は?)

(いや、名乗るのはいいけど、隣なんだし少しはこっち向けよ)

『う~ん、ユウくぅ~ん。……えへへへへ』

(ちょっとした事情で首が固定されてて。このままでよければ教えてくれない?)

 優弥の頭は幸せな表情の美姫により、がっちりとホールドされている。その状態では首など動かせない。拘束を外す手段もあったが、寝言混じりで気持ちよさそうに眠る美姫の様子から、優弥は遠慮して実行に移せないでいた。

 優弥の能力と幽霊の存在を知らないだろう声の主。首をひねりながらもそのまま話しだした。

(俺は新崎(しんざき)隆也(たかや)。お前と同じDランクの能力者だ)

(僕は神田優弥。よろしく。でも、どうして僕がDランクの能力者だって分かったの?)

(本土にいる能力者はここを出たライセンス持ちか、ライセンス所持を免除された最低ランクの能力者しかいないからな。資格試験を受ける年齢に達していない高校から入ってきた神田と、そこで爆睡してる見知らぬ女子は必然的に能力強度がDになる、ってことだ。能力者にとっちゃ常識だから、ちょっと考えれば分かるって)

 優弥たちが島外の学校にいた理由が、隆也の口にした内容にある。

 能力者たちは数が少ない。しかし、一般人よりも高い基礎能力を持つ。中には戦闘行為に関して素人であっても、軍隊を単身で相手にできる程の、強力な異能の力を備えている者さえいる。

 いわば能力者は、生得的に備わった兵器を携帯している個人。

 得体の知れない脅威を保有する能力者を恐れない一般人はかなりの剛の者。極めて少数派である。

 民主主義の思想が根強く残る昨今。能力者への恐怖から、彼らの生活空間を隔離する、酷い者は排除しようと考える一般人は圧倒的に多い。

 そういった一般国民の意見を尊重したのが、無人島の開発による能力者の隔離体制。そして、例外が最低ランクに位置づけられた能力者たち、ということになる。

 能力強度とも呼称されるランクはS、A、B、C、Dの五段階。ほとんどの能力者はDかCに分類され、ランクが高くなるごとに数が少なくなる。Sランクとなると、世界で十人といない、と言われているが、それはどの国も正確に把握していないため。それくらい希少な存在。

 また、異能の強さに限らず、能力者であることの証明である基礎能力の向上の度合いも、ランクの評価に影響している。

 問題のDランクだが、一般人に毛が生えたような能力がほとんど。また、基礎能力も一般人より優れてはいるが、大して差がない。

 要するに、能力を持たないものでも努力次第で上回れるレベルなのが、Dランクの能力者の地力なのである。

 一般人への影響力が強いCランク以上の能力者は社会進出のために国家資格を取得し、能力者を識別する首輪型の機械ーーライセンスを首につける義務が生じる。ライセンスは能力者の身分証明や身分保障の他にも機能がある。

 ライセンスの受験資格は能力研究開発大学の卒業、あるいは卒業見込みのある能力者。高校生である優弥と柚子は、自然とDランクだと判断できる。

(そういえば、そうだったね)

(それに、ここにはお前ら以外、進学したやつしかいないから、顔見知りばっかだしな。知らない顔があればかなり目立つ。外から来た、って一発で分かったのはそれも理由の一つだな)

(なるほど)

(うちの学校はランクでクラスを分けてるから、多分一緒のクラスかもしれないな)

(そうなんだ。そのときはよろしくね。新崎君)

(おう。こっちこそ、よろしくな。神田)

「ーーです。以上で、私からの祝辞とさせていただきます」

 優弥と隆也が話をしている間に校長の話はクライマックスを迎えた。

 号令に従い、起立、礼、着席。

 柚子は座ったままだったが、誰からも注意されなかったので優弥もそのままにすることにした。

『続いて、生徒会長による新入生歓迎の言葉です』

 進行役の生徒が促したのは、一人の少女。

 美姫よりも長い黒の長髪を腰の辺りで結び、歩く動作に合わせて揺れる。

 壇上に立った彼女は新入生を見回す。

 いや、鋭い視線からは睨みつけたといった方が適切か。

 外国人の血が混ざっているのだろう碧眼。日本の平均的な女性よりも高いモデル並の身長。西洋人形のような冷たい美貌を持つ彼女。

 温かみの感じられない雰囲気を醸す美少女からの視線に、新入生たちは一様に緊張感を膨らませる。

『みなさん、無事に進学でき、おめでとうございます。

 私は能力研究開発大学付属高等学校の現生徒会長、後藤カンナと申します。

 中学とは異なり、高校生となると勉強がより一層難しくなり、同時に能力に関する授業も厳格な指導が増えてきます。なので、今のうちに中学生気分は一掃し、島の年長組となった自覚を持って生活してください。

