30話 スタッフ・スリング
新しくハーフリングがウマッハ養成所に入った。この養成所で、剣闘士としてのハーフリングは初めてだと言う。
数が少ない上にハーフリングの様に小さな体格は、剣闘士に向かないからだ、
それでもここに来た以上は、生き残らなければならない。まずは初戦を生き抜くのが目標だ。
バンブロックの様に魔物と対戦させられるのか、あるいは剣闘士をぶつけられるのかは分からない。
どっちにしろ生き残るには、勝つしかない。
初戦で負けたら生き残ったとしても、治療さえしてもらえずに死を待つことになる。
そこであのハーフリングに今出来ることは、体力を回復する事である。
それをウマッハも知っているので、養成所に入ると直ぐにまともな食事を与え、疲労回復ポーションを飲ませていた。
奴隷と言えども金が掛かっているので、見限られない内はそれ相応の扱いを受けられるのである。
その頃バンブロックはと言うと、いつもの様に広場で鍛錬をしていた。
そこへププが現れる。
いつものようにチョコチョコと歩き、バンブロックの横に立つ。
「ご主人様からの伝言を伝えます」
バンブロックはまた始まったかと思いながらも、鍛錬を止めてププの話を聞く。
「なんだ、次の試合が決まったのか?」
「最後まで聞いて下さい。“昨日買ったハーフリングの奴隷の鍛錬を開始しろ”との事です」
バンブロックが顔を歪ませる。
「ちょっと待て。ここにはランクごとに正式な教官がいるだろ。何で俺が面倒を見なきゃいけないんだよ」
「ロックさん、もう1度ご主人様からの伝言を言った方がよろしいですか」
「ああ、分かったよ。ププは伝えに来ただけだからな。文句はウマッハに言えってことな。ったく、とんだお荷物だな」
「ロックさん、来ました」
ププの視線の先には、多少は元気を取り戻した様子のハーフリングが、こちらに歩いて来ていた。
そのハーフリングはバンブロックの前に来ると、まずは礼を言ってきた。
「助けてもらい感謝でしゅ……です」
背丈はププと同じ位だろうか。1メートルちょっとある。
しっかり魔術封じの首輪を嵌められているのだが、体格差から首輪が大きく見える。
そして汚かった身なりは綺麗に洗われていて、見違える程になっていた。しかし痩せ細った身体はそのままである。
「ああ。礼ならププにしてくれ。まずは名前を聞かせてくれるか」
「ポポでしゅ」
ーー噛んだのか?
「そうだ、忘れるとこだった。年齢と性別を教えてくれ」
ーーこれは重要だ。また間違えたら大変な事になる
「20歳、女でしゅ」
ーーあっぶねぇ〜、聞いて良かったぁ
「そうか、分かった。それで初戦はどうなるか聞いているか?」
バンブロックの初戦の様に、殺されるのが前提で試合を組まれるのか、あるいはまともな試合が組まれるのかだ。
その質問にはププが答えた。
「戦闘経験者や戦いに有用な魔術が使える者の場合、初戦の相手はランクEの剣闘士と聞いています」
ーー俺の時の待遇とは雲泥の差だな
「分かった。取り敢えずはポポの鍛錬に付き合えば良いんだな」
ププが答える。
「そうです。よろしくお願いします。私は仕事がありますのでここまでです。それからポポは北方語が話せません。南方語と人族語だけです。その辺もよろしくお願いします」
それだけ言うとププは、小走りで行ってしまった。
この場には、ポポとバンブロックの2人だけだ。
バンブロックは何故か気まずい感じがする。
ちなみにポポへの鍛錬指導と言う事で、会話が許されている。
そこへ「おっと、っと……」とか言いながら、モナがバンブロックにぶつかって来た。
そしてオーク兵にバレないように、耳元で囁く。
「知らんけど、この女は誰……」
それだけ言うと、直ぐに離れて行く。
バンブロックの背中に悪寒が走った。
するとポポが聞いてきた。
「今の人、誰でしゅ」
バンブロックは即答。
「決して敵に回してはダメな人だよ」
ポポは真剣な顔で、大きく頷くのだった。
ポポの初戦は3日後である。
それまでに出来るだけ体力を回復させたい。
かと言って戦いの勘も取り戻させたい。
限られた日数なのに、やる事が多すぎて悩むバンブロック。
まずは筋力は直ぐに戻らないから、接近戦は不利だとバンブロックは考えた。
“石弾”の魔術が使えるならひたすら遠距離から攻撃して、接近戦に持ち込まれないように戦うのが得策である。
「ポポ、まずは石弾の魔術を見せてくれるか」
「構わないでしゅけど、首輪が……」
ーーこいつ、舌っ足らずなのか?
