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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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9/18

9話 オーク剣闘士


ちょい長めです









 対戦相手の元兵士であるオークだが、詳しい事が分からない。他の街で最近剣闘士になったばかりらしく、素性も得意な戦い方など全く情報がないらしい。

 剣闘士としての名前は『眠りのバングサット』と言う。

 詳しくは分からないが、剣闘士になった理由だけは分かっていた。

 何でも軍を通さずに奴隷を横流しした罪で、奴隷剣闘士へと落とされたらしい。

 まだ数試合をこなしただけの新人剣闘士でもある。


 バンブロックは剣闘士としての呼び名は『麻痺の専門家・ロック』となった。

 これはアデンがウマッハに訳した時の固有麻痺魔術の“固有”部分が、専門家と受け取られたからである。

 早い話、アデンの訳し方で決まったようなものである。

 ただし彼らの言語が通じないバンブロックには、単に「ロック」部分しか耳に入ってこないのだが。


 そしてバンブロックは試合当日、緊張した面持ちでコロシアム控え室にいた。


 この日バンブロック以外にもウマッハ養成所から何人か出場者がいて、既に試合が行われていたのだが、バンブロックは緊張で他人の試合を見る余裕さえなくなっていた。


 そして衛兵のオーク兵に連れられて、入場扉の前に立つ。

 いよいよ正式な剣闘士としての、初試合が行われようとしていた。


 そこで初めて武器を渡される。

 ラックに雑然と入れられた武器を選べるのだ。

 バンブロックはその中からグラディウスと呼ばれる小剣と、ヒーターシールドと呼ばれる盾を手に取った。

 グラディウスとは刃渡り50センチ程の幅広の両刃剣で、ヒーターシールドはアイロンの様な形状の下部分が尖っている盾である。


 そして遂に重苦しかった魔術封じの首輪も外された。

 バンブロックはスッキリした表情で首をぐるりと回す。


 そして扉が開き、バンブロックはオークの衛兵に挟まれたまま闘技場中央へと歩く。

 反対側の入場入り口からも、対戦相手のバングサットが衛兵に挟まれながら中央へと進み出て来た。


 そこでバンブロックは対戦相手が手にする、赤く染められたメイスに視線がいく。


ーー見た事があるぞ、あのメイス


 そこで薄れていた記憶がよみがえる。

 

 グリーンスキンの野営地に、村人を奪還しに行った夜の記憶だ。

 バンブロックは倒木を背にして敵兵に囲まれてしまい、背後からオーク兵に襲われて気を失ったのを思い出す。その結果、バンブロックは奴隷剣闘士となったのだ。

 その時のオーク兵が手にしていた武器、それが赤く染められたメイスだった。


ーーまさか、あの時のオーク兵か!


 メラメラと怒りが込み上げてくるバンブロック。

 

 あの時の事を思い出すと、このオークは詠唱をしていた。

 つまり魔術が使えるということ。


 それにあの赤いメイス。

 普通のメイスではない。

 恐らく魔石が仕込まれていて、魔術を増幅している。

 魔法使いのワンドやロッドと同じだ。

 あの時バンブロックは、眠気に襲われた記憶があった。

 きっとスリープ系の魔術であろうと予想した。


 闘技場の中央で間隔を開けて2人は対峙する。


 そこでバングサットは、バンブロックの事を思い出したらしい。


 バンブロックを指差して、ニヤニヤしながら話し掛けてくる。

 どうやらあの時のバンブロックを揶揄やゆしているかのようだ。

 しかしバンブロックは何を言ってるか理解出来ず、無視を決め込む。それが返ってバングサットの怒りをあおる。


 周りにいたオーク兵が下がり終えると、遂に試合開始のドラムが叩かれた。


「借りは返させて貰う!」


 そう言って一気に距離を詰めるバンブロック。


 バングサットは未だ馬鹿にした様な笑みを浮かべたままだが、余裕有りげに丸盾を構える。


 二人とも鎧などの防具は一切無しだから、防御に失敗すれば致命傷も有り得る。


 バンブロックが走り寄ると、バングサットは丸盾を前面に押し出しメイスを構えた。


 そこでバンブロックはその盾に足を掛けた。

 蹴りではない。

 飛び越えようというのだ。


 バングサットの顔から笑みが消える。


 そして慌てて丸盾を横に振り払う。

 物凄い力であった。

 バンブロックの体重を乗せたままの行動だ。


 しかしすでにバンブロックは、バングサットの背中を転がる様にして後方へと着地。

 

 その時、相手の頭部目掛けて斬り込むのを忘れない。


 金属がぶつかり合い火花が飛んだ。


 バングサットが赤いメイスで防いだのだ。

 思った以上の反応の早さである。


 バンブロックは地面に着地するや、お互いにくるりと反転。間合いをあけたまま正面同士に再び向き合う。


 そして今度はバンブロックの方からニヤリと笑みを返した。


 するとバングサットの顔が、怒りの表情に変化していくのが見てとれる。

 そして何やらブツブツ言い始めた。


「◯☓△◯☓△……」


ーー魔術の詠唱か!