 短いですが、これで私からの新入生歓迎の挨拶とさせていただきます』

 簡潔すぎる挨拶に新入生は多少戸惑った。校長の長さとのギャップも大きい。

 進行役は何事もなかったかのように式を続ける。

(おい神田、あれ見たか? ああいう高圧的なタイプ、俺苦手なんだよなぁ)

(そうかなぁ? いい人そうだったよ?)

(あれをいい人に見えるって、お前眼科行った方がいいぞ?)

(う~ん、眼はいい方なんだけど)

 退席した生徒会長についてあれこれ話していると、次に出てきたのは三十代くらいの男性だった。

 柔和な表情がまず目に付く彼。周囲の空気を自然と和ませ、落ち着かせるような雰囲気を持っている。ボサボサの短い髪も瞳の色も黒で、典型的な日本人の容姿。

 白衣をきっちりと着込み、歩く姿はまさに医者のそれ。先に能力研究開発大学の教授だと知らされていなければ、地方の町医者に見える。

 壇上に上がった彼はズレた銀縁メガネを調整し、マイクを握る。

「え~、ただいまご紹介に預かりました。能力研究開発大学の教授でもあり、今年度も付属高校の能力指導長にも選ばれました博野(ひろの)政史(まさふみ)と申します」

(能力指導長、って?)

(学生の能力学習の計画を立てたり、能力関連の授業の指揮を執ったりする人だ。博野教授は前年も高校の指導長だったぞ。優しくてユルい、いい先生だって評判だ)

「今年は島外からの転入生もいると聞いています。みなさん、転入生の子たちも気にかけてあげて下さい。島での生活に慣れるまで大変でしょうから、私たちでサポートしましょう」

(なんだか、僕らのこと気にかけてくれてるみたいだね)

(結構、生徒の立場になって考えてくれる人だって話だからな。ああいう先生が担任だと楽だよな~)

 その後も、式の間中ほとんど小声で喋っていた優弥と隆也。式が終わる頃にはだいぶ打ち解けていた。

「じゃあな、優弥。俺は先に教室行くわ」

「うん。またね、新崎君」

 優弥は職員室へ寄るように言われていたため、隆也と入り口で別れた。隣では未だ眠そうな柚子が二人のやりとりを眺めている。

「ゆうや、あいつ、だれ?」

「新崎隆也君。さっき席が近かったからちょっと話したら、仲良くなった人だよ」

「へぇ。……くあ~ぁ」

 柚子は聞いているのかいないのか、あまり興味なさそうに相づちを打つ。そして、大あくび。

「ほら、職員室行こう。先生が待ってるよ」

「……んむぅ」

 優弥は柚子の手を取り、先導する。柚子はというと、目をこすりながらフラフラと歩いて何とかついて行っている様子。美姫は同じ体勢のまま、まだ眠っていた。

 身長差から、しっかり者の弟とずぼらな姉のような構図で、二人は職員室に向かった。


「神田優弥さんと、天満(てんま)柚子さんですね。私は博野琴葉(ことは)。あなたたちの所属になるFDクラスの担任です。おそらく三年間クラス変更はないでしょう。これからよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」

「……よろしく」

『うへぇ。私と柚子が苦手な真面目タイプかぁ。直接関わらない幽霊でよかったぁ』

 優弥と柚子と半透明の美姫を引き連れて廊下を歩く女性、琴葉。

 きっちりとスーツを着こなし、歩き方に隙はない。ショートカットの茶髪に手を加えたところはない。瞳と同じ黒いフレームの眼鏡は野暮ったく、ファッション性は皆無。

 遊びや無駄が排除されている雰囲気のためか、彼女からは完璧主義、あるいは神経質といった印象を受ける。

 純日本人なのだろうが、容姿は欧米人のようなメリハリがあり非常に整っている。しかし、全身から無機質なイメージが強く出すぎているためか、親しみといったものが全く感じられない。

