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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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8話 養成所







 人気の女剣闘士の試合が終わると、オーク兵がバンブロックの控え室に入って来た。

 どうやら帰るようだ。


ーー全部の試合を観たかったが仕方ない


 既に落ち着いているバンブロックは、もう暴れはしなかった。大人しくオーク兵に連れられて行かれる。

 そしてコロシアムの外に止めた獣車の前に来ると、来た時と同じ檻に入れとオーク兵が身体を押してくる。

 多少の悪態を吐くも、バンブロックは素直に檻の中へと入った。


 獣車が走り出してからバンブロックは気が付く。


ーーコボルトと獣人はどこいった?


 来る時に一緒だった奴隷剣闘士達だ。

 治療を受ければ助かっているはずである。


 そこで考えられる事……


「あのオーク野郎め、いつかぶっ殺してやる」


 主人のウマッハに“見限られた”と言うのがバンブロックの見解だった。

 無様な試合をするとこうなるのか、とバンブロックは心に刻んだ。


 実際は利益の問題が絡んでいた。

 医務室での治療は大金が掛かり、治療する剣闘士にそのつぎ込んだ大金以上の価値があるのかを、主人であるウマッハが判断する。折角治療しても、後遺症が残って戦えなくなるなら意味がないからだ。

 “見限った”のは間違いないが、経営者として利益を優先したに過ぎない。





 剣闘士養成所に到着すると、バンブロックは直ぐに広場へと連れて行かれる。そこでオーク兵に両脇をガッチリ押さえ込まれた上に、両腕は後ろで手枷(てかせ)められた。

 そしてその場で誰かを待つ事になる。


 少しすると外出用の服から部屋着に着替えたウマッハが、建物の奥から出て来た。

 そのままバンブロックの方へ歩いて来ると、目の前に立つ。

 その横には半獣人の“アデン”も立っていた。

 通訳という訳だ。


 そこでアデンを通してウマッハとバンブロックは会話する。

 バンブロックとしては殺意が湧いてくる相手ではある。しかしガッチリとオーク兵に脇を固められ、手枷てかせに魔術封じの首輪まで着けられているのだ。手も足も出やしない。

 こうした状況でバンブロックは、ウマッハから色々と質問されていった。

 

 アデンがウマッハの言葉を訳す。


「何があったか俺は知らされてないが、主人はどうやってハイエナを殺したかを聞いてる。ここは素直に答えた方が良いと俺は思うぜ」


 バンブロックは考える。


ーー魔術が使えることはバレている。今更隠しても仕方ないか

 

 考えた結果、バンブロックは答えた。


「俺しか使えないパラライズの魔術だ」


「え? 何だって。どう言う事だよ」


 アデンは『こいつは何を言ってやがる』的な顔でバンブロックを睨む。

 それはそうだ。アデンはコロシアムでのバンブロックの試合を見ていないのだから。


「だから固有魔術だと伝えろ」


「ま、魔術だと?」


 バンブロックが首輪を指差し言った。


「この魔術封じの首輪が証拠だ」


 驚きの表情で首輪を見つめるアデン。


 そこでオーク兵がアデンの頭を叩き、何か強い口調で言葉を浴びせた。

 するとアデンは慌ててウマッハに向かって何か説明を始める。


 ウマッハがアデンの説明の途中でバンブロックをギロリと睨む。

 そして今度はウマッハがアデンに何かを伝える。


 そして再びバンブロックへとアデンが訳す。

 

