22話 おとぎ話のツリーマン
バンブロックの目の前にある木が、動いたのであった。
それは人型をした“木”であった。
ちゃんと葉も生えている。
ツリーマンと言われる稀少種の亜人である。
しかしバンブロックは知識としては知っていたが、それを見るのは初めてだ。それで直ぐに気が付く事はなかった。
ツリーマンが枝の様な手を振り上げてくる。
バンブロックは咄嗟に丸盾でそれを受け流す。
そこでバンブロックはやっと思い出す。
「お前まさか、おとぎ話に出てくるツリーマンとか言う亜人か……」
『◯☓△!』
その返答は、バンブロックにとって理解出来ない言葉。
「まさか本当に居たとはな」
ツリーマンが連続攻撃をしてくるのだが、バンブロックにしたら動作が遅い。枝の手が鞭の様にしなるので、間合いが取りにくく避けるのは慣れが必要そうだが、丸盾で受け流すのは容易い。それだけに余裕があった。
ーー凄いな、肌が樹木そのものとは……
ちょっと油断したところで枝の様な手が鞭の様にしなり、丸盾に絡み付いた。
「うおっと!」
バンブロックは丸盾に絡み付いた枝に、グラディウスを叩きつけた。
あからさまに白く輝き出すグラディウス。
すると思ったより簡単に、枝の様な手を切断してしまった。
ーーやはりこいつは魔法の剣か!
ツリーマンは枝を切断されて、さすがに痛そうだ。後ろへと下がる。
チャンスとみたバンブロックは、盾で枝攻撃を防御しつつも追撃で剣を振るう。
今度は胴体に命中。
だが胴体は切断した手の様にはいかない。
樹木の様な皮膚が硬いだけでなく分厚く、魔法剣の威力でも深くまでは斬り裂けない。
それは天然の鎧であった。
そこでバンブロックは、一旦は距離を空けて構え直す。
ツリーマンは切断された枝が痛いのか、攻めてはこない。流れる血は人間と変わらない赤い色をしていた。
「良し、勝負だ!」
バンブロックは走り出す。
枝がバンブロックの顔面に迫る。
姿勢を低くしてそれを躱す。
片手の枝だけしか攻撃してこない。
バンブロックは確信した。「これならイケる」と。
ーー麻痺魔術!
「届け〜!」
バンブロックがグラディウスを持った手を、目一杯に伸ばす。
グラディウスに魔術を帯びさせ、その刃でもってツリーマンの横腹に一撃を加えようというのだ。
それは剣先がツリーマンに触れた瞬間だった。
バチバチッと音をたてて火花が散ったかと思えば、腹の樹皮の一部が吹っ飛んだ。
そしてツリーマンが硬直して痙攣を始めた。
ーー火花が出た?
バンブロックはそのままグラディウスを振り抜き、ツリーマンの横をすり抜けた。
そのまま振り返るバンブロック。
するとツリーマンは、直立不動の姿勢のまま立っていた。
「まだくたばらないか!」
バンブロックはさらに追撃を掛けようとする。
その途端にツリーマンは、硬直したままその場に倒れ込んでしまった。
「終わりか?」
そうつぶやきながらも戦闘の構えは解かず、ゆっくりと倒れたツリーマンに近付いて行く。
そこで試合終了のドラムが鳴らされた。
観客席からはどっと歓声が上がる。
ーーこう言う時は勝ち名乗りを上げるんだったな
バンブロックはグラディウスを天に掲げた。
前にモナに忠告されたりもした、勝ち名乗りのボーズである。
そると歓声はさらに大きくなった。
その内、観客の何人かがひとつの言葉を繰り返す様になる。
それを聞いてバンブロック驚く。
人族語で『ロック』と連呼していたからだ。
次第にそれは闘技場全体に広まり、『ロック』コールの大合唱となった。
「まさか、俺の名を叫んでいるのか?」
試合終了で入って来たオークの衛兵達が、その大合唱を聞いて驚いた顔をしている。それを見たバンブロックの顔からは、笑みがこぼれるのだった。
ちょっと前までのバンブロックは、敵の奴隷剣闘士となって精神的にも壊れ掛けていたのだが、今や自分が誇らしげにさえ思えてしまっていた。
バンブロックにとっては、ここは自分の居場所なのではとさえ思えてしまう。
兵士の時は常に生死のやり取りがある為、その戦場にいるだけで生きている実感が湧く。だが剣闘士も同じだった。
それと兵士の時は戦いに勝とうが、10人隊の隊長程度では褒められもしない。ひとつの駒に過ぎない扱いだった。
だが剣闘士は違う。
素晴らしい戦いをして勝てば、種族に関係なく割れんばかりの声援をくれる。
特にバンブロックが感動したのは『ロック』コールだ。
グリーンスキンが人間の名を叫び、こんなにも熱狂するとは考えもしなかったからだ。
バンブロックは「こんな世界もあるのか」と少し感動さえしていた。
バンブロックはそんな歓声の中を、衛兵に連れられて控え室へと戻って行った。
控え室には試合を終えた剣闘士や、これから戦う剣闘士達が沢山いる。男用の控え室なので、かなり男臭がする。
そんな男臭い中、バンブロックは水桶とボロ布で汗を拭いていた。
そこへ誰かが部屋に入って来たらしい。
男達の話し声が止み、入り口に視線が集まった。
バンブロックも自然と入り口に目を向けた。
その視線の先に居たのはププ。
ーー女のくせに、こんな男臭い所によく入って来るよな
ププはバンブロックを見つけると、平然と部屋の中をチョコチョコと歩いて来た。
そして皆の視線が集まる中、バンブロックに向かって言った。
「ご主人様が呼んでいます」
「ちょっと待ってくれ。今、体を洗ってーー」
そう言いかけたところで、ププに手首を掴まれて引っ張られる。
「直ぐに連れて来いと言われていますので」
それを見て他の剣闘士達が何か言っているが、バンブロックには分からない。
『◯☓△◯☓△□、◯☓△◯☓△□。ウヒヒヒヒ』
『◯☓△◯☓△□!、ハハハハ』
そして迷路の様なコロシアムの通路を歩いた後、連れて行かれたのは闘技場のボックス席だった。
バンブロックが真っ先に目がいったのは、旨そうな果物やワインが置いてあるテーブルだった。
『◯☓△◯☓△』
バンブロックが声の主を見ると、そこにはイスに座ったウマッハがいた。
その両脇には薄着の女性オークが2人いて、2人共にウマッハに身を寄せている。奴隷か娼婦かと思われた。
ププとウマッハが少しやり取りした後、ププがバンブロックへとその内容を伝える。
「今日の戦いは良かったと言ってます。それで冬夜祭の最終日に、特別試合に参加しろと言ってます」
「特別試合?」
「剣闘士3人対魔物達の戦いです」
「ああ、分かった。それで魔物の情報があれば知りたい」
そこでププは再びウマッハと会話し、その内容をバンブロックに伝える。
「対戦相手の魔物は人族語に訳すと“骨”ですかね」
それを聞いてバンブロックの頭に浮かぶのは……
「まさか、スケルトンなのか!」
「あ、それです。スケルトンが対戦相手です」
スケルトン、それは能力に個体差がある“アンデッド”である。
それが次回の対戦相手となる。




