ロスからの挑戦者2
ヘリが近づいてくる。
それは爆音によって明らかだ。
近づいて近づいて……鬼将軍が窓ガラスを突き破って放り込まれた。
ヘリのパイロットは心得ているらしい。
こうした場合、鬼将軍を邸宅内に放り込むのが一番であると。
そしてガラスの破片まみれの鬼将軍は立ち上がる。
「そこな毛唐の変質者、私の最愛マヤから離れたまえ!」
「いきなり乱入してきてホワット!? フーアーユー! 貴方何者ですかーっ!?」
「私の名は鬼将軍、美少年探偵マヤとは切っても切れない縁で結ばれている!」
「その切っても切ってもプラナリアな縁、わたーしも結びまーす!」
「たわけ、もっこりパンツ!!」
鬼将軍の眼鏡が発光。
鋭い光線を放ち、ビキニパンツの神聖なるふくらみを焼いた。
「ナニをしますか、卑劣なジャパニーズ! ミーの小道具が焼失するでしょー!!」
燃えて無くなれそんなもの、と思ったがマヤとしてはこんな茶番に参加したくなかった。
なので黙っていることにする。
というか鬼将軍の目から怪光線だ。
あんな理不尽な技をいつ身につけたのか?
いや、理不尽の塊だからこそ可能な技なのだろう。
「ところで鬼将軍、貴方ミーのハニーにダーリンとか抜かしてくれやがりましたねー? 仕方ありません、これはもう決闘デース!!」
「面白い、受けて立つわっ!」
決闘にどのような意味があるのか?
もしかすると勝者への景品は自分なのだろうか?
だとしたら景品である自分の意志はまったく無視されているのだが、その辺りはどうなっているのか?
大変に気になるとことではあるが、この期に及んでなおマヤはこいつらに関わろうとは思わなかった。
何故ならこいつらに関わろうものなら、第三者視点で見る限りこいつらの同類となってしまうからだ。
だが、関わらなければ関わらないで、こいつらは勝手に話を進行してゆく。
「決闘を申し込んだのはミー、受けたのはユー。決闘の方法はユーに任せるのが筋ですネー」
「わかった、ではうどんをどれだけ美しく完食できるか、マヤの審査で決着するというのはどうかn……ぐひ」
会話の途中で、マッチョマンの原爆固め。
ジャーマンスープレックスが炸裂した。
「あぁっ、卑怯ですよキャプテンLAっ!! 私の推しはあくまで総裁X所長なんですからっ!」
「ノーッ!! 卑怯なのはいつもジャパーンでーす! オリエンタル・マンキィは、正々堂々と戦えないので、いつも不意打ちして来まーす! だから今回はミーが不意打ちしてみましたねーっ!」
知ってるかアメリカ人、人はそれを卑怯というのだ。
正論なはずではあったが、やはりマヤは言葉をのみこんだ。
変態の眷属には堕ちたくないからだ。
しかし鬼将軍は立ち上がってきた。
足元はフラついておぼつかないのだが。
「やるではないかアメリカ人、今のジャーマンは効いてしまったぞ……」
しかしだ! と馬鹿は訴える。
「アメリカに技無しという言葉を知らんのか! アメリカに技など不要、何故ならアメリカはパワーの国だからだっ!」
「OH、ミステイク……閣下の言う通りでーす。技で敵をKOしても、それは星条旗を汚すだけでーす……」
グイッとビキニショーツを引き上げ、食い込みをきわだたせるキャプテンLA。
そして電気ポットのように太い腕をグルグルと回した。
そして鬼将軍にむかってダッシュ、鉄の左腕を鬼将軍の喉笛に!
アメリカン・プロレスが誇るガチ技、倒し技、LAラリアット炸裂!
大車輪、水車のように回転して鬼将軍床に叩きつけられたっ!
大の字だ鬼将軍、今度は立てない。
数々のダメージにも立ち上がり、タフネスと闘魂と魔性を見せつけてきた鬼将軍。
ついにその伝説がここに幕を下ろすか!?
ペッ……メイドのツバキさんが、挑むかのような眼差しで床にツバを吐き捨てた。
掃除をするのは彼女なので、マヤ少年はとくに咎めたりはしなかった。
そして彼女は拳を突き上げる。
「イーノーキっ! イーノーキっ! イーノーキっ! イーノーキっ!」
鬼将軍が反応した。
むっくりと身を起こす。
そのアゴは突き出され、額に一筋の鮮血が走った。
タルマエ警部も立ち上がる。
その瞳は、自分が闘っているかのように燃えている。
「イーノーキっ! イーノーキっ!」
たった二人の大合唱。
たった二人で満場の猪木コール。
アントニオ鬼将軍、まだ片膝をついてはいるが目が燃えている。
そして「かかってこい!」とアピールしていた。
鮮血したたる額に、アメリカン・ナックル……拳による打撃が二発、三発。
しかし四発目を構えたとき、スライディングキック。
アメリカ人の太ももに鋭い一撃。
この一撃で流れが変わった。
低い位置からのキック、キック、またキック!
アメリカ人は後退一方。
逃げ腰のキャプテンに、鬼将軍が素早くからみついた。
伝家の宝刀鬼将軍スペシャル、卍固めが炸裂した。
仕方ないとばかり、マヤがキャプテンに詰め寄った。
「ギブアップ!?」
「ノーッ! ノーッ!」
「ギブアップ!?」
「…………ノーッ!」
しぶとい、さすがはヤンキー魂か。
はたまた開拓者精神か。
しかしこれで仕留められないと踏んだ鬼将軍、卍固めを解くやバックを奪うやヘソで持ち上げる。
そのまま身体が美しい弧を描いて、岩石落としのバックドロップ炸裂。
いや、それでは終わらない。
鬼はキャプテンの髪を掴んで引きずり起こした。