そこでバンブロックはオーク兵を呼んで、首輪を外すジェスチャーをすると、何とか意思が伝わった。
首輪を外すと何度も首を回すポポ。
バンブロックもその気持ちは良く分かる。
「ロックしゃん、私の石弾はちょっと変わってて、シュタッフシュリングがあるとちゃんと見せられるんでしゅが……ありましゅかね。スタッフスリング?」
ーー何かさっきよりしゃべり方が酷くなってないか?
ちなみにスタッフスリングとは、長い棒を使った投石武器である。棒が長ければそれだけ遠心力が増して、投石の威力が上がるし遠くまで飛ばせるといったものだ。
しかしこの養成所にそんな物はなかった。
するとポポ。
「無ければ大きなスプーンでも構いません。調理場とかに有りませんかね。大っきいシュプーン」
そこで調理場から大きなスプーンを借りてきた。柄の長い、木製の調理用スプーンである。
それはポポの身長よりも長い。
そのスプーンを渡すと、ポポは何回か振って見せる。
意外とちゃんと振れていた。
と言うよりも扱いに慣れた感じだ。
「それでは見てて下さい。標的はあの人形で良いでひゅか」
「ああ、そうだな。やってくれ」
鍛錬中の剣闘士達の目がポポに集中する。
ポポはスプーンを後方に構えるや詠唱を始め、体を一回転させてスプーンを振り抜いた。
すると標的の人形にバシッと、音を立てて命中した。
バンブロックはすぐさまポポに文句を言った。
「おい、単なるスタッフスリングの攻撃じゃねえか!」
するとポポは笑顔で返す。
「そう見えましゅたか。それならば、もう少し分かり易くしましょう」
そう言ってポポは再び同じ構えを取る。
そして一回転して、同じように人形に攻撃を加えた。
しかしそれだけでは終わらなかった。
さらにもう1回転して人形に石弾を飛ばす。
それを5連続続けた。
終わるとポポは、振り向いてバンブロックに言った。
「分かりましたか?」
「ああ、さすがに今のを見たら分かる。石を補充しないで連続攻撃したよな。スプーンの中にに石弾が突然現れたからビックリしたよ」
ポポは笑顔で返す。
「そうです。私の石弾魔術は、スタッフスリングと言う武器を通して発現するんでしゅ。こういった魔術発現は他に見たことがありましぇん。魔石があればシュタッフシュリングに仕込んで、さらに強力になるんでひゅが……まあ、このご身分で贅沢は言ってられましぇん」
ーーそう言えば俺、魔石の欠片を持ってたな。ま、良いか
そこでバンブロックはある事に気付く。
「なあ、ポポ。自慢げに言ってるけどさ、通常の石弾魔術は道具無しで飛ばせるんだよな。それなのにお前の魔術だと、スタッフスリングと言う道具が必要な訳だ。それって石弾魔術の劣化版じゃないのか」
それを指摘されて動揺するポポ。
「そ、そ、そんな事はないでしゅよ。ふ、普通の石弾魔術も使えましゅしゅ……」
「ほう、なら見せてみろ。普通の石弾魔術」
「わ、わ、分かったでひゅ、でしゅ、です」
すると先程までの流れるような動きとは違い、カラクリ人形の様な動きで標的の人形に手をかざす。
そして「石弾!」と声に出し、魔術を発現させた。




