エピローグ 優弥と美姫と
人越島で起きた火事事件から二日後の早朝。
本島と唯一の連絡船が止まっている港には、優弥、美姫、柚子の三人が義雄、公江と向き合っている。
「見送りまでしてもらってすまないな、三人とも」
「私たちは家に帰るけど、本当に大丈夫なの?」
常と変わらぬ厳つい顔で、優弥と柚子に視線を向ける義雄。また、優弥の怪我の件から島での生活を心配している公江。
「大丈夫ですよ、公江さん。あんな事件、滅多にあるものじゃないですから」
「そうそう。授業も案外危険は少なかったし、今回のがでっかい例外だっただけだよ。いざとなったら俺が止めるから、お袋は安心してなって」
優弥と柚子が笑顔で公江を宥めるが、いまだ公江の表情は晴れない。
大学で柚子たちと再会した優弥は、その後三人からひどい説教を受けたことを思い出す。
義雄からは体調を確認されたあと怒声と拳骨が飛び、優弥が大怪我をしたと連絡を受けて急遽訪れた公江からは号泣され、柚子からは強制的に正座で説教。
優弥が聞く耳持たず突っ走ったため、深結救助の助力はした義雄と柚子だったが、それとこれとは話が別だったのだろう。
隆也からも今回の無茶を諭されたが、最終的には涙目になった優弥を庇って宥め役になっていた。それほど、三人の剣幕は凄まじかった。
若干泣きが入るまでこっぴどく叱られた優弥だが、心配をかけた申し訳なさと同時に、嬉しさも覚えていた。
自分の身を案じ、本気で怒ってくれる人がいる。
その事実が心にじんわりと染み出してくる。
改めて、神田家の一員で良かったと感じることができた。
「柚子……、あなたがいるから、余計に心配になるんだけど」
「はぁ? どういう意味だよ、お袋っ!」
左手を頬に当て、悩ましげにため息をつく公江。その姿が艶っぽく妙に様になっており、大抵の男が見れば赤面して視線を逸らすことは間違いない。
「だって、普段から問題を起こすのは柚子の方でしょう?」
「う」
「優弥が頭を下げてくれたから事なきを得たこと、いくつあったっけ?」
「ぐ」
「公江、あまり柚子をいじめてやるな」
「柚子もアナタも、いつも大人しい優弥の暴走に、結局便乗しちゃったわけでしょ? …………心配だわ」
「「うっ!」」
最後は柚子を養護しようとした義雄も標的となり、何も言えなくなってしまう二人。自分のことではあるが、優弥は三人のやりとりを見て苦笑するしかない。
「まあ、無茶をしてしまったのは事実ですし、僕が何を言っても説得力がないとは思いますが、お姉ちゃんもいますし、多少の怪我なら平気ですよ」
『当然よ! 私が婿入り前のユウ君を傷物にさせないわ!』
「それが一番不安なのよ。美姫がいるからって、必要以上に危険に首を突っ込まないか、気が気じゃないわ。どうせ美姫も、優弥を傷物にしない、とか言って怪我をすること前提で話を進めてそうだし」
「『あ、あはは……』」
美姫のことを見えているはずもない公江は娘の言動を当てて見せ、さらにため息をつく。神田家のヒエラルキーの頂点が誰なのか、自然とわかる会話だった。
「しかし、いつまでも俺たちがこうしている訳にもいくまい。ここは二人を信用して、俺たちは俺たちの仕事に戻るぞ」
「……ええ、そうね。美姫のことがあって、私、なかなか子離れができないみたい。優弥と柚子が大丈夫って言うんだから、私もちゃんと信頼しないとね」
程度の差こそあれ、美姫の事情を知っている優弥と義雄は一瞬眉をひそめるが、柚子と公江に気づかれることはなかった。
「それじゃあ、私たちは帰るわね」
「優弥、柚子。二人とも、鍛錬を欠かさず、日々精進するように」
気を取り直した公江は二人に笑顔を向け、義雄は公江の分も含めて荷物を抱える。
「はい。師匠も、公江さんも、お元気で」
「またな、親父! お袋!」
優弥は敬意を込めて頭を下げ、柚子は右手を軽く振る。
名残惜しそうな視線を送って、公江は船へと歩いていった。続いて、義雄も公江の背中を追う。
「夏休みになったら、一度帰ってきなさいね~!」