 バングサットはそのまま、盾に身を隠して突っ込んで来た。


 バンブロックの視線が赤いメイスを追う。

 メイスの柄の部分に魔石が見えた。


ーーやっぱりな!


 白く輝き始めたメイスがバンブロックに迫る。


「くっ」


 辛うじてメイスの軌道をヒーターシールドで受け流す。


 一瞬だけ眠気に襲われるバンブロック。


ーー盾で避けても気を失いそうになるのか!


 バングサットは悔しそうな顔で距離を取る。


 赤いメイスを見ると、今は輝いていない。


ーー詠唱ごとに一回しか発動しないようだな


 そこからさらにお互いに何度も攻防を見せるが、決定打は無い。やはりお互いち持つ盾の防御は大きい。

 それにバングサットの魔術は連発は出来ないのか、最初の一回だけだったのもバンブロックには幸いした。


ーーこれじゃあらちが明かない

  

 少しやりあった後、二人は大きく距離をあけた。


 肩で息をする二人。


 この時点で二人とも、笑みを浮かべる余裕など無くなっていた。


 そこでバングサットが低い姿勢で構える。今にも丸盾が地面に着くんじゃないかというほど低い。


 そして詠唱。


ーーまだ魔術の余力を残していやがったか


 今度はラウンドシールドで赤いメイスは見えない。

 そのまま真っ直ぐ走り寄る。


 バンブロックはそれを迎え討つ。


 間合いに入る寸前、バングサットの右手が振るわれた。

 しかし手にはメイスを持っていない。

 代わりに砂がバンブロックに向けて浴びせられた。


ーー詠唱はフェイクか!


 目潰しだった。


 砂が空中を舞う。


 戦場でよく使われる手である。

 

 直ぐにバングサットは、ラウンドシールドの裏に隠したメイスを右手に持つ。


 その間にバンブロックはヒーターシールドで砂を防ぐ。

 防ぐついでに、シールドごとバングサットに突っ込む。


 バングサットは突き出されたヒーターシールドを、咄嗟とっさに自分の丸盾で払い除ける。


 地面に落ちるヒーターシールド。


 そしてバングサットは、盾の後ろにいるはずのバンブロックに向かってメイスを振るった。


 空を切るメイス。


 居るはずのバンブロックがそこにいない。


 視線を巡らすバングサット。


 すると姿勢を低くしたバンブロックが直ぐ横にいた。盾の死角を使って動いたのである。

 そして手には盾の代わりに砂が握られている。


「お返しだ」


 バングサットの顔面にパッと砂が舞う。


『ウガッ』


 砂をまともに受け、視界を失うバングサット。

 

 更にバンブロックは言葉を投げ掛ける。

 

「そういう汚いやり方は俺も知っている。俺も戦場で散々やってきたからな」


 バンブロックの方が1枚上手だったようだ。


 かすんだ視界の中で、闇雲やみくもに赤いメイスを振るうバングサット。


 しかしそんな攻撃が当たるはずもなく、逆にメイスを持つ右腕を斬られてしまう。


『ウガアァッ』


 メイスが地面へと転がった。

 物凄い出血が地面を赤く染める。


 盛り上がる観客。


 それでもバングサットは盾を投げ付けて、何とか反撃を試みる。


「往生際が悪い奴だな……」


 そう言ってバンブロックは左手の肩口を斬り裂く。


『グガアッ!』


 バングサットは苦しそうに、ゆっくりと地面に両膝を突いた。


 傷口がかなり深いようだ。

 この時点で最早、バングサットに立ち向かって来る気力も体力もない。


 ここで観客は大興奮となり何かを叫んでいる。


 バンブロックは観客席を見回す。


 観客は何かを期待している様子だ。


 バンブロックは「そう言うことか」とつぶやき、バングサットへと近付いて行く。


 そして奴の血だらけの肩に手を置いた。



ーー麻痺魔術パラライズ



 途端、バングサットの身体がピンと硬直し、小刻みに震え出した。麻痺に見えるが感電である。ちなみに固有魔術だからなのか、この魔術に詠唱はいらない。


 しばらくして手を離すと、バングサットはドサリと地面に崩れ落ちる。

 その身体からは薄っすらと水蒸気が立ち昇っていた。


 バンブロックは地面に横たわるバングサットを眺めながら、祈りの言葉を告げた。


「この命、愛する者へささぐ」


 次の瞬間、観客席から割れんばかりの大声援が巻き起こった。


 観客席を見回すと、誰もが立ち上がって手を叩きながら叫んでいた。スタンディング・オベーションである。

 その歓声を聞きながらも、バンブロックは妙な気持ちであった。




ーーグリーンスキンを倒し、同じグリーンスキンからの声援を受ける人間の自分ーー




 ここはそういう場所だった。


 そう、ここは戦場と同じ非日常の場所。



 ここはコロシアムと言う名の戦場であった。












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