31話 スプーン攻撃
ポポが詠唱を始めると、かざした手の前に石弾が出現した。
「石弾!」
ポポが正攻法の石弾魔術を放った。
だが放った石弾は、数メートル先にポトリと落ちる。標的の人形にさえ届かない。
静まり返る広場。
まるで時間が止まったかのように、その場にいた全員の動きが止まっていた。
その中でただ一人動き出す。
ポポが笑いながら振り返った。
「えへへ。おかしいでしゅねえ。今日は調子が悪いみたいだなぁ、はは……ははは」
そこへ鬼の形相のバンブロックが迫り寄り、ドスの効いた声でポポの耳元で言った。
「お前、死にてえのか。今後は人前で今の魔術は見せるな。特にウマッハの前ではな。奴に見限られたら死ぬだけだぞ。見せる時は必ずスプーンを使え」
「ええ〜、でもロックしゃんがやれって――」
「黙れ!」
「ひえっ」
「……それで剣の方は使えるのか」
「はい、剣が使えましゅね」
「良し、なら次は剣だ。そこの木剣で好きなように打ち込んで来い」
ポポはラックに入った木剣を手に取ると、ニヤリと笑みを見せて言葉を返す。
「ふん、舐められたもんでしゅね。これでも賞金稼ぎだったんでひゅよ!」
そう言うや、ポポが突然打ち込んで来た。
不意打ちである。
バンブロックは木剣で、それを軽々と弾く。
ーーやはり体重差がでるな
ポポは悔しそうに、何度も木剣を打ち込んで来た。
しかしバンブロックは、その全てを軽々と弾き返す。
そこでバンブロックが、横薙ぎに木剣を振るった。
するとポポは木剣でそれを受けはしたが、身体ごと吹っ飛ばされる。
それで打ち合いは終了となった。
ここまでのバンブロックの評価は、剣に関しては可も無く不可もなくであった。ただ身体が小さい分、ひとつひとつの攻撃が軽い。逆にバンブロックの攻撃は重い。
まさに大人と子供の戦いであった。
だが良い点もある。
とにかくすばしっこく、機敏性は非常に高かった。
バンブロックは、ポポが起き上がった所で質問した。
「スプーン攻撃は連続何回まで出来るんだ」
「痛たたた……えっと、15発位でしゅかね」
そうなるとポポの戦いのスタイルは決まった。
やはり遠距離特化の戦い方である。
石弾魔術は15発は可能だと言うので、ひたすらスプーン攻撃で近付けさせなければ良い。
ランクEの剣闘士程度ならば、あの連続攻撃は耐えられないだろう。
少なくてもその戦闘スタイルで、しばらくは生き残れる。
それがバンブロックの出した答えであった。
「ポポ、お前はひたすらスプーン攻撃に徹しろ。接近されたら殺される思え」
バンブロックがそう言うと、ポポが文句を言いだした。
「そのスプーン攻撃って言い方、やめてもらえまひゅか。スタッフスリング攻撃でしゅって」
「じゃあ、さっきお前が持っているのは何だ?」
「スプーンでひゅ……」
「なら、そう言うことだ。大体なあ、スタッフスリングなんて使う剣闘士は、見たことないからな。そもそも剣闘試合で飛び道具はありなのか?」
「オーク兵に聞いてみまひょう」
そう言うや、ポポは壁際に立つオーク兵の元へ歩いて行こうとする。
バンブロックは慌ててポポの首根っこを掴んだ。
「バカかお前は。オークは敵には言葉が通じないだろ。ちょっと待ってろ、そう言うのはベテランのモナに聞いてみるのが一番」
「おい、モナ、ちょっと――って、来るの早いな」
モナは目の前にいた。
モナを呼び止めると、オーク兵がギロリと睨む。ポポ以外の会話は認められていないからだ
そこでモナに教官を呼んでもらう。
教官を挟めば会話は可能だ。
モナが教官の言葉を訳してくれた。
「知らんけど、基本ルール上は弓やスリングは禁止みたいだな。で、その女は何者だ」
「いや。剣闘士だから」
「基本的には禁止だが、魔術による飛び道具は可能だって言ってる。知らんけど、なんでロックがその女に教えている」