義雄たちが乗船してすぐ、汽笛が鳴り響き連絡船が出航し始める。
デッキに出ていた公江は大きく両手を振って優弥たちに別れを告げる。それに応え、優弥と柚子も手を振った。
「……よし、俺たちも学校行くぞ!」
「うん、そうだね」
優弥と柚子は小さくなった船を見送り、足下にあった鞄を掴む。今日は火曜日。祝日でもないため、授業は当然存在する。
『今から走って間に合うの?』
「柚子ちゃんは平気だろうけど、僕は、ちょっと無理するかな」
だが、港は島の中心部である学校からもっとも遠い位置。かなり早い時間に起床していたとはいえ、自分の足では始業時間には間に合わない。
「お~い! 早くしないとマジで遅刻するぞ!」
優弥が美姫と話している隙に、柚子はすでに走り出していた。能力を使いつつ、全速力で走る柚子との差は開く一方。
「ちょっ! 待ってよ~!」
『ユウ君、ファイト!』
慌てて遠くに見える背中を追って走り出す優弥。
隣を浮遊して併走する美姫は、楽しそうに笑っていた。
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何とか遅刻せずに授業に参加した優弥と柚子。
放課後、帰宅しようと腰を浮かせたとき。校内放送が優弥たちの足を止める。
『一年FDクラス、神田優弥さん、天満柚子さん、新崎隆也さん。ホームルームが終了次第、生徒会室に来てください。繰り返します……』
「あれ? 呼ばれたのって僕たちだよね?」
「みたいだな。今回は一体どんな用事なのやら」
「優弥や天満だけじゃなく、俺もなのかよ……」
不思議そうに首を傾げた優弥、面倒だと顔に書いてある柚子、盛大なため息をもらした隆也。
三者三様の反応を見せ、お互いの顔を見合わせたあと、連れだって生徒会室へ足を向ける。
「にしても、本当に元気そうだな、優弥? あれだけの怪我してたら、治療に向いた能力を使っても、数週間のギプス生活は免れないってのに」
「お姉ちゃんの『万象改変』のおかげだよ。ありがとうね」
『まっかせなさい! ユウ君のサポートは私の役目だもの。いつでも頼ってね!』
美姫が鼻も高々に大きな胸を張る。ふよふよ浮かびながら揺れる胸が視界に入り、優弥は慌てて視線を逸らす。
「それに、俺の能力による反動も治してもらったしな。ホント、美姫さんには感謝しないとな」
『ふふん。そんなに褒めても何もでないわよ?』
「まあ、できるだけ『万象改変』の治療には、お世話になりたくないんだけどね」
どんどん上機嫌になる美姫を尻目に、優弥は肩を落として苦笑を浮かべる。
「? 何でだよ? どんな重傷でも一気に完治できるから、すげぇ便利じゃん?」
隆也は優弥の言葉に疑問符を浮かべる。
確かに他の治療系の能力と比べて、即効性があり、たとえどれほどひどい症状でも完治できるという大きなメリットがある『万象改変』の治療。しかし、デメリットではないが優弥と柚子にとってはあまり依存したくない理由があった。
「うん、そうなんだけど、実は『万象改変』の治療って、厳密には治療じゃなくて復元なんだよ」
「復元?」
「うん。怪我をする前の状態に戻す、って言ったらいいのかな? 要するに、人の自然な回復力を用いているわけじゃなく、怪我をしていない状態を再現しているだけなんだ」
『万象改変』での怪我の治療は、一種の時間逆行とも言い換えられる。
たとえば、怪我をする前の健常な時をAとし、怪我を負った状態をB、負傷後自然回復して完治した状態をCとする。『万象改変』は肉体の状態をBからCではなく、BからAへと移行させている。
それは自然の回復とはいえず、不自然な復元であるからこそ、肉体に変化が望めない。優弥と柚子は、それを欠点だと捉えている。
「『万象改変』の不都合は、負傷した後の骨や筋肉が強くならないこと。一度折れた骨やちぎれた筋繊維は、自然に回復することで怪我をする前以上に強い組織に生まれ変わるでしょ? そうすることで体はより丈夫に、怪我に強くなるといってもいい。
