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気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


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2話 野営地







 モソモソと面倒臭そうに装備を整え始める兵士達。バンブロック隊の兵士である。


 森の中の偵察は日常茶飯事なのだが、彼らに与えられた偵察場所が森の一番奥にある村。それに加えて煙が昇ったのは開拓村近くの2箇所。その2箇所を偵察して帰って来るには数日は掛かる距離で、分隊の兵達はそれが不満なのである。


 いつもの巡回ならばラバに荷物を載せて行くのだが、今回は偵察だ。ラバを連れて行く訳には行かない。

 それで出来るだけ荷物は減らしたいのだが、一番重くてかさ張るのはテントだ。森の中の夜は非常に寒い。だから野営テントは持って行きたい。しかし軍に支給されるテントは重い。

 テント泊を諦めて焚き火で暖をとるという手もあるのだが、敵対勢力がいたらこちらの所在を知らせる事になる。

 結局は食料を減らしてテントを運ぶ事になる。



 

 □ □ □ □




 バンブロック分隊は半日程で基地から一番近い開拓村に到着した。

 しかしここは平和そのもの。小休止の後、直ぐに出発。

 陽が沈む前に、森の中を流れる小川の近くの野営場に到着した。野営場と言っても、一見すると単なる少し開けた土地。ただ巡回の時はいつもここで野営するので、彼らが勝手に野営場と呼んでいるだけである。


 そこでドラグと言う半獣人兵がある提案をする。


「隊長、ちょっと良いっすか」


「どうした、ドラグ?」


「まだ陽が沈むまで時間があるっすよね」


「それが、何だ」


「食料の調達なんてのはどうっすか」


 その提案にバンブロックは少し考える。

 持って来た食料は確かに少ない。遅かれ早かれ調達する事になる。それなら早い段階で調達するのは悪くないと。

 しかし問題なのはこの静寂の森は領主の森であって、その森の中の動物もまた領主の持ち物であった。勝手に狩って食うのは犯罪だ。

 だが魔物は別。


「良し、それならサベージとデン副長も連れて行け。それから野生動物は狩るなよ。魔物にしろよな……」


 するとドラグは「了解っす」と言った後、ニヤリと笑みを漏らす。

 そこでバンブロックは言葉を継ぎ足す。


「デン副長、二人をシッカリ見張っとけよ」


 デン副長を付け加えたのは、お目付け役のためだった。この隊でバンブロック以外に、唯一人間なのもデン副長だけでもある。他の8 人は全員半獣人族であり問題児でもあった。

 バンブロックは彼らを信頼はしていたが、それはあくまでも兵士としてである。戦いの場で裏切ることはないが、それ以外では嘘をついたり誤魔化したりは当たり前の連中だった。

 とは言っても一緒に酒を飲む仲間でもあった。


 そんな問題児達だが、仕方が無いとバンブロックは考えている。彼ら半獣人族はしいたげられた人種だからだ。

 人間の一般兵士の給金はだいたい銀貨5枚から6枚前後だが、半獣人族になると銀貨3枚程度になる。兵士以外でも同様で、そもそも職に就けない。これではまともな生活もままならない。それでも彼らは人間の下で働く。それ以外の金を稼ぐ方法がないからだ。さらに半獣人では無く、完全な獣人族となるともっと扱いは酷い。バンブロック分隊にはいないが、他の隊にいる獣人族は想像以上の扱いらしい。


 そしてドラグと言う兵が提案した狩りなのだが、そう簡単に獲物が狩れるものでは無い。

 弓があればかなり楽になるのだが、彼らの手にはそれは握られていない。代わりに握られているのは槍である。そんな武器で獲物を仕留められるのか疑問に思うが、そこは人間とは違うところ。

 半獣人族には人間には無い、ずば抜けた身体能力がある。それに嗅覚に聴覚も優れている。

 その能力でもって獲物を仕留める。


 ・

 ・

 ・

 ・


「隊長、何も穫れませんでした……」


 これが日没間際に帰ってきたデン副長の最初の一声だった。

 世の中そう甘くは無いと言うことだ。

 

 平民が野生動物の肉を食べれる機会は殆ど無い。平民がたまに食べられる肉は魔物の肉くらいで、しかもあまり美味しくない。それ故に兵士達は、狩りの結果を楽しみに待っていた。

 だが彼らを責めるのもおかしい。 

 だから誰もが無口となって、戦闘糧食の固いパンを噛み締めながら静かな夜を過ごすのだった。


 


 そして出発して2日目の昼時の事だ。

 先頭を行くトラッシュが、何かの痕跡を見つけたらしい。直ぐにバンブロックに合図を送る。

 バンブロックがトラッシュの近くに行くと、地面を指差して言った。

 

「この足跡を見てください」


 バンブロックが地面を調べると、多数の足跡があった。それはゴブリンとオークの足跡。ただそれだけではなかった。

 バンブロックが言葉を漏らす。


「人族の足跡が多数あるな……」


 足跡の形跡からすると、彼らは一緒に行動していたと分かる。

 

「隊長、また連れ去りですかね」


 連れ去りとは早い話が捕虜である。大抵はその場で殺してしまうのがオークやゴブリンのやり方なのだが、たまに生かしたまま人族を連れ去る事案が報告されていた。

 連れ去った後はどうなるかは誰も知らない。

 兵達の噂では、彼らの食料になっているとまで言われている。オークやゴブリンならやりかねない。それ程に奴らは、何をするか分からない存在だからだ。


 そこでバンブロックは考える。

 足跡を追跡するべきか、それとも元々の命令通りに煙の原因探索と開拓村の偵察を優先するかである。

 とは言ってもこの状況だと、煙の原因はグリーンスキン共が開拓村を襲ったからとしか思えない。


 少し考えた後、バンブロックは足跡を見つめたまま言った。


「足跡を追うぞ。トラッシュ、先導しろ」


 これだけ多数の足跡があれば、追跡するのは簡単だ。バンブロック隊は、夜を挟んで追跡を続けた。


 しかし、小川に来た所で足跡は消えた。奴らも馬鹿ではないと言うことである。痕跡を消しに掛かったようだ。

 そうは言っても、バンブロックの部下のトラッシュは追跡のベテランである。足跡が無くても、枝や草の折れ具合などの細かい痕跡をたどることが出来る。


 そして追跡3日目の夕方、遂に奴らに追い付いた。

 小川のそばで野営の準備をする、オークとゴブリンの30人ほどの部隊だ。そして縛られている人族も多数見えた。やはり連れ去りの様である。それと開拓村で手に入れたであろう、食料などの荷物も多数見える。


 バンブロックはさらに周囲を観察していると、ふと捕虜の所で視線がとまる。

 捕虜の中に幼子を抱える母親を見つけたからだ。


 それを見たバンブロックは、嫌な記憶がよみがえる。

 

 兵士になる前の事。

 グリーンスキンに村を襲撃され、バンブロックは左肩に槍を受けて気を失ってしまう。

 そして目が覚めた時、目の前に無残な遺体が二体転がっていた。

 バンブロックはそれが何か直ぐに理解出来なかった。しかし時間と共にそれが自分の妻と娘だと分かった。


 その瞬間、バンブロックは全てに絶望した。


 そして復讐の為に兵士になったのだ。


 バンブロックは過去を思い返しながら、険しい表情で古傷の左肩に手を当てつぶやいた。


「全滅にしてやる」






 

 


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