4話 捕虜
森の中をグリーンスキンの一団が、辛うじて道と呼べる様な森の中を進んでいた。
沢山の捕虜も一緒である。
その捕虜はもちろん開拓村の住人達、そしてバンブロック。
そんな中、気を失っていたバンブロックがようやく目覚める。
すると初めに森の木々と、青い空が視界に映し出された。
慌てて起き上がろうとするが、身動きがとれない。首を捻って周囲を確認すると、木製の台座に腰巻きのみの格好で縛られていると分かった。それを6人の半獣人達が背負って移動しているのである。
他にも戦利品を担がされている者もいた。
彼らは全て半獣人であり、最低限の着る物のみであった。
そして全員に共通するのは、1本のロープで繋がっている事だ。
そこでバンブロックは出来るだけ情報を仕入れようと、さらに首を捻って周囲に視線を巡らそうとする。
そこで頭と首筋に激しい痛みが込み上げ、思わず「っつう」小さく声を漏らす。戦闘で受けた傷である。
するとそれに気が付いた半獣人の男が声を掛けてきた。
「……しっ、声を落としてください。奴らに聞こえます」
そこでバンブロックは気になった事を小声で聞いてみた。
「お前らは開拓村の住人だよな」
「はい、そうです」
「ってことは、俺達はグリーンスキンに捕まったのか?」
するとその半獣人は警戒してるのか、顔は下に向けたまま獣耳と目玉だけを動かしながら答えた。
「はい。私達を生きたまま何処かへ連れて行こうとしているみたいです」
バンブロックの頭に「連れ去り」と言う言葉が思い浮かぶ。
そこで部下の事を思い出し尋ねる。
「俺以外に捕まった兵士ーー」
そこまで言ったところでゴブリン兵に気が付かれた。「ギギャギギャ」言いながら凄い形相でバンブロックに接近してくるや、バンブロックではなく彼の台座を運ぶ者らに向かって、手当たり次第に鞭を振るい始めた。
騒ぎが起こった為に隊列は止まり、他のゴブリン兵が集まり出す。その結果、鞭の数が増えた。
そうなると半獣人らは耐えられず、運んでいた台座は落ちるしかない。
台座はくるっと回転し、縛られたままのバンブロックは顔面から地面へと突っ込んだ。
笑い出すゴブリン兵。
バンブロックは痛みを堪えて必死に体を起こそうとするが、縛られている身ではそれもままならない。勢いを付けて仰向けになろうとするが、再び地面の泥の中へと顔を突っ込む。
ゴブリン兵らは腹を抱えて爆笑だ。
だがそれも突然終わる。
オーク兵の登場だ。
オーク兵が怒った様に命令を下すと、集まっていたゴブリン兵は蜘蛛の子を散らす様に持ち場に戻って行く。
次にオーク兵がとった行動は剣を抜く事。
そして台座を運んでいた半獣人が一人、その場で無造作に斬り殺された。
それは先程バンブロックと会話していた半獣人ではない。見せしめのための行いであるが故に、誰でも良かったのであろう。
バンブロックは何も出来ない自分を責めた。
そしてグリーンスキンの残虐性を、改めて身に沁みて理解した。
そこからバンブロックは、誰とも会話すること無く長い間運ばれて行った。
食事は日に一度だけで、開拓村から奪って来た茹でた小さなタルイモと水。
そんな環境化では、日を追うごとに捕虜は減っていった。
歩く途中で倒れて立ち上がれなくなって斬り殺される者、グリーンスキンに逆らって斬り殺される者、そんな中でも朝になっても目覚めない者が目を引いた。寒い夜を越せなかった者達である。
数日もするとバンブロックは、自力で歩かせられた。運ぶ者が居なくなったからだ。
疲労と傷の悪化もあって、バンブロックは意識が朦朧としながらも歩き続けた。
どれだけ歩いたのだろうか。
喉はカラカラで視線が定まらない。
そんな状態で、グリーンスキンの村らしい所に到着した。
そこで待っていたのは選別である。
捕虜は幾つかに分けられ、一部は奴隷商人らしいオークに連れて行かれた。