でも、『万象改変』は怪我をする前の状態に戻すだけ。だから、骨の強度や筋肉量に変化がないんだ」
「要するに、美姫さんの『万象改変』は骨の補強や筋肉の超回復はしてくれないから、そればかりに頼っていれば丈夫な体にはならない。肉体系の能力者である俺らには、あまり歓迎できないってわけだ」
優弥と柚子の言葉に、隆也は納得したように首を縦に振った。
肉体系の能力者にとって、自分の体が最大の武器であり、長所。『万象改変』は図らずも、自然的な肉体の強化を妨げる効果を有している。
故に、美姫も普段は優弥がどれだけひどい怪我を負ったとしても、後遺症や生死に関わる傷であったり、本人の嘆願がない限り、『万象改変』による治療は行わない。自己治癒力に頼る方が有益との判断からだ。
「ふ~ん、なるほどなぁ」
「っつっても、それは俺らのわがままってところが強いから、欠点という程のもんでもないけどな」
『まあね。逆にそれがメリットになる場合もあるし』
「そうだね。特に能力操作を使う僕らみたいな能力者にとっては『万象改変』は嬉しいことが多いよ。能力の過負荷でボロボロになった体を瞬時に回復してくれるし、能力の再使用時間が一気に短くなるしね」
優弥が火事のビルに移る前、柚子が『万象改変』で治療を受けた後、すぐに能力を使用できたのも、その特性があったおかげ。ただ肉体を治療するだけの効果であったら、あの場面で柚子が『力点収束』をすぐに使うことはできなかった。
「そうなのか……、って、話してる間に着いたみたいだな」
相づちを一つ打ってから、隆也は生徒会室のプレートを見据えた。
「来ましたか。今ロックを外します。少し待っていてください」
扉の前には同じ学年の少女、雅が佇んでいた。どうやら三人の到着を待っていたらしく、優弥たちを確認すると電子パネルを操作し始めた。
「なぁ、その鍵って内側から開けらんねぇの? わざわざ俺らを待ってたみたいだけど?」
「当然内側からでも開けられます。しかし、私もついさっき来たところだったので、二度手間になるよりは一緒に入室した方がいいと判断しただけです。先輩方は、中で生徒会の書類を片づけているところでしょうし、お手を煩わせるのも失礼でしょう?」
淡々とパネルに目を伏せながら、柚子の疑問に答える雅。相変わらずこちらへ視線を寄越すこともなく、慇懃無礼な態度のまま。頑なにこちらを拒絶するような対応に、柚子は呆れた視線を送っていた。
「失礼します。生徒会書記の博野雅と、放送で呼び出された三名です」
「あら、早かったわね。遠慮しないで入ってちょうだい」
「わかりました。では、どうぞ」
ノックを数度、手短なやりとりを経て、雅は先に扉を開けて生徒会室に入っていった。
「こんにちは。神田さん、天満さん、新崎さん。急に呼び出して、ごめんなさいね」
続けて部屋に入った優弥たちに声をかけたのはカンナ。先日訪れたときと同じ配置で、ジルとクレアも席に着いていた。彼らは雅の予想通り、少し山なりになっている大量の書類と格闘していた。
「いえ、別にそれは構わないんですけど、僕らは邪魔になりませんか?」
「ああ、これ? 大丈夫よ。ちょうど小休憩を入れようと思っていたところだから」
「え!? マジっすか! ヤッターッ! これで休めるゼ!」
「ジルさん、騒がしいですよ。後輩たちの前ではしたない……」
全力で歓喜の声を上げたジル。落ち着きのない弟を見るような目でジルをたしなめ、嘆息するクレア。注意を促したクレアであったが、小休止を挟むことに異論はないらしい。席を立って部屋の備品であるコーヒーメーカーへ近づき、人数分のコーヒーを用意する。
「とりあえず、こっちに座って。立ち話もなんだしね」
入り口付近で立ったままの三人を促し、カンナは来客用のソファを勧めた。
ちょうど三人掛けのソファに、隆也、優弥、柚子の順で座る。美姫は優弥の背後に浮かぶ。対面には手すりにもたれ掛かるジル、姿勢を正して座るカンナが座った。雅はクレアの隣でお茶の準備を手伝っている。
