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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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38話 狙われた食料






 バンブロックの言いたい事が、オーク兵に伝わったようだ。オーク兵2人はお互いに声を掛け合い、話し合っているように見えた。


 しかし次の瞬間ショートスピアが跳んで来て、オーク兵の横腹に突き刺さった。横から攻撃されたのである。


 それで慌ててもう1人のオーク兵が、バンブロックに向かって鍵の付いたリングを投げた。


 それを片手で受け取ったバンブロックは、すかさずポポの魔力封じの首輪を外す。


「ふふふ、これで暴れられまちゅねぇ」


 ポポはそうつぶやきながら、シャベルを振りかぶる。そして石弾魔術を発動した。


 スタッフスリングの代わりに、いつもは厨房用の巨大スプーンを使っているのだが、今はシャベルがその代用となっていた。


 ポポが振りかぶったシャベルの上に、石弾が生成される。

 ポポはそれを一気に振り下ろした。

 

 鈍い音がして、ラットマンの顔面が潰れる。


 ポポはそのまま身体を回転させ、再びシャベルの上に石弾を生成。


 投げ放つ!


 しかしそこからが当たらない。

 連続して石弾を放つが、一発も当たらない。

 敵はポポの石弾魔術を警戒し、無闇に近付かなくなったのである。


「ポポ、無駄に魔力は使うな。良く狙うんだ」


 バンブロックのその一言で、ポポの無駄打ちは無くなる。そしてゆっくりと、狙い澄まして石弾を放つ。


 これで少し時間を稼いだバンブロック達。


 バンブロックがチラリと横を見る。

 すると先程の横腹を刺されたオーク兵は、もう虫の息だった。


ーー長くは持たないな


 するともう1人のオーク兵が、その負傷オーク兵の剣と丸盾を手に取ると、バンブロックに投げてよこした。


「有難い、これで暴れられる」


 バンブロックは自分の足枷あしかせと首輪を外すと、オーク兵の剣と丸盾を手にした。


「ポポ、間違って俺を撃つなよ」


 そう言って、草むらの中へ走って行くバンブロック。


 バンブロックは接近戦となれば、こんなネズミ亜人なんかに負けない自信があった。囲まれないように走り回り、常に1対1となるような動きをした。

 時々ラットマンが2人掛かりで挑んで来る場面もあるが、それでもなお今のバンブロックの力量は、それを難なく退けるには十分だった。

 剣闘士としての毎日の鍛錬が、バンブロックの力量を押し上げていたのである。


 バンブロックは麻痺魔術を使うこと無く、ラットマンを確実に倒していく。

 6人目を倒した所で、ラットマンは撤退を始めた。

 ラットマンの気配が、急速に辺りから消えていった。


 バンブロックがソリの所に戻ると、横腹を負傷したオーク兵は息絶えていた。

 ポポは魔力を使い果たしたのか、シャベルからロングスピアに持ち替えて、誰も居ない草むらに対して威嚇いかくしていた。


 バンブロックは、ポポの近くまで来ると口を開く。


「敵は撤退した。もういないから力を抜け。って言うかさ、お前って元賞金稼ぎなんだよな。もうちょっと戦い慣れしてても良いんじゃないのか?」


「私は隠れた所からの狙撃が主流でしゅからね。接近戦はあまり経験がないんでひゅ。それに仕事の時は1人じゃなかったんで、狙撃だけでも問題なかったんでしゅね」


「今更文句を言っても仕方無いか。養成所に戻ったら特訓するからな」


「ふひ〜、お手柔らかに〜」


 そんな会話をしていたら、生き残ったオーク兵が何か言ってきた。

 バンブロックは、ポポとの無駄話に文句を付けられたと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。

 早く出発しろと言っているのだ。


