5話 養成所
バンブロックはまたも狭い檻で獣車に積まれ、何処かへ運ばれて行くようだ。
運ばれるのは彼だけで無く、他にも何人かいるらしい。
バンブロックの前後にも獣車に運ばれる檻が見える。檻の中は両方ともにコボルトが入れられていた。
獣車に揺られる間、バンブロックは周囲を物珍しそうに見回した。なんせ彼にとってグリーンスキンの生活圏は初めてなのだから。
バンブロックの感想は、どこにでもある地方の小さな街といった感じであり、人族の街とそれほど差はないように感じていた。
住んでいる住人が違うだけである。
だだし奴隷らしき者が非常に多かった。
この街はバドの街と呼ばれ、高い外壁で囲まれた城塞都市である。
結構な発展をしているのか、壁の外にも建物が広がり生活圏を広めていた。
そして街を外れると広大な畑が見え始める。
人の背丈もある野菜を育てているようだ。そこではゴブリンや足枷をした半獣人が収穫作業を行っている。
収穫しているのはタルイモに見える。ただ人族の地で収穫するタルイモとは大きさが違った。両手に収まらない程の大きさだ。
バンブロックは驚いてそれを見ていると、さらに驚愕の光景が目に入った。
タルイモの蔓が、半獣人に襲い掛かったのだ。蔓を伸ばして腕に絡み付き、畑の中へと引っ張り込もうとしている。
バンブロックは驚き「奴らは魔物を育てて収穫するのかよ……」とつぶやくのだった。
魔物化したタルイモ植物は人族の間でも知られているが、それを畑で育てて収穫するなんて発想はなかった。
そして蔓に巻かれた半獣人の結末を見るまでもなく、獣車は何事も無かったかのように先へと進んで行った。
さらに獣車が走って行くと、川の側にある塀で囲われた建物が見えてきた。周囲には先程と同じ植物魔物の畑が見える。
獣車は畑の中を通る道を進み、その塀の中へと入って行った。
思ったよりも広い敷地のある屋敷で、ここの主人がバンブロックを買ったオークらしい。
そのオーク主人に対して、何人かの使用人奴隷が出迎える。少し離れた所では、私兵であるオークが目を光らせていた。
コボルト2人とバンブロックは屋敷の裏手へと連れて行かれ、妙な広場に通された。
そこには20人ほどの奴隷と思われる者達がいた。種族は多種多様であるが、人間は見当たらない。
腰布だけの格好で木製の剣を振るって、戦いの訓練をしている。
そこでバンブロックは気が付いた。
全員の背中に焼印が押されていると。
ここの広場は、木剣や盾を持った奴隷が鍛錬を積む場所だった。
奴隷が戦う訓練かと不思議に思うバンブロック。
バンブロックは直ぐに見張りの有無を確認すると、塀の一部が見張り塔になっていて、そこには武装したオーク兵が2人監視していた。
バンブロックの頭には「奴隷剣闘士」と言うワードが思い浮かぶ。これだけの人数の奴隷剣闘士と言うのも驚くが、それなら逆に逃げるチャンスもあるかもしれないと期待するのだった。
兵士であるバンブロックにとって、剣さえあれば何とでもなるという考えが強い。それに上手くすれば、この奴隷達と協力する事だって出来ると。
広場を抜けて建物の中へと入ると、そこには大小様々な部屋と牢屋があった。どうやらそこが奴隷達の居住区らしい。
さらにその奥には主人の屋敷と衛兵所がある。
そしてバンブロックは、とある一画の鍛冶場の様な場所に連れて行かれる。
そこへ着くなり、オーク兵に壁に押し付けられる。
そして背中に奴隷の焼印を押された。
「ぐあああぁっっ」
思わず声が漏れる。
ヒールポーションがあれば消せるのだが、時間が経てばそれも出来なくなる。
ここにいてはポーションを手に入れるのは、まず無理だろう。
そして痛みで苦しむバンブロックは、引きずられる様にして今度は牢屋に放り込まれた。
コボルト達も焼印を押されていたが、牢屋ではなく部屋に入れられている。
少し納得がいかないバンブロックだが、今はそれどころでは無い。
牢屋の中でなんとか大きく深呼吸する。
