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ジェントルマンの国から来た男

「へろーがーる」



男は少女に声をかけた。

少女からすると、見上げるような大男だった。

そしてまたまた金髪碧眼だった。


顔の彫りも深い。

ただし、かつて登場したキャプテンLAと違うのは、ラフなスタイルではなくコートにフェルトのハット。

ちょっとした紳士的空気をまとっている。



「はい、がーる。ゆーはおいくつデースかー?」

「じゅ、十二歳です……」



私服であることから、中学生ではなさそうだ。

そして、花のように可憐である。



「Oh、ファンタスティック! 実は私、ロリコンなのでーす! 貴女のこと気に入りましたー! 私を受け入れてくださーい!」



金髪碧眼など少女には馴染みが無い。

しばしきょとんとする。



「もう辛抱たまりませーん、ゆーとみーとで『飛んでイスタンブール』でーす!」



またしても日本国は、海外の変態を安々と侵入させてしまったようだ。







「ということでだね、マヤくん。可愛らしいと評判の女の子たちが、日毎夜毎に誘拐されて翌朝にはゴスロリファッションで帰宅するという事件が連続してるんだ」



ご存知タルマエ警部である。

ほとほと困り果てたという顔だ。

そして場所はいつもの『コトブキ探偵事務所』応接室、マヤが住む邸宅である。



「以前にもこういったケースがありましたね」



マヤは答えた。

思い出すのも忌々しい、鬼将軍赤ブルマ事件である。

あの事件以来、マヤは災難続きと言えた。


だがしかし、気を取り直して拳銃を抜き出す。



「ですがそういうことでしたら……」



天井に向けて速射で四発。

間をおいて天井板を突き破り、鬼将軍が落ちてきた。


大の字である。

黒マントに穴が空き、硝煙を立てていた。

一般人ならば死亡判定だろう。


しかし奴は起き上がった。



「痛た……相変わらず手荒い歓迎だね、マイスイート」

「よく来てくれた鬼将軍、実はお前に訊きたいことがあってね」

「なんでも訊いてくれたまえ、スイートマヤ。私のベッドエチケットから性感帯まで、余す所なく教えようじゃないか」



銃弾を四発も食らっていながら、まるで意に介していない。

何故神はこの変態に不死身タフネスの特性など与えていまったのか。



「話は聞いていただろ、鬼将軍? 新たな事件で、お前の手口に酷似している。どんな人物なのか鑑定はできるかな?」

「造作もない、が確証を得るため警察に質問だ。そのジェントルマンとやらのコートやハットはくたびれてたかね?」



ああ、その通りだ鬼将軍と警部は答える。 



「ならば確定だ、諸君。出かけるぞ」

「どこへ?」

「佳い紅茶を出す喫茶店だ」



鬼将軍、マヤ、橘明日香。

それにタルマエ警部とメイドのツバキも連れ立って、アンティーク感たっぷりの喫茶店へとやって来た。


コトブキマヤ探偵、本日のお召し物は橘明日香とお揃いのブレザーとチェックのスカート。

それにハイソックスという仕立てである。

おまけに大きな丸メガネまでかけて、ちょっと見は文学少女である。



「なんでボクがこんな格好を……」

「変態を釣るにもエサは極上でなくてはな。メイドさんのリクエストに応えて、腕でも組もうじゃないか」



メイドのツバキは、マヤの晴れ姿をスマホに写すことに夢中であった。



「だけど本当に犯人が現れるんだろうね?」

「よれたハットにくたびれたコート、それがお洒落などとほざくのは、間違いなく島国の変質者である英国人。ならば午後のティータイムを楽しむために、こうした店に来るだろう」



島国の変質者とはお前のことだ。

そう言いかけたが、視界に白人の紳士が飛び込んだ。

紅茶を楽しんでいる。


だがマヤは見逃さない。

その視線は不自然に窓の外へばかり向けられていた。

そして窓の外には、下校途中の小中学生女子が行き交っている。



「お茶をお楽しみのところ失礼します、ミスター」



マヤは声掛けに入った。

橘明日香も一緒だ。



「おや、こんなに美しいお嬢さんに声を掛けられるとは、光栄ですな」



白人の男は目を細めた。

しかしその視線はマヤのみに向けられていて、橘明日香には一瞥もくれない。

明らかに自分だけを見ている。

マヤには男の視線がヒシと感じられた。



「お一人でお茶お楽しみですか?」

「ひとりではありません」

「?」


「お茶と、ティーポットが一緒です」

「まあ、お上手ですこと。よろしければわたくしどもも御一緒してかかまいません?」

「おお、こうした出来事を東洋では『友、遠方より来たるあり』というのですね?」


「また、楽しからずやと続きますね」



マヤは頑張ってお嬢さま言葉を駆使した。

その甲斐あってか、紳士と同席することに成功した。


マヤのとなりには鬼将軍、紳士のとなりには橘明日香。

ツバキとタルマエ警部は二人用の席だ。



「おじさまは海外の方ですわよね。どちらの国からお越しですの?」



橘明日香が訊く。



「ブリテン、大英帝国からです、お嬢さん」

「お仕事で?」



今度はマヤが訊いた。



「えぇ、現地の視察と申しましょうか。株を生業にしていましてね、日本企業の株を買うかどうかと」

「投資家ということですわね、ようこそはるばる日本まで」

「はるばる来た甲斐がありました。日本のお嬢さん方はみな美しく、目の保養をさせていただいてます」



その趣向は黒髪なのだろう。

金髪の橘明日香よりも、マヤに視線が注がれがちだ。

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