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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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6話 初戦


ちょっと長めです。









 ウマッハの養成所から連れ出されたのはバンブロックだけではなく、他にも剣闘士3人がいた。

 一人は獣人で、残りの2人はあのコボルト達である。


 檻の中へ押し込まれ、獣車で街の方へと向かう。

 そこはバンブロックが奴隷として売られた、バドの街だった。そして壁を抜けて街中へ入ると、大きな建物が見えてきた。どうやらその建物を目指しているようだ。


 到着してみると、そこはコロシアムであった。木造ではあるが、街の規模からしてもかなり大きい。人族の領地にもコロシアムはあるが、それはごく限られた国である。

 こんな小さな街にまでコロシアムがあるという事は、恐らくグリーンスキンの領地では相当人気の競技なのだろう。

 多数の奴隷剣闘士が必要なのも、これで何となく理解したバンブロックだった。

 

 彼らはコロシアムの中へと連れて行かれ、建物の中にある剣闘士控え室に通された。

 ただしバンブロックだけは控え室ではない。

 またしても檻である。それも金属製の檻。

 周囲には魔物が入った檻も多数あり、ここは猛獣や魔物の飼育倉庫らしかった。


 バンブロックは薄暗い倉庫の中で、檻の鉄格子を掴みながら愚痴る。


「俺は魔物と同じ扱いか!」


 それに対して周りの魔物が、うるさいとばかりに吠え声を上げたのだった。

 

 だがバンブロックは首を傾げる。


「そう言えば、何で俺はここに連れて来られたんだ? 雑用奴隷じゃないのか」


 この倉庫には明かり取り用の小窓がいくつかあり、そのひとつから闘技場が見える。そこからバンブロックは、剣闘士の戦いを見物した。

  

 初めは静かだった闘技場であるが、時間と共に観客席が騒がしくなっていく。客が入り始めたようだ。


 そして試合時間が近付いたのか、解説者が何かを説明し始める。するとそれに呼応するかのように、観客席が盛り上がる。

 

 そこで突然、バンブロックの檻に何者かが接近。そいつは数名のオーク兵だった。

 オーク兵達はバンブロックを檻から出すと、槍で突いて別の場所へと移動させる。


「触んじゃねえ、いつかぶっ殺してやるからな」


 強がってみたものの言葉は通じず、結局は成すがままである。


 そして行き着いた場所は、入場口の扉の前であった。


 そこまで連れて来て、オーク兵らは何の説明もしない。

 そこでバンブロックが口走る。


「おい、どういう事か説明しろ」


 しかし返答がくるはずもなく、オーク兵は面倒臭そうに一瞥いちべつして終わりだった。


 そして突然入り口の扉が開く。


 そしてバンブロックはオーク兵数人に囲まれて、闘技場の中心辺りまで歩かされる。

 

 観客席からの視線を感じるバンブロック。


 闘技場は50×40メートル程の長方形をしていた。バンブロックが思ってたよりもかなり広い。

 観客席は5メートル程の高い位置にあり、闘技場を見下ろす感じで観戦する。

 その観客席にはオークやゴブリンを中心に、雑多な種族が数百人は入っていた。

 その中の何人かは人間であるバンブロックを見て、つばを飛ばしつつ何やらわめいている。


 バンブロックが中心位置に来ると、観客席の一段高い位置にいたオークが喋りだした。

 解説者といった役割のオークらしい。

 観客は静まり耳を傾ける。


 バンブロックはそのオークが何を言ってるかは分からないが、バンブロックを指差しているところから、少なくとも自分の説明をしているのだと分かる。

 観客のリアクションから見ると、“こいつはごみ溜めに住まうクソ野郎”と言った説明だろうか。


 そして解説が終わると、バンブロックを囲んでいたオーク兵達が離れて行く。

 その去り際に何故かダガーを一本、バンブロックの目の前に投げ捨てた。“好きなように使え”とでも言っているようだ。

 そしてそのまま衛兵用の出入り口に消えて行った。


 今や闘技場にはバンブロックが一人だけである。

 

 バンブロックはこの状況に混乱気味で、ただキョロキョロと周囲を見回すだけであった。


 そこで突然ドラムの音が響く。


 バンブロックは咄嗟とっさに、地面に投げ捨てられたダガーを拾って構える。


 それと同時に反対側の入場扉が開く。


 その扉から勢い良く魔物が一頭飛び出した。


ーー控え室にいたハイエナじゃねえか!