「あの、ところで僕たちはどうして呼ばれたのですか?」
「ん? ああ、そんなに堅くならなくていいわよ。私たちとバーサスで勝負した後、火事に巻き込まれたって聞いたから、心配だったのよ。特に、神田さんは大怪我をしたっていう話だったから、余計にね?」
雅に拘束された一件から、生徒会に呼び出されることに負のイメージを抱いていた優弥。だが、その心配は杞憂に終わる。
知らず知らず身構えて緊張していた体をゆるめ、多少リラックスした状態で、正面のカンナを見る。眉はハの字に下がり、優弥を見つめる視線には体の不調を探るような意図がうかがえる。
「それは、ご心配をおかけして申し訳ありません。しかし、この通り僕は傷も完治しましたし、あの火事でも死者が出なかったそうですから、丸く治まったと思いますよ」
「結果的にはそうだが、優弥は人を心配させすぎだぞ? 今後はもうちょっと自重しろよな」
『そうよ? ユウ君はちょっと油断するとすぐに無茶をするんだから』
「あはは……」
ジトッとした流し目を寄越す柚子と美姫に、優弥は乾いた笑いを漏らす。しばらくはこの一件をネタに、色々と苦言をもらいそうで、視線を彼方へ放りやった。
「俺から言わせれば、無謀さ加減では優弥も天満もどっこいどっこいだぞ? 天満だって、ジル先輩との対戦で相当無茶やったじゃねぇか」
『あ、それもそうね。というか、常に無茶してるのは柚子の方じゃない?』
「それはそれ、これはこれだ」
「ゲ。思いださせンなよ、一年ボウズその二。結構ショックデケーんだぞ?」
隆也の指摘に対し、明らかに自分のことを棚に上げた柚子。そして、隆也の発言から柚子との対戦を思い出したジルは苦虫をかみつぶしたような表情。
「ふふふ、お三方はとても仲がよろしいのですね? 見ていて羨ましいですわ」
「この学校のトップランクの人間に囲まれているというのに、あなたたちは相変わらず暢気なものですね。会長、ジル先輩、どうぞ」
お盆にコーヒーを載せたクレアと雅。クレアは優弥たちにコーヒーを差しだし、雅は生徒会メンバーの前にコーヒーを置いた。
カンナの隣にクレアが腰掛け、雅は砂糖とミルクを取るためにもう一往復し、クレアの横で直立。ソファが満員になったため、横で待機することにしたらしい。
「あ、そういえば、神田さん」
「はい、なんですか?」
「私たち、美姫さんとちゃんと挨拶していないわよね? できれば、きちんとご挨拶したいのだけれど?」
『私?』
いきなり名指しされて目を丸くする美姫。
「お姉ちゃんに、ですか? またどうして?」
「私は神田さんのお姉さん、神田美姫さんに敗北して、自分の中にあった傲慢を知ることができた。そのお礼を直接言いたいのよ」
まっすぐな瞳で優弥と視線を交錯させるカンナ。本心からの言葉だと伝わり、優弥も逡巡する。
「ナァナァ、ミキって誰? カワイイか?」
「ジル先輩、とりあえず今は黙っててください」
空気を読まずに軽い発言をするジルに、今度は雅からたしなめる声が上がる。ジルはこの場で唯一美姫との面識がないため、彼の疑問は当然。
「お姉ちゃん、どうする?」
『別に、ユウ君がいいなら構わないわよ?』
「そっか。じゃあみなさん、ちょっと待っててください」
美姫に確認を取った優弥はソファから立ち上がり、美姫の隣へと移動する。そして、『霊感体質』の力を能力操作で活性化させる。
(……そうだ。夢の中であったアレ、できるかどうか試してみよう)
ふと、自分が赤子であった記憶を思い出した。死後、悲しみに沈む美姫を救った、家族との直接的な対面。それが自分の力ならば、できるはずだと判断。
『……? ユウ君?』
優弥は憑依の準備を中断し、体中を巡っていた能力のほとんどを右手一本に収束。憑依を途中で止めた優弥に首を傾げる美姫を見据え、力を集中させた右手で美姫の左手を握った。
「んっ!」
