24話 スケルトン
今日の試合では防具は無しであった。
鎧は無く腰布だけだ。
武器と盾は選べたので、バンブロックはカイトシールドと、いつもの白く輝くグラディウスを選んだ。もちろんドクロヘルムはお約束だ。
今日の試合は味方が3人と言う事で、バンブロック以外の2人も武器を選んでいた。
一人目は何度か一緒に戦った事のある、ランクCで人気も高い半獣人モナ。鎖ダガーの使い手だ。
そして今回初めてバンブロックと一緒に戦うのが、元傭兵であるランクBのオーク。
ちょっと前まで敵同士で戦ってきたオークが、今や味方となって一緒に戦うのである。
バンブロックにしたら、何とも割り切れない感情であった。
ただ以前のバンブロックとは違い、オークを見るなり殺意は湧いてこない。
そのオークはバトルアックスと、大きめの丸盾を選んでいた。
バンブロックとモナは軽く挨拶を交わしたが、そのオークとは一切会話などしないまま入場扉が開いた。
バンブロックとモナ、そしてオーク戦士は、闘技場の中央の丘へと真っ直ぐに進む。
すると丘の向こう側に、スケルトンが3体が見えてきた。
入場扉から入ったのでは無く、檻から出された様である。ちょうとその檻が片付け終わるところだった。
3体の内の1体は、確かにスケルトンメイジらしかった。
漆黒のローブを身にまとい、手にはワンドが握られている。そして何も無いはずの眼孔は、不気味に赤く光っていた。
夜の墓場で出会ったら、恐怖する様な外見だ。
他のスケルトンは、大きな丸盾とロングソードを持つ個体が1体。そして両手持ちのロングスピアを持つ個体だ。
スケルトンファイターと呼ばれる部類である。
その2体のスケルトンは、革製の鎧を着込んでいた。
スケルトンを発見すると、真っ先にオークが前に出た。
『ウラ〜!』
突撃時にオーク兵が良く使う掛け声だ。
ここまでは良かった。
勇ましく突撃するオーク。
何の問題もない。
だが丘の中央のトレントを忘れてはいけない。
丘の中央を走り抜けようとしたオークが、トレントの枝に捕まった。
足を枝に絡まれて一気に持ち上げられて、宙吊りになる。
トレントは騒ぐオークをそのまま口に放り込んだ。
観客がどよめく。
あっという間の出来事だった。
バンブロックがつぶやく。
「おいおい、それはちょっと酷いだろ。あの元傭兵のオークって、ランクBの剣闘士なんだよな。何をしに来たんだよ」
それに対してモナが答えてくれた。
「そう言えば、猪突猛進型って話だったかな。突破力は凄いが、頭が弱いって聞いたことあるよ。知らんけど」
「こうなったらモナ、厄介なメイジから倒すぞ」
「分かった。私が気を引くから、隙をついてぶっ飛ばしてくれ!」
そう言ってモナは鎖ダガーを振り回しながら、スケルトンメイジへと接近する。
バンブロックは回り込む様に接近する。
しかし、もう少しで間合いに入るという距離で、スケルトンファイターがメイジを守る様に出張ってきた。
ーー意外と頭がキレるな
そしてメイジが立ち止まるや、詠唱を始めた
バンブロックが叫ぶ。
「モナ、気を付けろっ。魔術が来るぞ!」
鎖ダガーでは届かない距離だ。
どんな魔術かは分からないが、この距離から放てる魔術は、モナやバンブロックにとって不利になる。
メイジがワンドを大きく振り下ろす。
するとワンドから紫色の玉が飛び出した。
バンブロックはその魔術を見たことがあった。
それは兵士だった頃に、村の近くの墓場へアンデッド討伐に行った時だ。
部下の一人がレイスから紫色の魔術の玉を受け、恐怖でその場にうずくまって動けなくなった。
その出来事があってから兵士達は、それを恐怖玉と呼ぶようになった。精神に作用する魔術である。
しかも結構な速さで飛んで来るので、半獣人と言えども避けるのは難しい。
モナはそれを知ってか知らずか、避けるのでは無く墓石の後ろに隠れるという選択をした。
それで恐怖玉はというと、墓石に激突して飛散した。
ただ、それだけでは済まなかった。
恐怖玉は連続で撃てるらしい。
せめて盾があれば良かったのだが、モナは盾を持っていない。
