表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気が付けば奴隷剣闘士  作者: 犬尾剣聖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

14話 昇格


今回かなり長めです。









 そして遂に、バンブロックのランクアップ判定試合の日程が決定した。それは3日後であり、その試合に勝てばランクEからDに昇格となる。


 対戦相手はランクDなのだが、Dの中でも底辺付近の剣闘士であった。しかも対戦相手はこの試合に負けると、ランクがEに落ちる。入れ替えである。


 それでその対戦相手なのだが、人間にとって弱者と思われているゴブリンであった。ただし一人ではなく二人組というからバンブロックは驚いた。

 どうやら対戦するにあたっての交渉で、条件を出されたという。その条件とは2人が相手というものだった。

 マッチメークでこういった条件交渉は良くある話だ。特に強い剣闘士相手の場合は条件が多くなる。

 そうでもしないと、対戦相手が見つからないと言った苦労もある。

 ウマッハとしてはその条件でも、バンブロックは勝てると考えたのだ。

 それに所詮はゴブリン2人である。こんな楽な対戦でランクアップ出来るのは、かなり美味しいとも考えていた。

 バンブロックにしたら「それってランク分けしてる意味無いだろ」となるのだが。


 そして試合の前日になって、対戦相手の情報が幾つか入ってきた。アデンはそれをバンブロックに伝えるために部屋にやって来た。


「ロック、情報が集まったぞ」


 そう言ってランクEの部屋に入って来たアデンだが、様子がおかしい事にちょっと面食らう。


「ああ、アデン。やっと決まったか。まあ良い。早く教えてくれ……ん、どうした?」


 この部屋でバンブロックは、まるで王様の扱いを受けているのだ。他の剣闘士は召使いの様だ。しかしアデンは特に突っ込む事もなく話を続ける。


「お、ああ、そ、そう急かすな。対戦相手のゴブリン2人は兄弟って話だ。盗賊をやっていて半年前に兄弟で捕まったんだってよ。それで奴隷に落ちたんだと」


「それでどんな戦い方をするんだ」


「顔に大きな傷があるのが兄貴で、両手持ちのショートスピア使う。弟は投げナイフが得意だから、色んな投げナイフとかを沢山持ち込むらしいな。それと結構汚い手も使うって言うから、気を付けたほうが良いかも知れない」


「汚い手か……ま、ゴブリンなら問題ないだろ」


「で、話は変わるけどよ、この状況は何なの?」


「まあ、気にするな」


「いや、気にするって……」






ーーそして試合当日ーー


 バンブロックは闘技場の入場扉の前で、緊張した様子で立っていた。


 前の試合が終わり、いよいよバンブロックの番がきた。

 目の前の扉が開き、暗かった通路に日が差し込んでくる。


 バンブロックは衛兵と一緒に、明るい場所へと歩み始めた。左手には大きめのヒーターシールド、右手には小剣であるグラディウスを持ち、ドクロヘルムを被っている。鎧はなし。