そしてヒリヒリとした痛みに絶えながら、そのまま彼は眠り込んでしまった。
そして早朝の事。
突然ドラムの音が響き渡る。
バンブロックは慌てて飛び起き、キョロキョロと見回し、ここが牢屋だと思い出す。
それに加えて背中の焼印を思い出し、再び痛みに襲われた。
その内に各部屋からザワザワと話し声や物音が聞こえ始めた。
どうやら先程のドラムは起床の合図らしい。
しばらくすると獣人奴隷の一人が各部屋の扉の鍵を開け始める。
そして扉が開くと中にいた奴隷達は、早足で広場の方へ向かいだした。
最後にバンブロックの牢屋の鍵も開けられて、獣人奴隷に何か言われたのだが言葉が分からない。ただ何となく表へ出ろと言われた気がした。
誰も居なくなった奴隷居住区から広場に出ると、張り出した屋根の下に長テーブルとイスが並んでいて、奴隷達が勢揃いしていた。
テーブルを見回すと、一番端にある4人テーブルの席がひとつだけ空いている。きっと自分の席はここだろうと、恐る恐るその席に着く。
座ってからバンブロックは気が付いたのだが、そこには片腕が無い者や脚の不自由な者しかいない。つまり雑用奴隷である。
思わず「俺は雑用かよ」と口走った。
しかも良く見れば、バンブロック達の4人テーブルだけが長テーブルから少し離されている。
どうやら序列があって、バンブロック達のテーブルが最下位テーブルで、反対に一番奥のテーブルが最上位テーブルのようだ。
何より腹立たしいのは、バンブロックの隣の長テーブルには、昨日のコボルト2人が平然と座っていた事だ。
そのまま座っていると、召使い的な奴隷が料理を運んで来た。当然のことながら序列が高いテーブルには、大きなパンと例の巨大なタルイモ料理、そしてスープが置かれた。
そしてこちらに近付くに連れて、料理内容が貧相になっていく。
結局バンブロックのテーブルには切り分けられた魔物産タルイモと、水の入った土瓶が置かれただけだった。
そして再びドラムが鳴ると、剣闘士達は一斉に食事を始める。
出された魔物産のタルイモは薄い塩で茹でたもので、通常のタルイモに比べると少し味が薄く、ピリリとした後味が口の中に残る。それがバンブロックの感想だった。
そして食事が終わると、剣闘士としての鍛錬が始まる。
しかしバンブロックと同じテーブルにいた雑用奴隷らは、それには加わらずに雑用を専門でやらされた。それに習い、バンブロックも雑用をやらされた。やはり雑用奴隷だったらしい。
武器の手入れや鍛錬広場の整備、それに汚物の処理までやらされた。
ここで苦労したのが言葉の壁であった。
バンブロックは人族語しか話せないが、ここでは北方語が主流だからである。
だからと言って、バンブロックの仕事が減るわけでもない。
剣闘士の人数が多いのと、バンブロック以外の雑用奴隷が全然使えないのとで、思った以上に忙しい仕事となった。
そんな忙しい中で、バンブロックは人族語が話せる剣闘士を見つけた。
半獣人の剣闘士である。
ただし剣闘士同士が長い会話すると、見張りのオーク兵が飛んで来るので、詳しい話は聞くことが出来ない。
それでもバンブロックにとっては大きな収穫であった。彼の名は「アデン」と言って人族領内で生まれ、拉致されて2年だと言う。
バンブロックは知りたい情報が多かった中でも、まずはこの奴隷剣闘士の集まりについて聞き出すことにした。
そして分かった事は……
主人の名前は「ウマッハ」と言うオーク族。
ここはそのウマッハが所持する剣闘士養成所で、ここで育てた剣闘士を街のコロシアムへと連れて行って戦わせ、その収益で成り立っているそうだ。
剣闘士には序列で上からABCDEのランクがあり、Aより上に上がるとチャンピオンと呼ばれるようになるらしい。
そしてこの養成所内での各種ルールも教わり、何とかここで生き延びる術を教わった。
だが翌日になると、バンブロックは朝一番で牢屋から連れ出され、またしても獣車に乗って何処かへ連れ出される事になる。