 FDクラスは優弥たちが所属するクラス。Fは身体を意味するフィジカルの頭文字であり、Dは直接のランクを示している。ちなみに、情報系のクラスではインフォメーションのIとランクの組み合わせでクラス名が決まる。

 抑揚が少なく、淡々と話す琴葉。まるで機械の音声を聞かされているような錯覚を覚えつつ、優弥たちは担任についていく。

「あの、ちょっと質問いいですか?」

「どうぞ」

「僕と柚子ちゃんが同じクラスになったのって、学校の配慮があったりするんですか? 僕らは外から来ましたから、そうかなって思ったんですけど」

「いいえ。違います。

 生徒のクラス分けは平等に行われています。判断される要素は能力の種類と能力の強度。それだけです。

 あなたたちは入試の面接で能力診断を行いましたね? そのとき、あなたたちの能力は二人とも肉体系であり、最低のDランクであることが確認されました。

 よって同じクラスに配属されたのです。

 もし、能力診断でどちらか一方が情報系の能力者であれば、別のクラスだったでしょう」

 能力の種類は大別して二つ。

 肉体系と情報系。

 肉体系は文字通り身体能力、または身体自体に影響を与える能力を指す。

 肉体系の能力を持つ彼らは常人と比べて体力、筋力、体の頑丈さに加え、治癒力までもが非常に優れている。ランクによって差は出るものの、肉体系の能力者は皆運動神経もよく、怪我や病気をしにくく治りやすい。

 一方で、情報系の能力を持つと、肉体系と違い身体能力は平凡な者が多い。その代わり、ずば抜けた頭脳を誰しもが持つこととなる。単純な記憶力や柔軟な思考による臨機応変さ、果ては並列思考といった常人離れしたことまで、一般人と比べて何倍も優れた情報処理能力を備えている。

 ただ、これらは能力者になったが故に、基礎能力が向上したにすぎない。あくまで副次的な効果であり、超能力とはまた別物。

 肉体系の能力は身体能力の更なる向上が主。優弥の霊視などのように、本来備わっていない効果を肉体に与える能力も肉体系に属する。

 逆に情報系の能力は火を操る、風を操るなどといった超常現象を引き起こす。また、新たな概念やシステムを作りだし、技術革命を起こした能力を指す。

 現代社会で普及している、かつては夢の中の産物だった技術を開発したのは、後者である情報系の能力者である。

「ちなみに、私は情報系の能力者で、能力強度はAです。

 外での学校がどのような規則だったかは存じませんが、基本的にここは『教育的指導』が許可されています。特に、知能指数の低い肉体系のクラスでは、頻繁に指導が成されるでしょう。

 我々が掲げる常識や倫理にあまりに反する言動が生徒からあった場合、能力行使による指導も辞さないので、そのつもりで」

「わかりました。気をつけます」

 そして、一般的な能力者のイメージは情報系が大半。

 理由は簡単。肉体系と情報系の能力者が仮に争ったとしても、単純な体力勝負は除き、ほとんどの勝負で勝利するのは情報系。また、社会全体から見た貢献度が高いのも情報系の能力者。よって、情報系の能力者はエリート志向が強い者が多く、肉体系の能力者を下に見る傾向が強い。

 能力者と一般人の間だけでなく、能力者内にも差別や格差は存在する。それが、学校の教育にも反映されている部分がある。それの代表的な物が、『教育的指導』。

 琴葉の告げた『教育的指導』は能力による懲罰を指す。普通の学校では体罰と騒がれる。

 かつて、教師の体罰による児童の自殺問題があってから教育現場も敏感になり、今まで優弥たちが通っていた学校ではあり得ない行為。

 しかし、人越島に住む子どもたちは能力者。能力の危険性を理解させ、安易な能力の使用を控えさせるため、多少の苦痛を与えてでもしっかりとした教育を施さなければならない。

 このとき、主に『教育的指導』を受ける対象はほとんどが肉体系の能力者。理由は、短絡的に能力を使用する可能性が高いこと。また、教師側に情報系の能力者が多く、生徒側が教師側の要望に応えられないことが多い、などがある。

