二人で
三題噺もどき―ななひゃくきゅうじゅうご。
※スーパーの店員さんとは仲良しです※
頭上には細い線が浮かんでいる。
先日新月を迎えた彼は、これからまた少しずつ満ちていく。
星はそれを歓迎するように、声援を送るように、キラキラと輝いている。
「……、」
空はこんなにも美しく輝いているのに。
地面はあまりにも冷たく、美しさもない。寒いだけ。
所々に街灯が立つだけで、温かみのひとつもない。とにかく寒いだけ。
「……」
ビュウ―と、冷たい風が通り過ぎていく。
降ろしていた前髪を思いきり巻き上げられ、露わになった額に風がぶつかってくる。
ただでさえ、顔は覆いようがないのに……こんなもの防御のしようがない。
「……さむい」
「……なら家に居てもよかったんですよ」
思わず漏れた言葉と、拘束するように絡みついていた腕を強く握りしめたせいで、呆れ交じりにそんなことを言われた。
私が引っ付いたせいで多少歩きづらそうにしている、隣を歩くコイツは、私の従者である。家での小柄な青年の姿ではなく、私より身長の高い、足のすらりとした大人の姿だ。声も普段よりは低いような気がするな。
……呆れながらも、振りほどこうとしないあたり、コイツは私に甘いところもあるのだろうか。普段はそんな事ないのだけど。
「……何か言いましたか」
「なにも」
さらに冷たい風が吹き、思わず呻きたくなるほどに肌を刺していく。それなりに厚着はしてきたのだけど、寒いものは寒い。
傍から見れば、黒い大きな塊にしか見えないかもしれない。ただでさえ、街灯が少なく、二人して真黒な格好をしているのだ。それに、お互い長身の部類にははいるだろうから、一体何をしているんだろうと言う感じだな。
「……無理して付いてこなくても、買い物くらい私1人で行ってたでしょう」
「……」
まぁ、そうなのだけど。
色々あって、家からでなくなって、起きてベランダに出ることも、毎日日課にしていた散歩に行くこともしなくなった日々が続いて。
その色々も一応は終わりを告げて、そろそろ出てもいいのではと言いながらも、出るに出られず。それでもなぁ……とモダモダとしていたところに。先日、色々の原因であるアレから手紙が来て。
その中でも、コイツは買い物には行っていた。基本的には朝食後に私が仕事をしている最中に。
「……いい加減出ようと思って」
「……それはかまいませんけど」
アレの手紙が来たからとかではなく。
そろそろ、この一年という節目が終わりを迎えるのに、このままうだうだするのも気分がよくないなぁと思って……いや、ホントに、アレの手紙がムカついたからとかではなく。
何でもかんでも盲目的に追いかけるアレに、そのせいで私は何もできなくなったのに、アレが好き勝手しているのが気に食わないとかそんなわけではなくて。
「……なんだかんだ見栄っ張りですよねぇ」
「……なんだって」
「何も言ってませんよ」
見栄とかそういうものではなく。
今回、こんな感じになってしまったが、アレとはそれなりに……それなりの関係なのだ。同じ吸血鬼として、初めてできた友のような存在で、裏切られたときはそりゃ、色々と思ったが。それから交流が全くないのかと言ったら、そういうわけでもなくて。
事あるごとにとまではいかなくても、時折話をするくらいには関係を修復していたのだ。もちろん、お目付け役が付いていたけど。……その矢先に、今回のごたごたがあったのだ。まぁ、二度目はさすがに堪えたが。
「……話に行くんですか」
「……まぁ、そのうちな」
その時は、コイツも連れて行こう。どうせついてくるつもりだろうから、堂々と連れ経っていくとしよう。
寒かったら、今みたいに引っ付いていけばいいしな。
「……人に見られたらどうするんですか」
「こんな時間に人はいない」
いるとしたら猫くらいだ。
その猫だってきっとこんな寒い日には、風の酷くない比較的暖かな場所で大人しくしているだろう。こんな時間にこんな寒い中で外に出るのは私たちくらいだ。
「……まぁ、いいですけれど」
「さっさと行って、さっさと帰ろう」
久しぶりに外にこうして出てみれば、あまりにも寒くて嫌気がさしてきた。
今日は、いつものスーパーに行って、食料を色々と甘味料を含めた調味料を色々と買いに行くらしい。それなりに量もあるだろうから、荷物持ちくらいは帰りにしよう。
「おや、お二人とは珍しい」
「久しぶりだな」
「いつもお世話になっております。」
「いえいえ、こちらこそ。……お客さんが、お元気そうで何よりですよ」
「あぁ、君もな」
お題:拘束・盲目・甘味料




