29話 奴隷商
奴隷が多く置かれている中で、ウマッハと店主がしばらく会話していた。
そして唐突にププに何かを話し出す。
話を聞いたププが、バンブロックの方へやって来た。
バンブロックは売られると思い覚悟を決める。別れは辛いが、奴隷である自分には抗えない。
ププがバンブロックの前で口を開く。
「ご主人様の言葉を伝えます。この倉庫の中の奴隷で、剣闘士として将来有望そうな者や、現時点で力量が高い者を選べと言っています」
予想と違う言葉。
バンブロックは狼狽える。
「え、待て、選べって何をだ」
そんなバンブロックを見たププが、ため息をつくともう1度繰り返す。
「ロックさん。この中から奴隷剣闘士を選べとご主人様は言ってます」
「選ぶ? 俺が選ぶのか」
「はい、選んでください」
「その後に俺の番って事か……」
「いい加減にして下さい。ロックさんは売られません。剣闘士の力量は、ロックさんの方が分かるとご主人様は判断されたのです。何ひよってるんですか。とっとと選んで下さい――あ、すいません、取り乱しました……」
いつもと違うププの雰囲気に一時は圧倒されたのだが、バンブロックは自分が売られないと知ると安堵した表情を見せる。
だが直ぐに表情を変え、奴隷達の檻を見て回りだした。
しかしここの奴隷環境は劣悪だった。
むせ返るような悪臭。
淀んだ空気。
バンブロック自信の時も酷かったが、女であるププがこの環境に居たのかと思うと、良く堪えたかと感心した。
こんな環境でも奴隷の数だけは多い。
奴隷は半獣人が獣人ばかりかと思っていたバンブロックだが、ここの檻にはそれ以外の奴隷も多くいた。
ホブゴブリンやゴブリンに加えてハーピーやリザードマン。そしてププと同じハーフリング。
珍しい所ではダークエルフもいた。
しかしどの奴隷も目が死んでいた。
檻の隅で縮こまって怯えている者。
明らかに精神が病んでいる者。
バンブロックは感じた。ここで売れ残れば死が待っていると。
バンブロックはゆっくりと歩いて見て回る。
ウマッハと護衛のオーク兵は、遠くで眺めているだけだ。この臭いに近付きたくはないのだろう。
この状況なら会話出来ると判断したバンブロックが口を開く。
「なあププ、良い奴隷が見つからなかったらどうしたら良い?」
すると突然ププがわざとらしく、檻の中を眺めながら言った。
「ロックさん、お願いがあります」
「俺にお願いって言われてもな、何も出来ないぞ」
ププはお構いなしに話し出す。
「右奥の檻に、ハーフリングの奴隷がいます」
バンブロックは横目でチラリと確認する。
「ああ、確認した」
「あのハーフリングを選んで欲しいのです」
言葉に詰まるバンブロック。
ーーどう見ても剣闘士向きじゃないだろ
そのハーフリングは、初めて会った時のププの様に痩せ細っていて、とても戦いに向いている雰囲気ではない。
そもそもハーフリングは、人間の子供ほどの体格である。とてもじゃないが、剣闘士には向かない。
バンブロックが返答に悩んでいると、ププがさらに話を続ける。
「魔術が使えます。“石弾”と言う魔術です」
石弾の魔術は使える者が多い。魔力量の消費が少なく、習得までの時間も比較的短いからだ。少なくても人間界では、使える者は多い。
多いと言っても魔術が使える者自体が少ないので、総数で考えると非常に少ないとなるが。
「取り敢えず見てみるか」
そう言ってバンブロックは、そのハーフリングの檻の前までやって来た。
近くで改めて見ても、バンブロックにはどう見ても小汚いガキにしか見えない。
そこで魔術封じの首輪をしていないのに気が付いた。
「ププ、首輪が……」
「隠しているんです」
「そう言う事か……それで元は兵士だったとか野盗でも良いが、そう言った戦闘経験はあるのか」
ププはしばらくそのハーフリングと会話する。その姿を見ても、無気力の印象しか伝わってこない。
しばらくするとププは、バンブロックに話し掛けてきた。
「スタッフスリングが使えるそうです」
「おいププ、それだけかよ。お前、余計な会話してただろ?」
目が泳ぐププ。
いくら石弾の魔術が使えるからと言って、剣闘士として成り立つのかと言えば、そんなことはない。
ハーフリングだと恐らく初戦で魔物に喰われるか、剣闘士に首を刎ねられる。
しかしププは尚も推してくる。
同じ種族だからか、もしくは知り合いなのだろう。
ーーここにいたら恐らく衰弱死。かと言って剣闘士に成っても直ぐに殺されるな
このハーフリングに生き残る道は残っていない。
「ププ、すまんがこのハーフリンーー」
そこまで言い掛けた所で、檻の中からか細い声が聞こえた。
「賞金稼ぎ……ゴホッ」
バンブロックは驚いて二度見した。
ひとつは人族語を発したこと、もうひとつは職業だ。
バンブロックは慌てて聞き返す。
「何で職業を隠していた。それと人族語は何処で覚えた」
すると声を出すのも辛そうに返答が帰ってきた。
「ターゲットはここの奴隷商の主人……生まれは人間の地……ゴホッ」
「なるほどね、そりぁ話せないよな」
「ロックさん、どうでしょう?」
ププも必死だ。
バンブロックは少し悩んでから口を開く。
「分かった。ただな、ウマッハには正直に職業と魔術を使えると伝えろ。その代わり、それを相手の店主に知られると、値段が釣り上げられるとも伝えろ。上手く行けば破格の値段で買えるとな」
ププの表情がパッと明るくなった。
「分かりました、直ぐに伝えて来ます!」
「相手の店主にバレたら終わりだから慎重にな」
ププは拳を握り大きく頷くと、小走りでウマッハの所へと行った。
その走る後ろ姿を見ながらバンブロックは思う。
ーー娘が生きていたら、丁度このくらいの歳なんだろうな
その後バンブロックは獣車に戻され、檻の中で出発を待った。
バンブロックがウトウトし始めた頃、店からウマッハ達が出て来た。あのボロボロのハーフリングも一緒だ。
ププがバンブロックに向かって、小さく親指を立てた。
上手くいったようだ。
そして獣車の列は、ウマッハ養成所へと帰って行くのだった。