 盾がいつもよりも大きいだけで、他は通常スタイルだ。


 闘技場に入ると、血に飢えた観客からの歓声が上がる。

 ゴブリン剣闘士の試合だからなのか、いつもよりも観客のゴブリン比率が高い様だ。


 反対側の入り口も開き、オーク兵と一緒にゴブリン兄弟が入場した。バンブロック同様に真っ直ぐ闘技場中心へと歩いて来る。


 闘技場の中心で、間隔を開けてお互いに立ち止まる。

 そこでオーク兵達は下がって行く。


 後は開始のドラムを待つだけだ。


 オークの解説者が、声を張り上げて剣闘士の紹介をしている。


 そこでバンブロックはゴブリン兄弟がこちらを指差しながら、ヘラヘラと笑っているのに気が付いた。バンブロックが被る、ドクロヘルムを笑っているのである。


ーー別に被りたくて被っている訳じゃないんだけどな


 バンブロックはお返しに、親指で首を掻っ切る動作を見せた。


 するとゴブリン兄弟の顔が、一気に険しい表情に変化する。

 ゴブリン兄は短槍を構え、ゴブリン弟は腰に差した投げナイフに手を伸ばす。

 今にも襲い掛かかりそうな体勢だ。


 そのタイミングで試合開始のドラムが鳴った。


 バンブロックは直ぐにヒーターシールドを構える。


 そこへゴブリン弟がナイフを投げ放つ。

 そしてタイミングを見計らう様にゴブリン兄が走り出す。


 木製のヒーターシールドに、何本か投げナイフが突き刺さった。


 その突き刺さった物を見て、バンブロックはちょっと驚いた。

 形状が明らかにナイフと違う。まるで極太の針みたいな形状をしていた。

 斬るのではなく、刺す目的で作られた投てき武器である。恐らくナイフ形状よりも深く刺さると思われる。

 そこまでは何ら問題はない。

 問題なのはその針に何かが塗られていることだ。


ーー毒の類か。確かに汚い手を使ってきやがる


 投げナイフに対応している隙に、ゴブリン兄がバンブロックに迫る。


 ゴブリン兄が短槍を連続で突き出す。

 

 後ずさりしながらも、それをヒーターシールドで全て受け流すバンブロック。

 さらにゴブリン弟が、隙を見て横からナイフを投げてくる。それをヒーターシールドで防ぐ。

 気が抜けない状況が続く。


 防戦一方で中々攻撃に移れない。


ーーまずは目の前の槍を何とかしないと


 バンブロックが強引に前に出る。


 待ち構えていた様に短槍を突き出すゴブリン兄。


 バンブロックがそれをヒーターシールドで横に弾くと、一気に短槍の間合いの内側へ入り込む。


 すかさずグラディウスを上段から振り下ろした。


 ゴブリン兄は短槍でそれを受け止める。


 するとバンブロックは、グラディウスの刃を槍の柄の上で滑らせる。


『ギギャッ』


 目の前にゴブリンの指が舞う


 ゴブリン兄はのけ反る様に下がる。


 そこでバンブロックは、ヒーターシールドを地面に打ち付けた。

 いや、それは地面ではない。ゴブリン兄の足の甲を狙ったのである。


 バンブロックの腕にはヒーターシールドを通して、骨が砕ける感触が伝わる。


『ギャアアッ』


 その一発で地面に尻もちを突くゴブリン兄。


ーーこれで戦えないだろ


 バンブロックはゴブリン兄は放置して、姿勢を低くして盾に隠れるようにしながら、ゴブリン弟の方へと向かう。


 針のような投げナイフが、幾つもヒーターシールドに当たる。

 

 そこでゴブリン弟が、腰に差した別の武器を取り出し投げ放った。

 くの字型の飛び道具らしい。

 それはくるくると回転しながら、弧を描く様に飛んで行く。


 バンブロックは身を低くして警戒する。


 しかしそれはバンブロックから大きく外れ、明後日の方向へ行ってしまう。


ーー何だ、驚かせんじゃねえよ!


 バンブロックは直ぐに体勢を整えて、ゴブリン弟に走り寄る。

 しかしその時ゴブリン弟の視線が、空中をチラチラ見ているのに気が付いた。


 何かを感じ取ったのか、本能で身をよじるバンブロック。


 その視界には、先程のくの字型の武器が飛んで来るのが見えた。


 その刹那、バンブロックの肩に激痛が走る。


 直撃は避けたが、肩に傷を負ってしまったのである。

 肩から胸に流れ落ちる鮮血。


 その肩をえぐって威力を失った武器が地面に落ちる。

 それはブーメランと言う、弧を描く様に飛ぶ武器であった。

 残念ながらバンブロックは、ブーメランの存在を知らない。


ーー何だ、戻って来たのか!


