18話 フィールドバトル
バンブロックが独房に入って5日目の朝。
突如バンブロックは解放された。
解放はされたが、心身共に最悪の状態である。アデンとドラグの事も、バンブロックを精神的に追いやった。
今やバンブロックは、奴隷になったばかりの頃の疲れ切った風貌に戻っていた。それほど独房生活は苦しい。
バンブロックはフラフラと独房から出ると、5日ぶりに見る眩しい日光に、手をかざしながら目を細める。
目がやっと慣れた頃、目の前に誰かが立っているのに気が付いた。
ププである。
恐らくバンブロックに用があるはずなのだが、ププは明後日の方向を見ながら独り言の様に話し出した。
「御主人様から伝言です。ランクDの剣闘士が負傷で試合に出られないから――“お前が代わりに出ろ”――との事です」
相変わらず無表情で感情が見えない。
ププが“お前が代わりに出ろ”を強調して言ってきたところから、ウマッハの怒りの度合いが想像出来た。
ランクDの剣闘士の負傷は、間違いなくバンブロックの仕業である。
普通の奴隷なら殺されてもおかしくない。
バンブロックが金を生み出す人気剣闘士だったからこそ、生きていられたと言える。
もしくは意外と気に入られてるのかもしれない。
バンブロックは直ぐに井戸へと連れて行かれ、使用人奴隷に体を洗われ髭を剃られた。そして最後に安いポーションで、弱った体を治療した。
サッパリした後は広場の隅で、待ちに待った食事の時間である。他の剣闘士らが鍛錬の中、バンブロック一人が地面に座り込み、モソモソとパンと格闘していた。
水気の無い恐ろしく固い黒パンを、強引に水で腹へと流し入れた。独房生活でろくなものを食べいないバンブロックにとって、そんな食事でも涙が出るほど美味しく感じた。
そしてププは、バンブロックがポロポロと地面に落とすパン屑を見つめながら、まるで何かに取り憑かれた様に話す。
「試合は明後日の冬夜祭でのフィールドバトルです。それまでに体力を戻せとの命令です。大切な事なのでもう1度言います――“戦えるようにしろ”――です」
バンブロックが驚いてププを見る。
やはり無表情だった。
しかし聞き慣れないワードがあった。
「冬夜祭って何だ。それとフィールドなんちゃらってのも何?」
ププはパン屑を見つめたまま質問に答える。
「冬夜祭は毎年開催されるオークの冬祭りです。フィールドバトルとは闘技場内にフィールドを造り、その中での戦いを指します」
「冬の祭りか。だいぶ寒くなってきたからな。もうそんな季節かぁ」
バンブロックがププの視線の先を見ると、パン屑に群がるアリがいた。
ーーこいつは目を見て会話出来ないのか?
「冬夜祭が終わると寒さが増します。寒さで死者が出るのも、この祭りの後です」
「そうか。それで、フィールドを造るってどう言う事だ」
その後ププの説明を聞いたバンブロックは、冬夜祭がお祭りであるのは理解した。だが闘技場内にフィールドというのが最後まで理解出来ず、結局「ああ、分かった」と返答し思考を捨てた。
□ □ □
そして試合当日。
いつもの様に檻に入れられて、バドの街のコロシアムへと向かう。
大きなお祭りとあって、バドの街の大通りには沢山の露店が建ち並んでいた。
人の行き来も多く、獣車が通るのも大変そうだ。
この日ウマッハ養成所から試合に出場する剣闘士は、バンブロック1人だけであった。理由はもちろん、予定していた剣闘士の負傷欠場だ。
ププの話によると、今回のバンブロックが出場するフィールドバトルには、総勢20人が参加するという。
その20人が10対10の二つの部隊に分かれて戦うらしいのだが、戦闘力を揃えるために各部隊の剣闘士ランクが決まっていた。
10人の内2人はランクC。
4人がランクD。
残りの4人がランクEとなる。
バンブロックがコロシアムへと到着すると、直ぐに大部屋に連れて行かれた。
そこには他の養成所から来た剣闘士らが、フィールドバトルに参加する為に、装備を整えている最中だった。
半獣人とコボルトばかりだ。しかしバンブロックを入れても8人しか居ない。10人の部隊なので2人足りない。
