第六話 美しい姫君と可愛い侍女
織田信長の妹・お市の方は「天下一の美女」との誉れも高い女性でした。その美貌は、国立公文書館所属の「渓心院文」によると、37歳の時点で実年齢より、はるかに若い22、23歳に見えたと記されています。
信長様の妹・お市の方は当世一の美貌と、
近隣諸国にも名を轟かせている。
俺は、その、お市の方の侍女、
愛都とは幼馴染の間柄であった。
「あら、暇そうじゃない」
ある日、城内で愛都が声をかけてきた。
「暇って、そういう言い方は良くないだろう」
愛都の父・秋本長勝は、
先代からの織田家の家臣である。
「あら、あなた達は、いつも仲が良いわね」
と、そこに、お市の方が通りがかった。
「これは、お市様」
俺が深々と一礼すると、
「あなたは早く、愛都を、お嫁にしなさい」
そう言いながら、輝くような笑顔を見せて、
お市の方は立ち去った。
「あれが当世一の美女かぁ」
俺が、その美しさに心を奪われて、いつまでも、
その背中を見送っていると、
「あんた、何、ニヤけているのよ、身分違いよ」
愛都は、そう言いながら、
「えいッ」
と、俺の脛を、思いっ切り蹴りつけた。
「イッ、痛ッ、何をするだ!」
「姫を助平な目で見るからよ」
その後、愛都は逃げるように、
小走りで去ろうとしたが、立ち止まって、
振り返り、
「お市様の言ったこと絶対にしてよね」
「えっ、お市様って、何のことだい?」
「バカ、私を、お嫁にするってことよ」
そこまで言ってから、愛都は顔を真っ赤にして、
全力で走り去った。だか、この時、
「遂に利家が拾阿弥を斬ってしまったぞ!」
と、城内では大事件が勃発していたのだ。
利家は、俺と同輩の馬廻衆である。
「な、何、利家が!」
俺が駆けつけると、そこには、
抜き身の血刀を握った前田利家が、鬼形相で、
すでに亡骸となった拾阿弥を見下ろしていた。
「利家、お前は、なんという事をしでかしたのだ」
俺は思わず声を漏らす。
利家の殺害した拾阿弥は、
信長様の寵愛している茶坊主であった。
戦国時代の三大美女は「お市の方」「細川ガラシャ」「京極竜子」であると伝えられています。お市の方は織田信長の妹であり、細川ガラシャと京極竜子は明智光秀の娘でした。この三人の絶世の美女たちには、何やら深い因縁を感じさせます。