 距離を開けると不利とみたバンブロックは、負傷した事さえ忘れてゴブリン弟に急接近する。


 するとゴブリン弟はダガー抜いて構える。


 そこへヒーターシールドごと体当たり。


『グギャッ』


 ここで体格差がものをいった。

 そのままゴブリン弟の上にし掛かり、ヒーターシールドで押さえつけた。

 盾の下で暴れるゴブリンに、横からグラディウスを刺し込む。


『ゴフッ……』


 とどめは刺さずに、横に転がる様にして立ち上がる。ゴブリン弟は瀕死の重傷であり、そのまま放置すればいずれ息絶えるだろう。


 そしてバンブロックは直ぐにゴブリン兄の方を見た。

 短槍を杖代わりにして、びっこを引きながら歩いて来る。何かわめいているのだが、恐らくそれは弟の事だろう。

 

 バンブロックは再び武器を構えるのだが、そこでドラムが叩かれた。


 試合終了である。


 勝者はもちろんバンブロックであった。


 しかし観客席からはブーイングの嵐である。もちろんそれは、パラライズ魔術を見られなかったからだ。


 バンブロックがゴブリン兄弟に勝利した事で、剣闘士ランクがDへと昇格した。これで次回からの剣闘試合では、ファイトマネーが貰える。剣闘士見習い卒業である。


 闘技場から出ると真っ先に武器は回収されるのだが、バンブロックの場合はさらに魔力封じの首輪がめられる。ただそれは養成所までに辛抱だ。

 養成所を1歩でも出るなら、この首輪が必要と決められていた。


 首輪を着け控え室へと行こうとしたのだが、医務室へと連れて行かれるようだ。そこで試合中に肩を負傷した事を思い出す。

 改めて自分の負傷箇所の肩を見る。


ーーうわっ、結構酷い事になってるな


 ブーメランにやられた傷で、肉がえぐられた様になっていた。


 医務室に入ると、前に来た時と同じ治癒士がいた。治癒魔術が使えるエルフ族のルミナスである。

 相変わらず足枷あしかせは付けたままだ。


 バンブロックが室内に入ると、ルミナスはやや目を細めながら言った。


「あら、あなたーーロックって言ったかしら。また来たのですね。それもまたそんな酷い傷を負って。血だらけじゃないですか。ほんっと、呆れますね」


ーー好きで負傷してんじゃないんだけどな


「すまんが、治してくれると助かる」


 ルミナスは溜め息をつくと傷口に両手をあて、ヒール魔術による治療を始めた。


 ここでバンブロックは、少しだけ質問をすることが出来た。

 

「聞きたい事がある」


「あら、何かしら。オーク兵がいるから手短にお願いしますね」 


「ああ、そうだな。まずは俺以外に人間はいるのか聞きたい」

 

「それは剣闘士になのかしら、それともこのバドの街になのかしら」

 

「両方だな」


「そうね、人間の剣闘士がいるってお話は聞いた事があります。でも詳しくは知りません。それに大抵の人間は、は剣闘士になる前の試合で生き残れないですから。それからバドの街での人間の使役奴隷ですわね。それは何人か見掛けました」


「居るのか、人間が!」


「声が大きいです。オーク兵が睨んでます……」


「す、すまない。それでその人間の情報はどこまで知っている?」


「残念ながらこれ以上のことは……オーク兵が来ます」


ーーもっと色々と知りたかったのに


 ここでバンブロックは、医務室から連れ出されてしまう。

 しかし医務室を出た所で、顔見知った者に出会う。


「モナじゃないか」

 

 半獣人の女戦士モナであった。


「おお、ロックじゃないか。知らんけど怪我したのか。ロックもまだまだだな」


「いやいやいや、頭から流血してるお前が言うか」


 モナは頭を負傷していた。

 

 もっと会話したかったのだが、オーク兵が許してくれない。


「ああロック、話はまた今度な、知らんけど!」


 そのまま引きずられる様にして、バンブロックは引き離されて行った。


 控え室で何試合か見物した後、同じ養成所の剣闘士の試合も終わり、また来た道を獣車で揺られて帰って行った。

 この日は、ウマッハ養成所から出場した剣闘士全員が勝利したとかで、少しだけ食事が豪勢になって、バンブロックは大喜びであった。


 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