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9.えっ、プロポーズですか?!

それは、まるで夢の様なひとときでした。


煌めくシャンデリア、重厚な音楽、王城という非日常の空間。王子の瞳には私だけが映り、きっと私の瞳にも王子だけが映っていることでしょう。王子のリードは完璧で、私は導かれるままに踊ります。


あぁ、曲が終わってしまいました。楽しい時間は、あっという間ですね。これで終わりかと思ったら、少し寂しい気持ちなりました。


「アニータ、もう一曲いいかな?」

「もちろんです」


王子の素敵な提案に私は即答します。私達は再び、向かい合いました。


「あ、そうだ。王子様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、アニータ」

「それで、プレゼントは何が良いですか? 用意できていなくて申し訳ないのですが……そもそも私の所持金で王子様が喜ぶ物を買えるかどうか微妙ですけど」

「あぁ、それなら後でくれると嬉しいな」

「? 何をですか?」

「その時になれば分かるけど。そうだね、とりあえず『はい』って言ってくれたらいいよ」

「はい?」

「うん、今じゃなくてね。後でね」


何やら意味ありげに王子は言います。何ですか、その謎掛けみたいなのは。

そして2曲目も、あっという間に終わりました。これで本当に終わりですね。もう私は、お役御免です。周囲の目という緊張から、やっと私は解放されました。されるはずだったんですけど……。


「ねぇ、アニータ。もう一曲、踊れそう?」

「え、踊れますけど」


でも、それはダメではないですか? そもそも2曲連続も微妙だったと思うのですが。そうです、ダンスの踊る回数にはルールがあります。2曲連続は“想いがある”、“慕っています”という意味です。


先程の王子の言い方からすると、そこまで考えていないように思えましたけど。第三王子は“自由にさせてもらっている”だけあって、ルールに縛られないのかもしれません。しかし3曲連続は、さすがにダメだと思うのです。それは夫婦にのみ許された行為なのですから。


「アニータ、ルールは気にしなくていいよ。君が踊りたいかどうかが問題なだけだから。あ、それとも疲れてしまったかな? 少し休憩しようか?」


おっと、元平民の体力を舐めないでください。これしきの事で根を上げるとでも思っているのなら心外です。


「大丈夫です。疲れていませんから」

「そう? だったら、もっと踊ろう」


王子は笑みを浮かべると、グッと身体を寄せてきました。何やら、してやられた感が否めません。私、上手く王子に乗せられたのではないですか?


結局、5曲踊りました。流石に足が辛くなってきましたね。気づけば周囲に踊っている人はおらず、私達だけが踊り続けていました。踊り終えて互いに礼をすると、周りから拍手が起きます。これは一体、どういう意味が込められた拍手ですか? あれですかね、5曲も連続で踊るなんて体力凄いじゃん!の拍手ですかね?


王子は周囲の反応を気にすることなく、サッと後ろを向くと何かを受け取ります。それは真っ赤なラナンキュラスの花束でした。


思い出しますね、王子の視線を逸らす為にラナンキュラスの小話をしたことを。あの時はカエルに関係なかったので話しませんでしたが、ラナンキュラスの花言葉は「とても魅力的」「晴れやかな魅力」「光輝」があります。そして赤いラナンキュラスの花言葉は「あなたは魅力に満ちている」です。


王子は、その花束をどうするつもりなのでしょう?


振り返った王子は片膝を突くと、手にした花束を私に差し出しました。その瞳には強い決意と熱い何かが宿っているようで、私は目が離せません。


まさか、その花束を私に? えっ、一体どうしたのですか? 王子?


「アニータ。初めて会った時から、僕は君に惹かれていた。そして、いつしか僕の一番はカエルではなく、アニータになっていたんだ。君をカエル以上に大事するし、カエル以上に愛すると誓う。だから、僕と結婚してください」


はい?!?!


えっ、えぇ、どういう事です? これはプロポーズですか?! 何故、私に? そんな予兆ありました? え、どうしましょう。カエルより大事って本当です? 日頃の王子を考えると、それは絶大な意味を持っていますが……いえ、それは置いておいてですね。


私は小声で王子に告げます。


「あの、王子様。私は、つい先日まで平民だったのですよ。それが王子様と結婚だなんて、恐れ多いことです。それに知らないかもしれませんが、私は王子様より年上ですよ?」

「ん? 何も臆する事はないよ。もちろんアニータが僕より年上だって知っていたけど、愛を前に年齢なんて関係ないよね」

「そ、そうですか?」

「それともアニータは、結婚相手が年下なのはイヤ?」

「イヤではないですけど。で、でも教育とか色々問題があるかと」

「妃教育のこと? それなら大丈夫だよ。僕が渡した本を、ちゃんと読んでいただろう?」

「はい?」


え、あれって、まさか!


「妃教育の中で、本で学べるものは既に完了しているよ」


なんてこと!!

どおりで、家庭教師達が『教える事はない』と言うはずです。そして勉強をどのレベルから始めるか量る為に、家庭教師から出された問題が習う前から解けたはずですね。


「それにダンスも問題ないから、後は所作ぐらいだけど。それも僕を真似ていたから大丈夫だと思うよ」


お茶の時の『僕を真似すればいい』って、この為ですか? え、王子は一体いつから、こうすると考えていたのですか?


「僕のこと嫌い?」

「嫌いではないですけど」

「それなら好き?」


好きかと言われたら……好きですけど! そりゃ、もう付き合いも長いですし? 気遣いの出来るイケメンですし? 本の感想の語らいとか、議論とか楽しいですし? 何より、私の作ったマドレーヌを美味しそうに食べてくれますし? 好きにならない要素があります?


「アニータ、さっき言っていたプレゼントを今ちょうだい」


え、さっき王子が言っていた『後でくれると嬉しいな』『はいって言ってくれたらいいよ』は、これの事ですか?! プロポーズに対するYESの返事をプレゼントとして欲しいと?! それって、つまり……私がプレゼント的な??


「これから、もっと好きにさせてみせるから僕と結婚して。ね、アニータ」


王子は眉を下げて微笑みます。


くぅ、その表情は反則です! いつもいつも、この表情に負けてきました。でも今日は私の人生がかかっています。そう簡単に絆されたりは、あっ何ですか、その甘い笑みは! 普通なら断られるかと不安になるところでしょう? 何故、そんな自信あり気に甘い顔を! 私が断らないと確信しているのですか? ~~~っ、その通りですよ! お望みの言葉をプレゼントしてあげますよ!


「はい」


私は観念して、差し出された花束を受け取ります。その途端、会場がワァッと湧きました。王子は満足気に私を抱きしめると、国王陛下へ振り向きます。


「うむ、どうやら上手くいったようだな。良かったな、セドリック」


頷いた後、国王陛下は立ち上がって宣言しました。


「皆の者、良い知らせだ。この度、セドリックが婚約した」


もしかして『上手くいったら良い知らせ』って、この事だったんですか?!

えっ、ということは、国王陛下は始めから王子がこうすると知っていたのですか?


見れば、会場にいた祖父母も叔父夫婦も“良かった”と言わんばかりに頷いています。既に全て王子が根回し済みだという事ですか?


突拍子もない王子だと思っていましたが、それは見せ掛けだったみたいです。この時になって私は初めて、この王子が策略家なのだと知りました。

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