 本当ならば、このオーク兵の息の根を止めて逃げ出したい。脱走するには今が絶好の機会である。

 だが見知らぬオーク支配地域を進むのは、どうしても無理がある。

 それにバンブロックの頭には、ププの顔が思い浮かぶ。その顔がどうしても亡き娘と重なり、置いては行けないという強い感情が、バンブロックの心を揺さぶった。


 仕方なくバンブロックとポポは、再び首輪と足枷あしかせを付けてソリを引っ張り始めた。

 驚いた事に、オーク兵がソリの後ろから押し始めた。


 少しずつだがソリを進めて行く。

 雪も徐々に激しさを増し、辺り一面真っ白だ。逆にその積もった雪が、ソリの進み方を速めてくれた。


 その内に風雪が激しくなり、進むべき方向の判別がつかなくなった。

 このままだと日暮れ前に、野営地へたどり着けなくなる。下手をしたら凍死も有り得た。

 

 バンブロックは手振りでオーク兵に方角を聞いてみるが、降雪で景色が変わってしまい、大体の方角しか分からない。


 体の小さいポポは、早くも倒れそうだ。既にソリを引っ張る体力は尽きていた。

 そこでバンブロックは小休止の時に、ポポを毛布で包んで紐で背中に固定した。

 そして再び出発。

 この状況でもソリを引っ張った。

 

 さすがにバンブロックも限界だった。

 戦闘で体力を削り寒さに体力は奪われ、背中にはポポである。その上に重いソリを引くのは無理だった。


 ある時、急にソリが動かなくなった。

 バンブロックはもしやと思い振り返る。


 ソリを後ろから押していたオーク兵が、雪の中にうつ伏せに倒れていた。

 体力的に限界だったのだろう。


「こっちのオーク兵もかよ。普段から鍛錬してないからだぞ」

 

 毎日の鍛錬を欠かさない剣闘士と、見張りが主な仕事のオーク兵では、体力に雲泥の差があった。


 バンブロックは仕方無く、気を失っているオーク兵をソリに乗せた。

 そしてソリを引っ張ってみたが、1人では全く動かない。

 

 バンブロックはソリに座り込み、一人つぶやく。


「こんな所で終わるのか……」


 すると背中のポポが死にそうな声で返す。


「な、何も出来なくて、す、すみましぇん」


「ポポ、起きてたか。でもな、凍死する時は眠りながら死ねるって言うからな。楽に死ねるぞ。苦しまなくて良かったな」


「し、死ぬ前に、出来立てのアップルパイが……食べたかったでひゅ」


「俺は焼きモロコスをツマミにな、ハチミツ酒を浴びる様に飲みたかったなあ」


「ああ、バンブロックしゃん……眠くなって……きましゅた」


 それを聞いたバンブロックも同様だった。

 もはや寒さを感じず、目をつむると心地良い眠気が襲って来た。


 そのままバンブロックは、夢の中へと引きずり込まれていった。


 それは亡き妻と娘との思い出。


 野原で笑いながら妻が手を伸ばす。

 その横で娘も笑顔で手を伸ばす。


 バンブロックが両手を広げると、妻と娘が胸の中に飛び込んで来た。


 その瞬間、心が満たされた。

 幸せだった。


 バンブロックの胸の中、娘が見上げる様にして言った。


「大丈夫だよ、お父さん」


 それは満面の笑顔。


 バンブロックは因惑する。


「大丈夫って何がだ?」


 バンブロックが娘をジッと見つめていると、その顔が突然別人に変わる。


 それはププだった。


「いつまで寝てるんです。起きて下さい!」


 その言葉で突然バンブロックは、目を覚ました。


「見つけたぞ!」

「こっちだ、こっち」

「生きてるのか」


 雪の中から聞き覚えのある声。


 その声が徐々に近付いて来る。


 ぼんやりとだが人影が見える。


 それはデン副長とフンドルとガンプの3人、そしてオーク兵3人に加えて雑用奴隷が3人。

 彼らは負傷した副長オークを送り届け、救援部隊として戻って来たのであった。


 バンブロックはその救援部隊を、ただ虚ろな目で見つめているだけだった。








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