37話 オークの負傷
ジャイアント・ラビットはジグザグに走り回り、オーク兵を撹乱する。
そして1人のオーク兵に襲い掛かった。
副長のオーク兵だ。
副長オークは、タイミングを合わせるように剣を横薙ぎに振るう。
だがその一撃は浅かった。
皮と肉を僅かに削いだに過ぎない。
逆にジャイアント・ラビットは、副長オークの剣を持つ腕に喰らい付いた。
副長オークが叫ぶ。
『◯☓、◯☓△!』
そのままジャイアント・ラビットと副長オークは、もつれるように倒れ込んだ。
そこへ周囲のオーク兵達が慌てて助けに入り、剣を振りかざしたオーク兵らにズタズタだにされた。
だがジャイアント・ラビットは死んでもなお、噛み付いた腕を離さなかった。
1人のオーク兵がバンブロック達に近寄り、ガンプに何かを言い付けたようだ。
ガンプはそれを訳す。
「お前らは周囲の警戒をしろってよ」
獲物の回収や解体では無く、周囲の警戒である。オーク兵らは、精神的にもかなり応えた様だ。
その間オーク兵達は、副長オークの腕からジャイアント・ラビットの顎を外そうとするのだが、そう言った時の対処を知らないのか、かなり手こずっていた。
巨大な前歯の付いた顎を外そうとする度に、副長オークの悲鳴が山に響いた。
かなりの時間は掛かったが、何とかジャイアント・ラビットの顎は外された。しかしその噛み傷の跡は、想像以上に酷いものだった。
副長オークの腕は革鎧ごと噛み千切られ、皮一枚で辛うじて繋がった状態だ。しかも出血が酷かったせいか、ぐったりしている。
ヒールポーションで治療したらしいが、腕が繋がるほどの効力は無いようで、せいぜい出血が止まる程度。
そこで負傷した副長オークを連れて、野営地へ戻る様に指示があった。
そう言われたのは、デン副長とフンドルとガンプの3人である。オーク兵も3人付いて行く。彼ら剣闘士3人が、交代で背負って運ぶのである。
早々に負傷オーク兵とデン副長らは、野営地へと戻って行った。
残されたのはバンブロックとポポ、そして2人のオーク兵である。
それはつまり、バンブロックとポポの2人だけで、この3匹のジャイアント・ラビットの解体をやるという事。
うんざりするが、今はやるしかない。
バンブロックとポポは、作業に取り掛かった。
もちろんオーク兵の2人は、石の上に腰を下ろして見てるだけだ。
はっきり言って足枷があろうが、このオーク兵2人なら直ぐにでも息の根を止める自信が、バンブロックにはあった。それはポンコツのポポと、鎖で繋げられていてもだ。
バンブロックは想像する。
この2人のオーク兵を倒した後の事をだ。
ここはオークの支配地であり、自分達には土地勘が全くない。そんなオーク支配地域の真っ只中を、人間の姿をした自分達が歩いて抜けられるのだろうか。
答えは否である。
ーー今は我慢だ。まだ準備が必要だ。それに部下を放っては行けない。
そんな想像をしなかをら、バンブロックは目の前にある作業を進めた。
3匹分の作業は、陽が沈みそうになる時間まで掛かった。
冷たくなった手を擦りながら、解体した獲物をソリに積み込んでいく。
そこでバンブロックは気が付いたのだが、この重たいソリをどうやって動かすのかと。
3匹分のジャイアント・ラビットの素材は、かなり重たい。子供のようなポポとバンブロックの2人だけでは、到底引っ張っては行けない。せめて車輪付きのカートでなければ無理である。
一応ポポと一緒に引っ張ってみた。
雪が積もってきていたので、何とか滑らせながら移動は出来る。
しかし数メートルで力尽きた。
バンブロックはオーク兵に向かって言った。
「せめてお前らも手伝えよ。そうじゃなきゃこれは動かねえぞ」
通訳のガンプが居ないから、言葉は伝えられない。だから言いたいことを言ったまでだ。
するとオーク兵2人は少し話し合った後、なんと後ろからソリを押し始めたのだ。
バンブロックの意思が、少しは伝わったみたいだ。
これには少し驚くバンブロック。
ポポは感心した様子で、後ろからソリを押すオーク兵を見ていた。
2時間ほど移動したが、まだまだ帰りの道のりは遠い。
一旦は小休止して倒木の上に座っていると、バンブロックはまたも異変を察知した。
バンブロックは倒木の上に立ち、移動して来た獣道を見つめる。
「何かが近付いて来る」
バンブロックがそうつぶやくと、ポポがそれに返答する。
「血の臭いを追い掛けて来たんでひゅかね」
不思議に思ったオーク兵2人も、立ち上がってバンブロックの視線の先を見た。
突然バンブロックが叫ぶ。
「ラットマンだ!」
フード付きのローブが見えたのだ。それは昨夜ガンプが言っていた、ラットマンの服装そのものだったのだ。
オーク兵も確認したようで、バンブロックらにロングスピアを手に取るように、ソリの荷物を指差した。
バンブロックとポポは、ロングスピアを手に取り構える。
1メートルちょっとの身長しかないラットマンは、草の中に入られると殆んど姿が見えなくなる。
草が波打つように動くだけで、何人がいるのかも分からない。
バンブロックは時々見える姿から、10人近くはいると考えた。
そうなるとちょっと分が悪い。
ポポがバンブロックに言ってきた。
「こいつらのお目当てはきっと、ジャイアント・ラビットのお肉でひゅよ」
バンブロックもその点は同意した。
「ああ、そうだろうな。このお荷物が無ければな……」
たった4人でこれだけの食料を運んでいたら、それは襲って下さいと言っている様なものだ。
最善策は、このジャイアント・ラビットの素材を捨てて逃げる事だろう。しかしそれは、オーク兵が許さないと分かっていた。
次第に敵は、バンブロック達の周りを取り囲み始めた。
とにかく動きが早い。
一対一なら楽勝だろうが、数人で一度に来られるとバンブロックでも危ない。
バンブロックはオーク兵に向かって、首輪を指差す。
「これを外せ。ここを凌ぐにはそれしかないぞ」
手振りで首輪を外せとアピールした。
オーク兵2人は迷っている。
そこでポポが叫んだ。
「来ましゅよ!」
目の前の草むらから、フード付きのローブを着た亜人が現れた。
やはりラットマンである。手にはショートスピアを持っている。
そして勢い良くショートスピアを投げた。
それはソリの荷物に付き刺さる。
さらに次のラットマンが現れて、再びショートスピアを投げる。
これを繰り返されると、手が出ないままいずれ負傷者が出る。
バンブロックはソリの荷物からシャベルを取り出し、それをポポに持たせる。そして再びオーク兵に、首輪を外せと訴えた。
ポポの石弾が使えれば、大きく戦況を変えられるからだ。