「そのパラライズ魔術? それがどういうものか説明しろと言ってる」


ーー説明しろと言われてもなあ、俺も良く分からないしな


「え〜と、そうだな。この魔術を放つと相手がしびれて動けなくなる」


 本当は麻痺ではなくて電気なのだが、当然バンブロック本人もまだ知らない。と言うか、そういったものに関する知識がない。


「待てよ、それってお前が魔術を使えるってのか」


「ああ、そう言う事だよ。観客の前で見せちまったからな」


「おい、おい、まさかその魔術で闘技試合に勝ったーー」


 そこまで言ったところで、オーク兵に再び頭を叩かれ焦りまくるアデン。

 その後のアデンの説明を聞いたウマッハは、牙を剥き出しにして不気味な笑みを浮かべた。

 そして何も言わずにただ大声で笑いながら、建物の奥へと去って行った。


 その後やっと解放されたバンブロックは、居住区へと連れて行かれ、前の牢屋ではなく見知らぬ部屋に通される。そこで手枷てかせは外されたが、ゴツイ首輪はそのままだ。


 そこはランクEの剣闘士達が寝泊まりする部屋だった。つまりバンブロックが正式に剣闘士となった事を意味する。とは言っても、ランクEは見習い剣闘士扱いである。

 ちなみにアデンは2個上のランクC剣闘士だ。


 その日からバンブロックはランクE剣闘士として扱われるようになるが、グリーンスキンの私兵からは、人間というだけで嫌われ続けた。

 幸いにもここの奴隷剣闘士にグリーンスキンはいなかったので、一緒に鍛錬する事はなかった。


 このウマッハ養成所内の場合、ランクに分けられると待遇差はあるが、それが剣闘士同士の上下になるとは限らなかった。

 ここでは強い者が常に上に立つ世界。

 自分がランクEだとしても、ランクDの剣闘士よりも強ければそいつの上に立てる。

 ここでは強さが全てだった。

 

 しかしバンブロックは、魔術が使えるという特典がある。それは他から一目置かれるスキルとなる。

 現にバンブロックの魔術の噂が、早くも養成所内で広まり始めていた。




 バンブロックがランクE剣闘士となった翌日の朝、起床の合図のドラム音が今日も養成所に響き渡る。


 バンブロックが広場へ出ると、ランクEのテーブルの席がひとつ増えていた。


ーー俺の席だよな


 そこへ座るバンブロック。

 皆の視線が集まっているのが分かるのだが、そんなの無視して堂々していた。


 そしてテーブルには別の奴隷によって、朝食が並べられる。

 並べられたのは塩で茹でたタルイモだ。

 ランクがEになっても結局これかと、バンブロックは残念そうにそのタルイモを口にすると、味の違いに気が付いた。

 人間界のタルイモよりも味が薄いのは変わらないが、結構なみずみずしさがあり、それに前に食べた様なピリリと残った後味がほとんどない。今までのタルイモの味とは大違いだ。

 どうやら品質が格段に上がったようだ。

 と言うか、腐りかけのタルイモではない。

 それに食べられる量も増えた。


 バンブロックはたったその差だけでも嬉しくて、魔物産タルイモにむさぼり付いたのだった。


 広場での鍛錬は主にランクごとに分かれて実施する。

 剣闘士を卒業したという半獣人が、ランクごとに教官としてやっているが、歳を食っていて余り期待は出来ないレベルであった。

 ちなみにその教官は元奴隷剣闘士であるが、今は自由民となっている。現役時代に功績でも上げた褒美だろう。

 ただし自由民と言っても活動制限がある。

 手枷てかせ足枷あしかせと言ったペナルティ無しで街中を歩けるが、街の外へ出る事は許されない。

 つまり彼の場合はこの先にあるバドの街の城壁の中と、このウマッハ養成所内でしか自由がない。

 

 バンブロックはこんな情報も仕入れながら、ウマッハ養成所で1週間を過ごした。

 彼にとって幸いだったのは、基本的に剣闘士に関してはグリーンスキンが手出しをしてこないことだ。ヘマをしたら教官が剣闘士に罰を与えるのである。

 おかげでバンブロックは、グリーンスキンとのトラブルは皆無であった。


 そして1週間後、翌日に試合があることを知らされる。ランクEの剣闘士としての初試合である。

 

 対戦相手は魔物ではなく、元オーク兵だと言う。

 グリーンスキンの剣闘士となると、犯罪者か軍規違反などを犯した者に限られる。

 元兵士と言うことは、かなり手強い相手だと思われた。

 だが元オーク兵というだけで、バンブロックは闘志が湧いてきた。










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