そして、優弥は『霊感体質』の力を右手越しに美姫へと送り出した。今までしたことのなかった試みに、優弥はもっと苦戦すると思っていた。しかし、その予想はいい意味で裏切られ、優弥のイメージ通りに『霊感体質』が美姫へと譲渡された。
『えっ?』
左手から伝わるじんわりとした熱に、美姫は驚きの声を上げる。人の体温をゆっくり注がれているような、緩く穏やかな温もりはすぐに左腕を通して全身を巡り、美姫の霊体をすっぽりと覆い尽くす。
自分の中に流れてくる、『万象改変』ではない異質な力。だというのに、体の中をうごめくそれに不快感はない。むしろひどく安心感を与え、微睡みの中にいるような心地よささえある。
「なっ! 美姫さん!?」
「うえぇっ!?」
「うそ……」
「ハ? エ? チョ、誰?」
「…………あら、まぁ」
「な、なんですか、それは?」
目を閉じ、ずっとこの感覚に溺れてしまいたいと思っていた美姫の耳に、いくつもの驚愕の声が響いてきた。順に、柚子、隆也、カンナ、ジル、クレア、雅。
今まで感じたことのない多幸感に没頭していた美姫。しかし、彼らの声に邪魔されて意識をとばされ、快感が次第に遠のいていく。名残惜しさを不機嫌に換えて、美姫は眉間にしわを寄せて目を開けた。
『何よ、うるさいわね。今いいとこなんだから、邪魔しないでくれる?』
すると、再び息を呑む声が全員から上がる。
『ん? あれ?』
そして、美姫はようやく彼らの違和感に気づく。
優弥を除く人間の視線が、美姫に集中している。
それはつまり、美姫の姿を確実に捉えているということ。
「……ふぅ、どうやら成功したみたいだね」
空気が静まり返った中、平然とした声が一つ。
美姫をはじめ、全員が一斉にそちらへと視線を向ける。
『ゆ、ユウ君? これは、今一体どういう状況?』
「僕の能力で、お姉ちゃんを普通の人でも見れるようにできないか、試してみたんだ。憑依と同じ要領でやってみたんだけど、どうやら成功したみたい。『霊感体質』にはまだ可能性が眠っているみたいだね」
にっこりと微笑む優弥の顔は、まるでイタズラが成功した子供のよう。
優弥の言から、美姫もようやく自身の状況を理解する。過去、一度だけもたらされた奇跡が、成長した優弥の手により再現されたのだと。
「ほら、お姉ちゃん? 自己紹介しよう? これ、結構疲れるんだ」
ただただ驚くだけで頭が真っ白になっていた美姫。左手をぎゅっと掴んでくる優弥の声に、ようやく我を取り戻す。
改めてソファに座る面々を見渡すと、穴が開きそうなほどの視線の集中砲火にさらされていた。
『え~、何だか凄いことになったけど、とりあえずユウ君のお願いだから、軽く自己紹介をするわね』
気を取りなすように咳を一つ。
そして、美姫は久しく浮かべる愛想笑いに苦戦しながら、口を開いた。
『私は神田美姫。十五年前に死んで、享年十八歳。情報操作系でSランクの能力、『万象改変』の能力者よ。この子、ユウ君の守護霊をやっているわ。ま、よろしく?』
フランクかつ簡潔に述べると、美姫は軽く手を振った。
「十五年前、ということは、神田さんと美姫さんは、かなり年が離れたご姉弟なんですね?」
カンナが美姫の台詞に引っかかりを覚えて、思わず口にした疑問。
それをきっかけに、本日最大の爆弾が投下された。
『姉弟? 違う違う。ユウ君はれっきとした私の『息子』よ?』
…………間。
「……え?」
誰かから漏れた、ため息のような声。
そして、柚子以外の視線が、美姫の隣へと集まった。
「そうですよ? お姉ちゃんは僕を生んでくれた、正真正銘、僕の母親です。小学校高学年くらいから、お母さん、っていうよりも、お姉ちゃん、って感じでしたから、今の呼び方になってますけど」
『というわけよ。うちの可愛い息子に手ぇだしたら、ただじゃすまさないから、そのつもりでいてよね?』
……………………さらに長い、間。
「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
隆也と生徒会メンバー、合わせて五人の絶叫が、生徒会室を震わせた。