 優弥と柚子が所属するのは、肉体系かつランクも低いFDクラス。懲罰の対象になりやすいのは火を見るより明らか。

「それと、もう一つ。

 おそらく、体育だけでも外の学校ではそれなりに優秀な生徒として扱われていたのでしょうが、ここではあなたたちは最低クラスの落ちこぼれです。

 頭の悪いあなたたちでも後々理解するでしょうが、身の程をわきまえて生活をした方が自分のためですよ」

『……ねぇ~? ユウくぅん? さっきからコイツ、ユウ君をバカにしまくってるよね? 私の気のせいじゃないよね? 塵にしていい?』

(俺もそろそろ我慢の限界だ。優弥、このオバサン一発ブン殴っていいか?)

 美姫は額に青筋を浮かべ、柚子は小声でもわかる低い声で。優弥にとんでもないことを尋ねてきた。

(二人とも落ち着いて。

 情報系の能力者と比べれば、僕も柚子ちゃんもあまり頭が良くないのは事実だから仕方ないよ、お姉ちゃん。お願いだから落ち着いて。

 それと、柚子ちゃんも。言葉は悪いけど、一応僕らのことを心配してくれてるんだよ。殴っちゃダメ)

「何か?」

「いえ、何でもないですよ」

 女性陣がヒートアップする中、何とか宥めすかして愛想笑いを浮かべる優弥。

『ちっ、ユウ君に助けられたわね。私がまだ生きてたら、一瞬の迷いなく八つ裂きにしてやるのに』

 相手が聞こえないのをいいことに、かなり物騒なことを呟く美姫。

 柚子も、不快感を隠しもせずに視線を琴葉から逸らす。

 間に挟まれた優弥の感じる空気は最悪。居心地が悪いったらない。

「着きました。

 では、私が入室を許可したら入ってきてください。それまで待機していただきます」

 そう言い残し、琴葉はプレートに『1ーFD』と書かれた教室へと入っていく。

 残された二人と幽霊。

『あぁ~、ムカつく! 何なのアレ!』

「何だアイツ。情報系の能力だからって鼻にかけてやがんのか? あからさまに俺たちのことをバカにしやがって。

 同じ情報系の能力者とはいえ、美姫さんや親父とは雲泥の差だな」

「まあ、能力者っていっても人間だからね。人格は人それぞれだよ」

 憤る美姫に、ここぞとばかりに悪態をつく柚子と、窘めるようで否定はしない優弥。それぞれ思うところがあるのだろう。

「それより、クラスの人たちは大丈夫かな?」

『へ?』

「どういうことだ?」

「二人もわかっただろうけど、あの先生は肉体系の能力者を蔑視しているところがあるでしょ? それに、Dクラスの能力者は落ちこぼれとか言ってたし。

 そんな人がこのクラスの担任になったら……」

 優弥の言葉の途中。

 教室から地鳴りのような低い音と、細かな振動。幾人ものうめき声と琴葉の淡々とした声が聞こえてくる。

「なるほど、ああなるわけか」

「うん、そう。それも、先生の言質からして頻繁に起きそうだよね」

『大丈夫。能力なら私からも干渉可能だし、できる限り私がユウ君と柚子をフォローするから』

「ありがとう、お姉ちゃん」

「美姫さんが何とかしてくれるのか?」

「できる限りで、らしいけどね」

「美姫さんの力だったら、それだけで十二分に助かるって」

 すると、静かになった教室の扉が開き、琴葉が顔を出す。

「いいですよ。二人とも、入ってきてください」

 琴葉に促され、教室に顔をのぞかせた優弥、柚子、美姫。

「「うわぁ……」」

『あらら、死屍累々ね』

 机に突っ伏すクラスメイト。廊下で待機していたときから聞こえた苦しげな声を漏らし、意識があるかどうかも怪しい。美姫の言葉通り、まさに地獄のような光景だった。

(……何でこのクラスの担任が、この人なんだろう?)

 おそらく誰も聞いていないだろう自己紹介をしながら、優弥は素朴な疑問を覚える。

 その後のホームルームでの事務連絡に耳を傾けつつ、彼らには明日改めて挨拶でもするかな、と考える優弥であった。


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