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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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32話 街一番の奴隷商






 バドの街へ入ると獣車はコロシアムではなく、奴隷商の集まる方へと走って行く。


ーー綺麗な格好させたのは、俺を売るためか?


 バンブロックはププとモナを思い出す。


「奴隷生活としちゃ、意外と楽しかったな……」


 そして獣車は大きな建物の前で止まる。 

 バンブロックはそこで降ろされた。

 ウマッハ達も同様にそこで降りる。

 獣車を停めておく敷地もあるようで、オーク兵が獣車を裏手へ移動させて行った。


 そしてウマッハは護衛のオーク兵とププを連れて、建物の中へと入って行く。

 バンブロックはそこで首輪はそのままだったが、足枷あしかせを外された。

 そしてオーク兵に両脇を固められ、ウマッハに続いて建物へと入って行った。


 そこは今まで見た奴隷商とは別物だった。

 綺麗な内装な上に、絵画まで飾られている。

 高級感あふれる造りだ。


ーーオークに絵画の良さが分かるのか?


 そして広大な奴隷倉庫へと案内される。

 そこでバンブロックはピンときた。前回と同じ流れだからだ。バンブロックが売られるのでは無く、買う側なのだと。

 服を着せられたのも、ここが高級な場所だからだ。


 ウマッハはププに何かを言い付け、別の部屋へと入って行った。

 その代わりにププとオーク兵2名が残り、バンブロックに付いて回るようだ。

 ププがバンブロックに近付き、いつもの様に伝言を伝える。


「ご主人様が“ここの奴隷から強い者を選べ”と言ってます」


「やはりそうか。最近は負けが込んで、剣闘士の人数が減ってきたからな」


「そう言う事です。人数は3人です」


「そんなにか。該当者が居なかったらどうするんだ」


「ここがバドの街で一番大きな奴隷商です。必ず選んで下さい」


「分かった。取り敢えず見てみようか」


 バンブロックは、並べられた檻を順番に見て回りだした。

 人気の奴隷商らしく、金持ちそうなオークが何人も見て回っていた。


 種族ごとに区画が分けられているのだか、バンブロックは全部の奴隷を見るつもりだった。


 最初に目に止まったのはリザードマンだった。衰弱してはいるが、体中にある古傷を見ればそれが剣による傷だと分かる。

 寝転んで背を向けている状態だ。


「おい、起きているか」


 返事は無い。

 仕方無いのでププに、北方語で声を掛けてもらう。

 すると反応があった。

 

「◯☓△!」


「ププ、元兵士か聞いてくれ」


 ププが尚も話し掛けると、やっと起き上がってこちらに顔を向けた。隻眼だ。

 顔を斜めに斬られた跡があり、その傷が彼の左目を潰していた。


ーーこれじゃあ使い物にならないな


 バンブロックは、早々に話を切り上げその場を立ち去った。

 片目だと距離感を取るのが難しく、戦闘では不利になる。

 バンブロックはこの隻眼リザードマンが、剣闘士としては難しいと考えた。


 そしてバンブロックは足早に、次々に檻を見て回る。

 半獣人族の所に来た時、それらしい奴隷をまたも見つけた。

 毛が伸び放題で、何の種類の半獣人かも分からない。座ったままジッと床を見つめている。


 そこでバンブロックはププへ通訳を頼んだ。

 

「ププ、こいつが元兵士なのか聞いてくれるか」


 そう言った途端だった。

 その半獣人が勢い良く顔を上げて、バンブロックの顔を見つめる。


 バンブロックは思う事があって、通訳しようとするププを手で止めた。


「ププ、通訳は要らない――なあ、俺の言葉が分かるんだよな?」


 するとその半獣人は返答した。


「あんた人間なのか。まさかここに人間が来るとは……」


 そこまで言って、チラリと付き添いのオーク兵とププを見る。


「ああ、そういう事か。このハーフリングも奴隷だから大丈夫だ。それにこのオーク兵は人族語を知らない。安心して話してくれ」


「そうか、分かった。人族語が話せるのは、俺が中央軍の第6百人隊に所属していたからだよ。名前はフンドルと呼ばれてる」


「第6って言ったら最前線に近いな。俺は辺境軍、静寂の森防衛隊、バンブロックと呼ばれていた」


 それを聞いたフンドルが、驚きの表情で言った。


「あの、ならず者部隊の隊長……」


ーーああ、やっぱりそう言う反応か


 そう呼ばれていたのも、まあ仕方の無いことである。しかし前線に近い部隊にまで、そんな呼び名が広がっているとは思わなかったバンブロックであった。


「えっと、他に元兵士がいたら教えてほしいんだが、どうだ居るのか?」


「この先の奥にひょう系の獣人が居ます。そいつが元兵士です」


ーーいきなり敬語になったか。ま、良いけどな。


 バンブロックは言われた場所へと行って見ると、そこには確かにひょうの獣人が檻に入れられていた。


 バンブロックが檻の前でしゃがむと、その獣人が驚いた様にバンブロックを見て口を開く。


「あ、あんた、ならず者部隊の隊長じゃねえか……」


 人族語である。

 バンブロックは名を告げる前に素性を知られてしまった事に、少なからず衝撃を受ける。


「俺ってそんなに有名なのか?」


 すると獣人は鉄格子を掴み返答する。


「命令を聞かない連中を束ねて、あれだけの戦果を出してりゃよお、そりゃ有名にもなるぜ。それに獣人や半獣人でも差別しないって有名だぜ。そう言えばな、俺はあんたと一緒に戦った事もあるぜ。ドドロ川の戦いの時だよ」


「ほう、あの時の戦いにお前もいたのか」


「ああ、そうよ。キツかったよな。味方の半数以上が死んだんだからな」


 そこへププが割り込む。


「オーク兵が、話は手短に済ませろと言ってます」


「そうだよな、その内言われるかと思ってたよ」


 バンブロックは特に悪びれる訳でもなく、さらにププに言った。


「最後にこいつの名前と、他に元兵士は居ないか聞いても良いか」


「そのくらいだったら大丈夫だと思います」


 バンブロックは、もう1度だけひょうの獣人に質問した。


「最後の質問だ。お前の名前を教えてくれ。それと他に元兵士は居ないかも知りたい」


「俺はガンプと呼ばれてる。それから元兵士か。人間の元兵士が売られてるって聞いたことがあるけどよ、大分前の話なんで今もいるかは知らねえ。その他種族の区画へ行って確かめるんだな」


 それを聞いてバンブロックは、慌ててその他種族の区画看板を探した。


ーー他種族区画、あそこか!


 その看板を見つけるや、走り出そうとしてオーク兵に止められた。


「邪魔するんじゃ――」


「バンブロックさんっ、ダメです!」


 バンブロックは、ププのいつもと違う声を聞いて我に返った。


「ププ、すまん……」


 バンブロックはゆっくりと歩き出す。

 その拳は強く強く握られていた。








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