13話 報奨金
ちょい長めです
バンブロックは麻痺魔術を放ったのだが、バーバリライオンとの接触が短すぎた。
バーバリライオンは一瞬だけビクリと身体を硬直させたが、そのまま転がって離れてしまった。
離れてしまうと麻痺魔術は使えない。
そして今はバンブロックを睨んで、威嚇している。
ーー短すぎたか!
「ロック、この後どうするの!」
モナが檻の後ろに到着したようだ。
「モナはそこにいろ。俺も行く」
そう言いながらバンブロックは立ち上がる。
すると左脚が出血しているのが見えた。
バーバリライオンにやられたのだ。
ーーマズいな、少し急ぐか
バンブロックは足を引きずりながらも檻を目指す。
幸いなことにバーバリライオンは、麻痺魔術が少なからず効いたのか、今いる所から動かない。
バンブロックは檻にたどり着くとモナに言った。
「檻を挟んで戦うぞ」
キョトンとするモナ。
バンブロックが再び言う。
「檻を壁代わりにして戦うんだよ」
すると満面の笑みを浮かべて返答するモナ。
「知らんけど、ロックは頭が良いな!」
そこでバーバリライオンが再び歩き出した。ゆっくりとだが近付いて来る。若干足元がふらついているのは、先程の麻痺が効いている証拠だ。
バンブロックとモナは、檻をバーバリライオンとの間に挟むように移動する。
しかしこのまま時間が過ぎると、バンブロックは出血で動けなくなる。それが自分でも分かっているのか、バンブロックは意を決して動き出した。
「俺に考えがある」
そう一言だけ告げると、バンブロックは一人でバーバリライオンに近付いて行く。
それに合わせる様にバーバリライオンも接近して来た。
ある程度近付いた所で、バンブロックは檻を背にして、ゆっくりと後ろへ下がる。
するとバーバリライオンは唸り声を響かせながらも前に出るが、やはり足元がおぼつかない。小刻みに震えている。
ーーさっきのがかなり効いてるようだな
バンブロックは剣で牽制しながらもさらに下がる。
バーバリライオンとさらに前に出る。
仕方ないのでさらに下がるバンブロック。
するとバーバリライオンが距離を詰めだした。
そこで突然バンブロックは檻の上に飛び乗った。
「どうだ、ここまで来れるか!」
そう叫ぶやバンブロックは、バーバリライオンにグラディウスを向けた。
しかしバーバリライオンは猫科の猛獣である。木だって登れる猛獣が、檻の上に上がる位は簡単であった。
いとも簡単に檻の上に上がって来た。
そしてバンブロックをバカにするように、大きく雄叫びを上げた。
だがバンブロックは落ち着いていた、
そしてバーバリライオンに語り掛ける様につぶやく。
それは知能のある魔物に言う様にだ。
「鉄の檻の上に俺とお前だけがいる訳だが、この後どうなると思う?」
バーバリライオンはまるで言葉を理解しているかの様な態度で、唸り声を響かせる。
『グルルルル……』
バンブロックは剣と盾を投げ捨てその場にしゃがみ込むや、鉄格子を両手で握った。
そして小さな声で言った。
「俺の麻痺は鉄でも伝わるんだよ」
その言葉を言った途端に、バーバリライオンは驚いたように目を見開く。
ーー麻痺魔術
突然、檻全体にバチバチッと火花が飛んだ。
そしてバーバリライオンは硬直して震え出す。
それは数秒間続いた後、バンブロックが崩れ落ちる様に倒れると、バーバリライオンもまた崩れ落ちた。
「ロック、起きろっ。檻に触っても大丈夫だよな?」
モナが恐る恐る檻の上に登る。
バンブロックは何とか意識を保ちながら言った。
「モナ、とどめを刺せ。まだ生きてたら厄介だ……」
「知らんけど、そういうのは得意だ。任せて置け」
モナはバーバリライオンの胸にショートソードを差し込みながら言った。
「やったぞ、最終手段が役に立ったな」
「その命、愛する者へ捧ぐ……」
「は? 何か言ったか」
「いや、祈りの言葉だ。気にするな」
モナがショートソードを抜いた所で試合終了のドラムが鳴った。
するとモナは大きく剣を振り上げ、勝ち名乗りを上げだした。
気が付けばグリーンスキンや他の剣闘士から歓声が上がっている。
その中に大喜びしているウマッハの姿が見えた。
「ロック、お前も剣を突出せ」
言われるがままにバンブロックも剣を天に突き出し、勝ち名乗りを上げた。
