19話 輝く剣
バンブロックの耳には、入場扉の向こう側からの声が聞こえる。
何かを解説している様な声だ。
それに合わせる様に歓声が何度も上がる。
いつもより観客数が多いようだ。
オーク兵がバンブロックの首輪を外す。
試合開始が近い。
観客の声が大きくなる。
ーー血に飢えた観客共め
そして低い音を響かせて入場扉が開く。
彼らの目の前には、闘技場とは思えない景色が広がっていた。
バンブロックはその圧倒的な光景に息を呑む。
控え室から見て知ってはいたが、実際に見るとここは本当に闘技場なのかと疑う程であった。
闘技場中央には小さな丘が造成され、辺り一面には草木が植えられている。木は少ないが草に関しては多種多様であった。
人の身長程もある草、足首程の草など様々な草が植わっている。もちろんその中には擬態した食肉植物がいる。
ここは正に天然のフィールドだった。
先頭に立つスイートが、飛べもしない翼を大きく広げて歩き出す。観客に自分をアピールしているのである。
スイートの身長は人間と余り変わらないのだが、翼を広げると非常に大きく見える。
それを見た観客から声援が掛かる。
そのタイミングで早くもドラムが鳴らされた。
冬夜祭フィールドバトルの始まりである。
対戦相手側からも声援が聞こえてくる。
人気剣闘士は向こうにもいるって事だ。
バンブロック達はフィールドに足を踏み入れたのだが、そこから相手側の入場口は見えない。丘と草木が邪魔をしているからだ。
だが闘技場の元の広さは変わらないので、少し進めば直ぐにお互いの姿が見えるはずである。
この部隊のリーダーはスイートらしい。誰もが彼女の後ろを付いて行く。
特に陣形もなく歩いていると、突然悲鳴が上がる。
バンブロックは直ぐに防御体勢をとって悲鳴の方向を見ると、味方部隊の半獣人が空中に浮いていた。その体には植物のツタがグルグル巻きとなっている。
食肉植物に捕まったのだ。
かなり痛いらしく、その半獣人はずっと叫び声を上げていた。
普段見たことがないその光景に、観客席は早くも大盛り上がりだ。興奮した観客が立ち上がり、手を振り上げて大喜びしていた。
バンブロックが慌てて助けに行こうとするが、モナに止められた。
「放って置けロック」
「一応味方だぞ?」
「あの時点でもう毒が全身に回ってる。知らんけど手遅れだ」
モナの言う通りで、ツタに捕まった半獣人の顔色は、見る見る紫色へと変わっていった。その食肉植物は、バンブロックが初めて見る魔物でもある。
ーー戦う前に魔物に殺さるのはごめんだな
そこでモナが険しい表情で言った。
「来るぞ」
前方の草木の隙間から、相手部隊が見えて来た。
それはホブゴブリンだった。
それも全員がホブゴブリン種族。
ふとバンブロックは思う。
「全員がホブゴブリンって有り得るのか?」と。数の多い半獣人族ならまだ分かる。だが個体数の少ないホブゴブリン族だけで、10人の奴隷剣闘士を集めるのは難しいのではと思ったのである。
バンブロックはそれをモナに聞こうとしたのだが、そんな悠長な余裕などなかった。
スイートが叫ぶ。
『◯☓△!』
そして走り出した。
それに続いて全員が走り出す。
慌ててバンブロックも後に続こうとするが、独房の疲れがまだ抜け切っていない。足腰の痛みが残っているのである。
それでも弱った体に鞭打って、何とか走り出す。
ホブゴブリン部隊も武器を振り上げて走り出した。
『ウ〜ラ〜!』
バンブロックは走りながら体をしならせる。
そして全力で1本目のピルムを投擲した。
標的となったホブゴブリンが盾をかざす。
投げたピルムはその盾で防がれてしまう。
それでも盾に突き刺さり、その盾を使えなくした。
盾に刺さったピルムを抜こうとすると、折れたり刃が抜ける作りになっている。かと言って刺さったままでは取り回しが出来ない。
結局は捨てるしかないのである。
