33話 新人剣闘士
バンブロックは逸る気持ちを抑えて、その他種族の看板がある所へとゆっくりと歩いて来た。
そしてひとつひとつの檻を確認しながら、ゆっくりと進んで行った。
エルフやドワーフに始まり、ダックに昆虫系までいる。
ダークエルフもいた。
こちらは女性で首輪が嵌められている。
バンブロックはちょっとだけ気になり、立ち止まってそのダークエルフを見つめていた。
寝ているのだが、余りに無防備過ぎるのだ。ちょっと屈めば見えるんじゃないだろうか。
バンブロックは無意識に、腰を屈み始めた。
すると……
「バンブロックさん、何をしたいのですか」
ププが口を挟んできたのだ。
「あわわ」
慌てて姿勢を正して前へ進むバンブロック。
「バンブロックさん、右手と右足が同時に出てます」
「お、おぅ……」
そして遂に見つけた。人間が入っている檻だ。
檻の隅で腰布のみの姿で、縮こまるように横たわっていた。もちろん男である。
栄養が足りないのか肌は青白く、全身に痣や傷が多い。
それにやはり痩せ細っていた。
これだけ見ると、死体なのではと思ってしまう。だが心臓の鼓動に合わせて、僅かに胸が上下しているのが見えた。
ーー良し、何とか生きてるな
バンブロックは檻の前でしゃがみ込むと、驚かさない様にと小声で話し掛けた。
「俺の声が聞こえるか」
返答がない。
そこでバンブロックは、自分が有名になっているのを逆に利用する。
「俺は元ならず者部隊を率いてた人間種だ。聞こえてるか?」
それが聞こえたのか、ピクリと身体が動いた。そしてゆっくりと起き上がり、バンブロックに顔を向けた。
髪の毛はボサボサで髭は伸び放題。人間界の貧民街の浮浪者よりも酷い見た目である。
臭いも酷い。
ただ目玉だけがギョロギョロとしていた。
かなり長い事ここにいるらしい。
つまり売れ残っているのだ。
起き上がった所でバンブロックは話を続ける。
「俺はバンブロックと呼ばれている。戦闘経験者や元兵士を探している」
すると男は目玉をギョロつかせながら言った。
「辺境軍、静寂の森防衛隊、バンブロック10人隊所属、デン副長です……うっうっうっ」
そう言い切った後、涙を流しながら敬礼をした。
バンブロックは思わず鉄格子越しに、デン副長の手を握って言った。
「本当にデン副長なのか、生きてたのか」
「……はい、まさか生きて隊長に会えるとは……うっうっうっ」
「良かった、本当に良かった……デン副長、生きててくれて、ありがとう」
「隊長こそ、良くご無事で……うっうっうっ」
デン副長は涙で顔がグチョグチョだ。
バンブロックは必死に涙を堪える。
それを見ていたオーク兵は、つまらなそうに舌打ちする。
「デン、副長。ここから助け出してやる。グリーンスキンの奴隷には変わり無いが、俺には作戦がある。それを手伝ってくれ」
「了解です、隊長」
2人はガッシリと握手を交わした。
これでちょうど3人の候補が見つかった。半獣人のフンドルと豹系獣人のガンプ、そしてデン副長だ。
やはり人族語が通じるのと、同じ軍隊方式を知っているメリットは大きいと考えたからだ。
元人族軍兵士なので、基本動作は知っているはず。
後は身体で思い出させるだけである。
ププに3人の檻番号を知らせた。
バンブロックの仕事はこれで終わりだ。店の外へと連れて行かれ、獣車の檻で待つことに。
しばらくするとウマッハとププが最初に出て来て、それに続いてオーク兵と新しく買われた奴隷3人が出て来た。
奴隷3人はバンブロックと同じ檻に入れられる。
残念ながらステップにオーク兵が立った為に、会話は出来なかった。
養成所に着くと3人は、真っ先に使用人奴隷に全身を洗われ、髭や髪の毛も短く切られていた。
そして容赦なく奴隷の焼印もされていた。
それが終わると、広場の片隅での食事タイムとなる。
ろくなものを食べていない彼らは、猛獣の様にタルイモに食らい付き、水をガブガブと飲んだ。
食事を終えると彼らは、全員ランクEの部屋に入れられた。
そこでバンブロックはこっそりランクEの部屋へ行って、以前締めた奴らに脅しを掛けた。
ーーこれで新人イビリは無いだらう
□ □ □
そして翌日から早くも軽い鍛錬から始まった。
彼ら3人の鍛錬を見るのが、バンブロックである。ポポの時と同様であった。
ただし3人は体力が衰えているので、基本的な鍛錬ばかりである。
広場の中を走らせたり、筋力トレーニングや木剣を使った軽い打ち合いだ。
4日目になると大分体力は回復して来た様なので、バンブロックは軍隊式の鍛錬に切り替えた。
掛け声と共に隊列を変えたり陣形を変えたりする、人間の集団戦闘の鍛錬だ。
これをやって行くと、徐々にチームワークが出来上がってくる。
その後に剣術の鍛錬だ。
他の剣闘士達は、それらを不思議そうな目で見ていた。人間界の軍隊を知らないからだ。
バンブロックは鍛錬をしながら、ここでのルールや自分の魔術についての説明もした。
バンブロックが魔術を使える事に、かなり驚いていたのはデン副長である。説明が面倒臭いので、バンブロックはただ「今は使える」とだけ言った。
そしてデン副長に、他の生き残った部下が居ないか聞いたのだが、恐らく居ないのではという結論となった。もちろん自らの手で殺してしまった、ドラグの話もした。
そして5日目になってやっと、彼らの初戦が決まった。
いつもの様に、試合日ギリギリで知らされた。3人共に明日がデビュー試合である。
その対戦相手は、角狼と言う魔物が3匹。それを3人で倒せと言うのだ。
心配なのは体力である。3人共に病み上がりみたいなもんである。
バンブロックからのアドバイスは『防御重視でのカウンター狙い』であった。
そして翌日の朝。デン副長とガンプとフンドル3人のデビュー戦の日だ。
3人は獣車でコロシアムへと、運ばれて行った。
今回バンブロックは、連れて行ってもらえなかった。なので、ひたすら広場で鍛錬をしながら、彼らの帰りを待つだけであった。
昼休憩をとり、午後からの鍛錬を始めてしばらくした頃だ。
広場の外に獣車が止まった。
デビュー戦か終わり、3人が帰って来たのだろう。
ただし生きていればの話である。