試合が終わると直ぐに看護班が担架を持ってやって来て、バンブロックは声援の中を救護室へ運ばれた。そして高そうな小瓶に入ったポーションを傷口に塗られる。
ハイヒールポーションである。平民が手にすることが出来ない品だ。
平民が頑張って手に入るのは、せいぜいレッサーヒールポーション、良くてヒールポーションまでである。
傷が癒えると使役奴隷の補助を付けられて、また別の部屋へと連れて行かれる。
「少しは休ませてくれ」
ボヤいてはみるが、それが改善されるはずもない。ただ遠巻きに監視しているオーク兵がジロリと睨むだけだ。
通されたのはウマッハの屋敷内の応接間だった。
その部屋にはモナも主人らしいオークと一緒にいた。
そこでバンブロックはウマッハの横に立たされ、次から次へと来る金持ちグリーンスキンらに紹介された。
北方語が話せるモナが会話を引き受けてくれたため、バンブロックはただ立っているだけで良かった。
だが怪我の影響で立っているのも辛い。
こうしてウマッハ主催の剣闘大会は終了した。それと同時にモナとはお別れとなる。
「モナ、元気でな。死ぬんじゃないぞ」
「お前こそな。それからな、ロック。知らんけど、お前とならまた組んでも良いぞ」
そう言ってウインクするモナだった。
その日の夜の事だった。
アデンがバンブロックの所に来て言った。
「ロック、喜べ。報奨金が出たぜ」
見せられた貨幣を見て驚くバンブロック。
「奴隷なのに現金で貰えるのか!」
「何だロック、知らなかったのか」
「ああ、知らんけどーーあっ、アデン、今のわざと言わせただろ!」
「はあ? 何言ってるか知らんけど……って、しまった!」
その後、二人して爆笑した……
アデンが持って来たのは、グリーンスキン領内で流通している貨幣であった。
バンブロックはその貨幣に驚いたのではなく、奴隷が現金を貰える事に驚いたのである。
驚いたバンブロックがアデンに質問する。
「貰えるのは嬉しいけどな、奴隷の俺が現金を貰っても使い道がないだろ」
するとアデンは若干笑いながら返答する。
「ああ、そう言えば言ってなかったな。グリーンスキン領内の奴隷剣闘士は、ランクが高くなると褒美で金を貰えるんだよ。そうする事で奴隷は行商人から物が買える。そうなると奴隷は必死に頑張って金を貯めるようになるだろ。それで奴隷の不満が減って反乱も減るって話だよ。本来なら現金はランクD以上で貰えるはずだけど、イベントとかで活躍すればランクに関係なく貰えたりするんだよ」
ランクEは見習い剣闘士という位置付けだから貰えないのだ。
バンブロックはさらに質問する。
「金を貰えるのは分かったが、こんな養成所にまで行商人ってのは来るもんなのか?」
確かにその通りである。所詮は奴隷である。奴隷相手に商売が成り立つのか。
「来ると言ってもな、この季節だと月に一度だけだからな。そう頻繁に来るんもんじゃないよ。暖かくなって来ると、もうちっと頻繁に来るかな。どのみち奴隷が貰える金は少ないからよ、時々来るくらいが丁度良いんじゃねえの。それでよ、その貯まったところで一気に使わせるんだよ。まあ大抵は酒や食い物に金を使う奴が殆どだけどな。高ランクの奴らは金を多く貰うから、大抵は娼婦に使ってるよ」
これにはバンブロックは感嘆する。
まるで人間がやりそうな、ずる賢いやり方だからである。奴隷相手でありながらも、目先に餌をぶら下げるやり方。グリーンスキンなら力で従わせそうなのだが、ちょっと驚きであった。
それでバーバリライオンとの対戦勝利で貰えた報奨金なのだが、100ガジャ硬貨が1枚だった。ガジャと言うのがグリーンスキン社会での貨幣単位である。
その100ガジャの価値がどれくらいなのか、全然見当も付かないバンブロック。
「アデン、何となくシステムは理解したんだがな、俺が報奨金として貰った100ガジャ硬貨で一体何が買えるんだ?」
「ああ100ガジャか。それだとエールが2杯飲めるぞ」
「は? エールがたった2杯だけかよ……」
金は貰えるのだが、そこはやはり奴隷である。大金が貰えるはずもなく、せいぜい美味いものを口にてきる程度。ましてや娼婦なんてとても手が届かないだろう。
ただしランクがもっと上がると、さらに高いファイトマネーも貰える。
だがバンブロックはそれよりも、早くここから逃げ出す事を考えていた。