ドラグの様な、かつての部下の兵士がいるかもと期待したが、どいつも知らない顔だった。
バンブロックが部屋に入って行くと、皆の視線が集まった。
そしてバンブロックが人間だと分かると、いきなり残念そうな目に変わる。中には舌打ちする者までいた。
視線は気になるが、今は準備の方が大切である。バンブロックは一人装備を整え始めた。
いつもの様にドクロヘルムは変わらない。
それに加えて今回は、各種サイズ違いの革鎧が準備されていて少し驚く。その中からサイズの合う革鎧を選んで着込んだ。
革鎧を装着しながら、部屋から闘技場が見える小窓に目がいく。そこでフィールドと言う言葉を思い出した。
気になって大部屋の小窓から闘技場を覗いてみる。
「なんだこれは……」
言葉に詰まるバンブロック。
窓の外には見慣れた闘技場は無く、草木が生い茂った丘が広がっていた。
「何だよ、何なんだよこれは……」
良く見ると観客席はちゃんと残っている。
つまり闘技場内へ外から土や草木を持ち込んで、フィールドを再現したのである。
さらに驚くべき光景を目にする。
バンブロックの視線の先には、一般の植物に混じって植えられた食肉植物がいた。魔物である。
「スゲ〜な、これがフィールドってやつか」
そんな独り言を言っていると、背中を誰かに叩かれた。
振り向くとそこには見知った顔があった。
「ロック、久しぶりだな。お前も参加するなんて聞いてなかったぞ。知らんけど」
人気のランクC剣闘士のモナであった。
彼女はランクC枠で、バンブロックらのチームで参加するという。装備を整えて女子部屋から来たのだ。
これでメンバー9人が揃った訳だが、最後の一人が見当たらない。
バンブロックは挨拶は適当に返し、気になる事をモナに質問した。
「そう言えばメンバーの人数が一人足らないんだが知ってるか」
するとモナは少し嫌な顔をしながら返答した。
「ああ、知らんけど、あいつならその内来るんじゃないの――ほら来た」
そのタイミングで、何者かが部屋に入って来た。ちょうどオーク兵も一緒に入って来た。
試合の時間が近いらしい。
そのまま全員が入場扉の前へと移動した。
移動の途中、モナが目配せしながら言った。
「あいつだよ。ランクCのトップランカーの1人でスイート。引き裂きのスイートって言われてるよ」
それはハーピーであった。
バンブロックの認識では魔物である。
鳥と人のハーフの魔物。
しかし目を見ると赤くは無い。つまり亜人と言う括りらしい。
その前にバンブロックの頭の中に「空を飛ぶのは反則じゃないのか?」と言う疑問が浮かぶ。
「いや、反則だろ」
思わず声が出た。
そしてオーク兵にジロリと睨まれる。
入場扉の前まで来た所で、武器を持つ事が許される。今回は沢山ある中から選べという感じだ。
武器を選びながらモナに話を聞いたのだが、スイートの翼は部分的に切られていて、殆んど飛べないという。せいぜい高くジャンプ出来る程度のようだ。
良く考えたらそれが当たり前である。空を飛べるなら、コロシアムの建物から逃げられてしまう。
そこでバンブロックは、改めて引き裂きスイートと呼ばれるハーピーを見る。
足の鉤爪に視線を持っていくと、それはもう魔物でしかない。
両手は翼なので武器は扱えないが、翼の先の手には鉤爪があった。
試合が近付き、入場扉の前に連れて行かれる。そこで初めて武器を手に出来る。
スイートを見ながら、こんな奴が相手にもいるかもしれないと思ったら、バンブロックは自然と投槍を装備に加えていた。
武器はピルムと呼ばれる投槍2本とグラディウス、そして中型の木製のヒーターシールドと言う組み合わせだ。
そのまましばらくは、入場扉の前に待機させられた。
その間、全員が口を閉じていた。
ここだけ張り詰めた空気を感じる。
緊張で堪らず首を回してリラックスしようとする者、肩を上下させる者、こめかみから汗を流す者、誰もがこの極度の緊迫に堪えていた。
ただ1人、スイートだけはニヤニヤと笑っていたが。
なんだか熱が下がらないんですよ。
ストックは有るんですが、推敲が追い付かない。
回復するまでお休みします。
すんません!




