第七話 槍の又左
前田利家は「槍の又左」の異名で知られる武闘派の武将です。しかし、その反面、戦国大名としてはNo.2戦略に徹して権力者を補佐し、結果、加賀百万石の礎を築いた実利の戦略家でもあったのです。
前田利家は『槍の又左』との異名で呼ばれる、
血気盛んな荒武者であった。
「稲生の合戦においても利家は」
敵将の宮井勘兵衛が放った矢が右目の下に、
当たったものの、矢が刺さったまま、
敵陣に飛び込み、勘兵衛を討ち取ったという。
「そんな武勇を称賛される、お前が、なぜ?」
茶坊主の拾阿弥を斬ってしまったのかと、
俺は問い詰めた。
「このバカタレとは以前から、確執があってな」
まだ息の整っていない利家は、
興奮した面持ちで、そう答える。そこへ、
信長様が飛んできて、
「拾阿弥、なんという姿に、殺ったのは利家か」
相当な怒りを噛み殺しながら言葉を発した。
「信長様、この利家を御成敗、下さいませ」
利家は潔く、その首を差し出すように、
頭を垂れた。すると、
「この戯けが!」
信長様は怒りに任せて刀を抜く。
だが、今度は、
「殿、なりませぬ、なりませぬぞ」
と、森可成と柴田勝家が飛んできて、
信長様を止めた。
「離せ、可成、勝家、このバカは俺が殺す」
「信長様、命だけは許してやって下さい!」
と、可成と勝家は必死に信長様を制止する。
その後、落ち着きを取り戻した信長様は、
「可成と勝家が、それほどまでに言うのなら」
今まで反目してた森可成と柴田勝家が、
揃って取りなす姿を見て、
「前田利家は追放処分とする」
命だけは奪わない裁定を下した。
後日、利家と妻のマツ、赤ん坊の娘・幸は、
尾張から旅立つことになる。
「まさか利家が、こんな事になるなんてな」
と、見送ったのは俺と愛都の二人だけである。
愛都はマツと親しい間柄であった。
「まあ、これも仕方あるまいよ」
利家は豪放磊落に笑って、
朱色の槍を担ぐ。その夫の姿をマツは、
愛おしい眼差しで見ながら、
生まれたばかりの娘を抱いていた。
利家は荒子城主・前田利春の四男として生まれました。この荒子城は長男の利久が継いでいましたが、突如、織田信長の命により利家が家督を継ぐことになります。この荒子城を追い出された利久の養子が、今も人気の高い傾奇者・前田慶次なのでした。