 ハイエナと言っても目が赤くなった獣、つまり魔物である。


 ハイエナが飛び出した途端、観客達は興奮して歓声を上げる。


 そんな喧騒けんそうの中でもバンブロックは落ち着いていた。


ーーまあ相手が1匹なら何とかなる


 ヨダレを垂らし、唸り声を漏らしながら近寄るハイエナ。

 

 だが直ぐには襲い掛かって来ない。


 鋭い眼光で睨みながら、バンブロックの周囲を歩き出す。


 バンブロックは元兵士。

 それも10人隊のベテラン隊長だ。

 ハイエナの魔物一頭ぐらいなら、1人で対処出来る自信があった。

 

 バンブロックはハイエナの動きを追うように、身体の向きを変えていく。


 突如スッと身を屈めるハイエナ。


 次の瞬間、ハイエナが牙を剥き出して飛び掛かる。

 その牙は骨をも砕く威力がある。


 横に避けようとするバンブロック。


ーー思ったより早い!


 無我夢中でダガーを振るうが空を切る。


 結局は避けるだけで精一杯だった。


 太ももが熱い。


 チラリと自分の太ももを見ると、爪でやられたのか出血していた。


ーーくそっ、しくじったか!


 腰布だけのバンブロックにとって、身体のどこを傷付けられても致命傷になりかねない。

 太ももの流血はかなり酷く、早く止血しなければ命に関わる。だが今この状況ではどうする事も出来ないのが現状だ。


 流血を見た観客は一気に盛り上がる。

 興奮して立ち上がり、手を振り上げて歓声を上げる者もいる。

 奴らは血に飢えていた。


 血の臭いを嗅いだハイエナも、観客同様に興奮していた。

 口から滴るヨダレの量が物凄い。


 体勢を整えたハイエナが、再び身を屈める。


「させるか!」


 今度はハイエナが飛び掛かる前に、バンブロックから仕掛けた。


 バンブロックの掛け声に驚いたのか、飛び掛かるのを躊躇ちゅうちょして、身構えてしまうハイエナ。


ーーよし、もらった!


 そのままハイエナの脇を走り抜ける。


 ハイエナの牙が「ガチッ」と空気を噛む。


 振り下ろしたダガーがキラリと光る。


 走り抜けた反対側で、くるりと身体を捻ってハイエナに向き直るバンブロック。


 ハイエナもゆっくりと振り向くが、首筋から鮮血を噴き出していた。


 ハイエナは数歩だけフラフラと歩いた後、ドサリと地面に横たわった。


ーー勝った!


 その途端、観客席からは大ブーイングだ。

 彼らの想像するストーリーは、人間がハイエナに喰われる姿である。人間が勝利してしまったとなると、ブーイングは当然であった。


 しかしそれで終わりではなかった。


 突然角笛が鳴りだしたのである。


 すると不気味な音を立てて、再び入場扉が開きだす。


ーー何? まだ終わらないのか!


 バンブロックは慌てて戦闘態勢をとる。


 すると新たなハイエナが、唸り声を上げながらゆっくりと歩み出て来た。

 しかも魔物化した2頭である。

 血の臭いでかなり興奮しているが、観客席からの声で警戒もしている。

 それも一時のこと。


 バンブロックを見つけたハイエナが、直ぐに走り寄る。


 新しい魔物の出現に観客は再び盛り上がる。


 ハイエナは左右に分かれ、バンブロックの周りを円を描く様に歩きだす。


 先のハイエナの遺体には興味は無い様で、ひたすらバンブロックに狙いを定める2頭。


ーーさすがに2頭相手はキツいな


 今度は正面に加えて背後も警戒しなければいけない。一頭に攻撃している間に、後ろから襲われ兼ねない。

 

 バンブロックは常に身体の向きを変え続ける。


 正面にいたハイエナが、足に噛み付こうと前に出る。


 バンブロックは片足を引き戻しダガーを振るう。


 その瞬間、もう一頭のハイエナが斜め背後から襲って来る。


 バンブロックは引いた足の勢いで身体を捻ねりながら、襲って来たハイエナにかかとを叩き込む。


 その蹴りが、ハイエナの側頭部にモロに入った。


ーー良し、やった!


 だが、それが油断となり隙が出来る。


 正面のハイエナがバンブロックの首筋目掛けて飛び掛かった。


 ダガーを持った右手で防ごうとするが、逆に右手首に喰い付かれてしまう。


「こいつ!」


 さらに蹴りを入れたはずのハイエナが、バンブロックの左足に喰らいつく。


ーーしまった!


 蹴り程度の威力では、魔物化したハイエナには効果が薄かったようだ。


 直ぐに牙を振り解こうとするが、ハイエナの牙はより深く食い込んでくる。


 そしてバンブロックは、そのまま地面に引き倒されてしまった。









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