バンブロックは一人だけ、選別人らしきオークに弾かれて木と蔓で作られた狭い檻に入れられた。身体を横にさえ出来ない狭さである。そして一人だけ違う方向へと進む事となる。
飢えと喉の渇きで体力は落ち、怪我もしている身体では抵抗する事など出来ず、バンブロックはなすがままであった。
ただ歩かなくて良い事だけが救いであった。
猪が牽引する獣車に檻ごと載せられて、さらにグリーンスキンの支配地域のド真ん中へと進んで行く。
どのくらい経ったかも分からないまま、突然バンブロックは檻から叩き出された。その時のバンブロックは、何をされているのかも判断出来ない状態であった。
これは栄養失調と傷の悪化によるものである。特に傷の悪化は酷く、彼の体力を大きく削った。
バンブロックはゴブリン達に引きずられる様にして薄暗い天幕の中へ移動し、今度は金属製の少し広めの檻に入れられた。その檻には半獣人2人も入れられていた。
その内の一人がバンブロックを知っていたらしく、直ぐに近づき彼の名前を呼んだのだが、意識は朦朧状態のバンブロックにとっては、夢の中の出来事のようにしか感じられなかった。
幸いな事に、そこでの食事は今までよりも良かった。握り拳より大きいタルイモが1日2回貰えるようになり、水はほぼ飲み放題であった。檻の隅に水桶が置いてあるからだ。
その水を使ってバンブロックの傷は、半獣人によって綺麗に洗われるのだった。
数日もするとバンブロックは元々の体力の強さもあって、徐々に体力を取り戻していった。
意識がハッキリとしてくると、ここは奴隷が一時的に集められている場所だと聞かされた。
さらにこの場所は、グリーンスキンの街の外壁の直ぐ外だという。
世話してくれた半獣人は開拓村の一人であり、もう一人は全然別の地方の村人だった。共通するのは、2人とも村の襲撃で捕まったという事。
そしてここでは奴隷を競りに掛けて高く売るため、ある程度体力を回復させているのだと言う。
彼らの3人の檻以外にも、いくつかの檻があるのはそういう事らしい。
獣人が入っている檻やコボルトの檻、さらにはリザードマンの檻まであった。ただ人間はバンブロックしかいなかった。
しばらくすると半獣人2人は天幕から引きずり出され、競りに掛けられて居なくなった。買い手が付いた様だ。
翌日になるとバンブロックが檻から出された。
手枷を装着されてはいるが、数日ぶりに立ち上がれたバンブロックには、開放感さえ感じた。
とは言ってもこの時のバンブロックは、かなり体力は回復してきたとはいえ、精神的な疲労は回復していなかった。
その証拠に、目の前にグリーンスキンがいても復讐心が芽生えてこない。
バンブロックは抵抗すること無く、半ば観念して表へと出る。
天幕から出ると、久しぶりに浴びる日光が眩しい。
周りを見渡すと、どこもグリーンスキンだらけであった。荷運びする者も行商人らしき者も、全てグリーンスキン。
ここはまさしく彼らの生活する社会であった。
そして十数人のオークやゴブリンが集まる所へ移動させられ、その目の前にある台座にバンブロックは一人立たされた。
そして使い走りのゴブリンがバンブロックを指差して、何やら喚き出した。
何を言ってるかバンブロックには理解出来ないが、少なくともここにいる奴隷の買い手達に、必死に売り込もうとしているのは確かである。
しばらく使い走りのゴブリンが唾液を飛ばしながら熱弁していたのだが、買い手は首を振るばかりで誰も手を挙げない。どうやら人間は人気が無いようだ。
使い走りのゴブリンが諦めかけた時だった。
一人のオークが手を挙げるや、使い走りのゴブリンに近付いて会話を始めた。会話というよりも交渉らしい。
そして話が付いたのか、バンブロックはそのオークに奴隷として買われる事となった。