ーーちょいちょい余計な質問をぶち込んでくるな
「分かった、モナもありがとう。じゃ、鍛錬の続きに戻る」
「今度じっくり話を聞こう、知らんけど」
モナは眉間にシワを寄せながら、自分の場所に戻って行った。
□ □ □
そしてポポの初戦の日が来た。
この日バンブロックは、試合が無いにも関わらずコロシアムへ連れて行かれた。
ポポの試合を見ろとの指示があったからだ。
ポポ以外にも、3人の剣闘士がコロシアムへ向かった。
バンブロックは全員の試合が終わるまで、控え室で待つことになる。いつものように男臭い部屋で、小窓から試合を見物して時間を潰す。
そして遂にポポの試合の番がきた。
入場扉から出て来たポポは、頭がスッポリ入るヘルムを着けていた。ネズミの形の骨製ヘルムである。
最近の流行りで被らせているのか、ハーフリングが人間に似た種族だから隠したいのかは分からない。
ただサイズが合っていない。
歩き出すとヘルムが揺れる。
それに加えて灰色のローブを着込んでいた。
魔術戦士をモチーフにしたと思われる。
そして腰にはショートソード、手には身長よりも長いスプーンを握り締めて、闘技場の中央に立った。
魔術が使えると言うので、初戦からキャラ作りがされているのだ。バンブロックの時とは大違いである。それだけウマッハの期待が掛かっているのである。
そして対戦相手なのだが、ゴブリン剣闘士であった。ポポとはほぼ同じ位の身長である。
盾と短槍を装備し、顔まで隠れる革製の頭巾を被る。こちらに関しては、流行りで被らせているのであろう。
そして試合開始のドラムが鳴った。
ポポはドラムが鳴る前から詠唱を始めていたので、開始の合図と共にスプーン攻撃を始めた。中々ずる賢いところがあるみたいだ。
ゴブリンは、直ぐに盾をかざして石弾を防ぐ。
そして盾に身を隠したまま、ポポに近付こうとする。
しかし何発目かの石弾が足に命中。
その場に転倒。
どうやら骨を砕いたらしく、ゴブリンは立ち上がれなくなった。
すると試合終了のドラムが鳴った。
あっという間である。
ポポは大喜びしているが、観客は物足りなそうだった。
ポポの場合、詠唱から石弾発射までのサイクルが短い。相手からしたら、間を空けずに石弾が飛んでくる事になる。
対抗手段としては、大きな盾を用意しなければいけない。
今後は大盾を持った相手との戦闘についても、対策を考えておく必要がある。
取り敢えずポポは初戦を生き抜いた。
バンブロックはそれだけで安堵するのだった。
その後、一緒に来ていた剣闘士の試合が行われたが、それが余りに酷かった。
ウマッハ養成所からは、ポポの他に3人の剣闘士が試合に出場したのだが、3人とも敗退した。しかもその内の1人は、首を刎ねられた。
生き残った2人も重傷で、帰りの獣車には乗って来なかったのだ。
ウマッハはかなり機嫌が悪そうで、護衛のオーク兵にも当たり散らしていた。
最近のウマッハ養成所からの出場剣闘士は、負けが続いている。勝ち続けているのは、モナとバンブロックだけだ。
さすがにこの状況を良しとしないウマッハは、翌日に動き出した。
鍛錬中のバンブロックの前にププが来た。おなじみの光景である。
「ご主人様からの伝言を伝えます。今から街に出掛けるそうなので、準備をしろと言ってます」
「何だ、俺も行くのか。だけどな、準備する物なんかないぞ。まあ、寒いから上着があると助かるけどな」
そこへ使用人奴隷達がやって来た。
そして入れ替わるようにププが居なくなる。
使用人奴隷達はバンブロックを宿舎に連れて行き、身体を洗って粗末ながら服を着させた。首輪ど足枷もキッチリ忘れずに嵌められた。
いつもと違う扱いに、バンブロックは動揺しかない。
そして獣車に乗せられ、バドの街へと向うのであった。