案の定、そのホブゴブリンは盾を捨てた。
バンブロックは続けてもう1本のピルムも投げ放つ。
投げ終わるとしゃがみ込み、肩で息をする。
体力がまだ万全ではないのだろう。
今度のピルムは盾によって弾かれてしまう。
だがその弾いたピルムの破片が、他のホブゴブリンの足に突き刺さった。
足を押さえて転倒するホブゴブリン。
バンブロックはニヤリと笑みを浮かべる。
ーーこれであいつはまともに戦えない
こらでバンブロック側も食肉植物で1人やられたので、6対6のイーブンである。
ピルムを投げ尽くしてへたり込んでいたバンブロックだが、腰のグラディウスを引き抜くと、一度だけ大きく深呼吸した後に立ち上がった。
そして味方の最後尾を追いかける。
最初に戦闘になったのは、やはりスイートである。
翼を広げて高く跳躍し、先頭を行くホブゴブリンにその鉤爪で襲い掛かる。
猛禽類が空から舞い降りて、獲物を襲うかの様である。
狙われたホブゴブリンは、盾でそれを防ごうと頭上に構えた。
そこへモナの鎖ダガーが襲った。
ガラ空きとなった腹にダガーが突き刺さる。
だが革鎧を着ていて傷は浅い。
それでも隙を突かれたという精神的動揺は大きい。
慌てるホブゴブリンは、盾ごとスイートに押し潰されてしまう。
その後はスイートの一方的な引き裂きである。
血と肉片が舞う中、ホブゴブリンの悲鳴が響いた。
その時点でバンブロック以外は接近戦となっていて、敵味方入り乱れての乱戦へと発展していった。
バンブロックが追い付くと、早くも辺りは血と肉が散乱する惨状となっていて、観客のボルテージもマックスとなっていた。
そこでバンブロックは、顔に入れ墨のあるホブゴブリンに目が留まる。グラディウスとメイスでの、二刀流ホブゴブリンである。
その入れ墨ホブゴブリンの手にしているグラディウスが、バンブロックの興味を引いていた。
僅かに白く輝いて見えるからである。
特に攻撃を加えた時に強く輝く。
不思議な事にその輝きを、誰も気にしていない様に見えた。
ワンドやロッドの様に魔石を嵌め込んだ品物は、魔力を流した時にだけ輝く。だがそのグラディウスは輝きっぱなしであった。
バンブロックは自然と、その入れ墨ホブゴブリンへと近付いて行った。
乱戦の最中、入れ墨ホブゴブリンは目の前の半獣人を切り倒すと、バンブロックへと顔を向ける。
するとバンブロックと視線が交差する。
次の瞬間、入れ墨ホブゴブリンがバンブロックに向かって走り出す。
次いでバンブロックも走り出す。
入れ墨ホブゴブリンが跳躍しながら、メイスとグラディウスの両方を振り上げた。
バンブロックはヒーターシールドで防御体勢をとる。
そこへグラディウスとメイスが振り下ろされた。
幸いにもヒーターシールドで防ぎ切り、バンブロックは「良し!」とつぶやく。
だが次の瞬間、グラディウスが大きく輝く。
ヒーターシールドが破裂する様に砕ける。
ーーくそ。なんて威力だ!
砕けたヒーターシールドを手放し、大きく下がる。
下がったのは良いが、これで終わりではなかった。
グラディウスとメイスによる連打が始まった。
避ける、避ける、避ける。
それを全て回避するバンブロック。
ーーくそ、ふくらはぎがツリそうだ
やはり足にも疲労が溜まっているのだ。
今やバンブロックの体力は限界に近い。
そこへ何か飛んで来た。
モナの鎖ダガーだ。
入れ墨ホブゴブリンの、グラディウスを持つ腕を斬り裂いた。
『グアアァ!』
そのチャンスをバンブロックは見逃さなかった。
素早く近付き、その傷付いた腕へ剣を振り落とす。
するとグラディウスを握ったままの腕が、ボトリと地面に落ちた。
切断したのである。
悲痛な叫び声を上げつつ、下がろうとする入れ墨ホブゴブリン。
バンブロックはそれを追い掛ける。
投稿再開しますが、不定期投稿となります。
よろしくお願いします。




