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最終話 ルパンおち

英国紳士の視線がマヤの黒髪に注がれがち、そのことに橘明日香が気づいたようだ。



「あらミスター、マヤさまばかりをご覧になって。黒髪がお気に入りのようですわね」



英国紳士は細めた目を橘明日香にも向ける。



「これは失礼、美しいお嬢さん。母国には黒い髪の女性は少ないものでね」



そこへフフッと笑いながら鬼将軍も参加する。



「私の恋人が褒められるのは、実に喜ばしいのだがしかし、大英帝国へ連れて帰るなどとは言い出さないでいただきたいですな」

「これは残念、すでに好いひとがいらっしゃいましたか。失礼ながらミスター、どのようなお仕事を?」

「投資家というのでしたらご存知でしょうか、ミチノック・コーポレーションの会長をしておりおます」



「貴方が!?」、ジェントルマンは目を見開いた。



「貴方が東洋の鬼将軍と名高い、ミスター・ミチノック!?」

「フフッ、どれだけ富を得ようとも、恋人の唇くらいしか手に入らない愚物です」

「それはその通り、世界のあらゆる財宝よりも乙女の貞操は高価なものですから」


「ミスター、貴方に素敵な方は?」

「ノー……恋という財宝を求めてさ迷う、悲しき海賊に過ぎません……」

「お気を落とさずに、恋は意外な場所にあるものです」



鬼将軍はスマホを操作した。

マヤとは縁のないFA〇ZAというサイトを開く。



「意外とこうした場所にも、恋の出会いは存在するものです」

「Oh、ミスター。しかし彼女たちは二次元でーす……」



二次元? 二次元とか言ったか貴様。

もしかしてその筋の手練れか?

マヤは警戒心を跳ね上げた。



「二次元? それの何が悪いのでしょうか。もちろん議論や言い負かしをしたいわけではないのですが」



鬼将軍、お前も食い下がるなとマヤは思った。



「二次元……思いもよらぬ発想の数々……二次元、ときに本当の自分に気づかされる啓蒙……」



そんな高尚なものではないはずだ。

特に鬼将軍が推すというのであれば。



「いかがでしょう、ミスター。せっかく日本をおとずれているのです。二次元の扉を開いてみてもよろしいのでは?」

「なるほど、世界に名を馳せたアジアの雄がおっしゃるのでしたら、是非試してみましょう」



こら待て鬼将軍、世界を汚染するんじゃない。

そう言いかけたが、遅かった。

東西の中年は仲良くひとつのスマホを覗き込んでいる。


そんな形で「おおっ」とか「むうっ」などと唸っているのは、大人としてどうだろうかとマヤは感じた。

しかし、連続誘拐ゴスロリ事件の犯人がこの英国人というのであれば、鬼将軍と意気投合するのもやむ無しというところか。



「いやぁ、こうしたセクシュアルな二次元というのも、実によろしいものですなぁ」

「おや、ミスター。貴公数々の女性たちを眺めて、性的な部分しか琴線に触れませんでしたかな?」

「いやお恥ずかしい限りですが、現実では叶えられない夢を二次元ならば叶えられる。まったくもって素晴らしい文化です」

「いえいえ、むしろこうした作品は崩壊の美学。常識や日常の破壊に美が存在するものと思うのですが」


「なにを申される、すでに美しいものがそこにある。そこを悪戯に深堀りすることは余計な詮索、不粋の極みというもの!」

「やはり英国人なんぞに美学というものは理解できぬか……」

「んなことホザいとるから浅層に負けんだろ、負けグセまみれの東洋人が」



鬼将軍は脱いだ手袋を投げつけた。

英国人も手袋を脱いで叩きつける。



「郷に入っては郷に従えという礼儀も知らぬか、西欧の野蛮人め」

「我々は常に戦ってきた。だからこそ大英帝国を名乗れるのだ」



日英の友好は、割とどうでも良いことで決裂した。



「「勝負だっ!」」



先手、英国紳士。

後手、鬼将軍。



「そもさん!」

「せっぱ!」

「乙女の魅力を端的に表現せんとするならば、汝いかに答えるか!?」



おう、英国人。

ずいぶんと日本の流儀に親しんでるじゃねーか。

マヤは思ったが、口は挟まなかった。


答えて鬼将軍。



「湯屋の帰りにすれ違い、香るシャンプーと心得たり!」



お前家風呂の無い時代知ってんのかよ。

返して先手、鬼将軍。

後手、英国紳士。



「そもさん!」

「せ、せっぱ!」

「過ぎゆく乙女の群れをかえり見て、汝なにを佳しとするや!?」

「………………幼きなりや否や……」


「たわけがーーっ!!」



錐揉みするかのような、鬼将軍のドロップキック。

英国紳士は吹き飛ばされた。



「バカモノーーっ!! 乙女の後ろ姿を振り返るなら、足元のおしゃれ! ソックスをチェックせんかーーっ!! こだわれソックス、フェチの魂という格言をキサマ知らぬと申すのかーーっ!」



怒って良いぞ英国人、なんならドロップキックのお返しも許す。

と思ったが、マヤはもうコイツらと関わりたくはなかった。

というか、最初から関わりたくはなかった。



「ノー、鬼将軍! それは断じて違う! 幼き少女を愛で、ついその可憐な花を手折ってしまうのが英国紳士というもの!! ユーびは騎士道精神というものが足りませーん!」



どこの国の騎士道精神だよ。

もうツッコむ気も失せてきている。



「おのれ破廉恥な英国人め、お前には大和魂を叩き込んでくれる!」

「ユーにはジョンブル魂をフルコースでお見舞いしまーす!」



二人の変人は店を飛び出した。

マヤたちに注文票を残して……。






後日、コトブキマヤ探偵事務所。



「それで、その後どうなったの?」



知りたいものではなかったが、一応関係者として知る責任がある。

渋々ではあったが、マヤは鬼将軍を事務所に招いていた。



「そこはそれ、男と男。拳での語り合いとなっていたのだが……」



鬼将軍の顔は12ラウンド打たれに打たれまくったボクサーのようだった。



「ジョンブルだなんだ言って奴のパンチは腰が入っていなかったよ。これなら大丈夫と当てさせてやってだね、気合の入った一発をお見舞いしてやったのさ。まあ大和魂も英国まで拳の味をお土産にしたかったのだろうね、立ち上がってはきたが足元はふらついて私の連打が炸裂した訳さ。いやなに蕎麦やうどんでもないのに、手打ちのパンチなんてどうということはないさ……」



法螺話の武勇伝に、マヤは付き合わされることになった。

あまりに調子が悪いので、これで最終話とさせていただきます。次回作は18禁を狙ってみようと思っています。

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