モナは墓石に隠れながら移動を試みるが、結局は墓石周辺から出られなかった。
「ロック、ここから動けない。何とかしてくれ!」
助けを求められたバンブロックだが、盾持ちのスケルトンファイターが彼に向かって来ていて、モナを助ける余裕などなかった。
さらにロングスピア持ちのスケルトンファイターは、大回りでモナに接近して行く。
味方のオークがやられて、今や3対2と不利な戦いになっていた。
そんな状況で喜ぶのは観客達である。
闘技場は興奮する観客の声で一杯だ。
モナは身を隠しながらも、必死に鎖ダガーを近付くスケルトンファイターに飛ばす。
鎖ダガーが革鎧の隙間を通り抜け、骨に直撃する。
すると一瞬スケルトンの動きが止まり、モナは「良しっ」と声を上げる。
しかし直ぐに、何事も無かったかのように動き出した。
それを見たモナが不安を口にした。
「知らんけど、こいつら不死身なのか……一回死んでるから、実はもう死なないんじゃないのか!」
その時バンブロックは思い出した。
アンデッドへの物理攻撃は、通り難いという事を。
墓場への討伐では、聖水を持って行った事を思い出す。だが今はそれは無い。
ーー聖水があれば一発なんだがな
そこで教会で聖水を受け取る時の会話を思い出す。
「――魔術なら効く――確かに神官はそう言ったはず!」
バンブロックは右手のグラディウスを見る。
「この剣なら……それに俺には麻痺魔術がある」
バンブロックはグラディウスを構えるや、目の前まで来たスケルトンファイターに斬り掛かかった。
白く輝くグラディウス。
バンブロックは、低い姿勢から剣を振り抜く。
鈍い音を立てて丸盾で防がれる。
次の剣戟を繰り出す前に、スケルトンのロングソードがバンブロックに迫る。
カイトシールドで剣を払う様に受け流す。
するとスケルトンは、バランスを崩してよろめく。
ここはチャンスと捉えたバンブロックが、グラディウスに魔術をまとわせる。
ーー麻痺魔術!
グラディウスが赤羅様に輝く。
その輝くグラディウスで、上段から振り下ろす。
バキッと骨が砕ける音。
手首と一緒にロングソードが地面に落ちる。
「いける!」
バンブロックは手首を返し、振り下ろしたグラディウスを振り上げた。
グラディウスはスケルトンの脇腹から入り、あばら骨を次々に砕き、最後は反対の肩から抜けた。逆袈裟斬りである。
するとスケルトンは、カラカラと音を立ててその場に崩れ落ちた。
「よっし、次!」
バンブロックはモナへと走り寄る。
モナは接近したロングスピアのスケルトンと戦っていた。
乱戦になった為にメイジは恐怖玉を飛ばせず、モナの後ろから回り込もうとしていた。
それをバンブロックが阻止する。
「俺はメイジをやる。そっちは任せたぞモナ!」
「分かった!」
バンブロックに気が付いたメイジが詠唱を始める。
「させるか!」
バンブロックは走り寄る。
ーーくそ、詠唱が早い!
早くも詠唱を終えたメイジから、恐怖玉が放たれる。
それをカイトシールドで受けながら、そのまま盾ごとメイジに突っ込んだ。
「でええぇい!」
バンブロックとメイジは、もつれ合う様に倒れ込んだ。
ーー麻痺魔術!
一気に魔力を流し込む。
いつもより多めだ。
するとバンブロックの盾の下で「パンッ」と、骨が弾け飛んだ。
一瞬固まるバンブロック。
そっと盾をどかすと、目の前にメイジの顔があった。
その赤い眼光は、徐々に消えていく。
「やった……」
そこでバンブロックは、倒したメイジのワンドに目がいった。
バラバラに破壊されていて、魔石も幾つかに割れてしまっていた。
バンブロックは何気なしに、その魔石の破片のひとつを拾い腰布へしまう。
そこで観客からの歓声か聞こえ、慌ててバンブロックは立ち上がる。
するとスケルトンの首を掲げたモナが、観客に勝ち名乗りを上げていた。魔術無しでスケルトンを倒したようだ。
ともかくバンブロック達は、勝利したのである。
バンブロックもモナに続き、グラディウスを天に突き上げた。
すると割れんばかりの喝采が、闘技場を包んだのだった。




