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8/10

8.目立ちたくないので気配を消したいと思います

はい、あっという間にパーティー当日です。


私は王子が贈ってくれた一式を身に付けました。ドレスは黄色とオレンジのグラデーションで、キラキラのレースがあしらわれています。まるで朝日から夕陽にかけての太陽の輝きのようです。もしや、これは王子の色というやつなのではないですか? 王子の金髪と、王子のオレンジ色の瞳。それが合わさった感じです。


アクセサリーは王子の瞳のように煌めくサンストーン。あ、確かアベンチュレッセンスが強くて、色が濃く透明度が高いものは高価と言われていたはずです。


あぁ、これは王子が持ってきた本で得た知識ですよ。この国のメジャーな産業の一つは宝石ですから、知っておいて損はありませんね。とはいえ、その知識の所為で身に着けている宝石の価値が分かってしまいました。


こ、これのお値段は一体?!


考えてみたらドレスの生地も、とても上質です。レースの細工も、とても繊細で細かいです。そりゃ王子が贈ってくるぐらいなので、当然といえば当然ですけど。えっ、今の私の全身総額、想像するだけで震えてしまうのですが?! 元平民には刺激が強すぎます!


と、まぁガクブルしている内に王子が迎えに来てくれました。当たり前ですが、今日の王子はカフェに来る時と違って正装です。伯爵家を訪ねて来る時よりもバッチリ、カッチリ決まってます。格好良すぎでしょう?!


特に、この詰襟が王子の凛々しさを引き立てていて……私の語彙力が乏しい所為で、皆様にお伝え出来ないのが口惜しい。とにかく、めちゃくちゃカッコイイ理想の王子様を想像してください。ありがとうございます、それです。ね、カッコイイでしょう?


思わず見惚れて反応が遅れていると、王子もワンテンポ遅れて私に手を差し出しました。


「今日のアニータは一段と綺麗だね」

「あ、ありがとうございます。これは王子様から頂いた衣装達のおかげです。王子様も、今日は一段とカッコイイですね。す、素敵です」

「あっ、ありがとう。では、行こうか」

「は、はい」


何だかギクシャクした会話をしながら馬車に乗り込みます。それから何を話したのか覚えていませんが、気づけば王城へ着いていました。


ここに来るのは二度目ですね。思えば、あの日が王子との出会いでした。カエルをカフェに持って来る事はなくなりましたが、あの日と変わらず王子はカエルが好きなそうですよ。


馬車から降りると、王子は私をエスコートしたまま、勝手知ったる我が家と言わんばかりに迷わずズンズンと進んで行きます。そして、大きな扉の前で止まりました。この先が会場のようです。いよいよですね!


「セドリック第三王子殿下と、ルヒェン伯爵令嬢のご入場です」


扉が開かれたと同時に、脇に控えていた男性が声を張り上げました。


えっ、そんな大声を出したら、皆が注目してしまうのでは? あ、それが目的ですか? あれ、よくよく考えてみたら、このパーティーは王子の誕生パーティーですよね。主役にエスコートさせているのってマズくないですか? そもそも婚約者でもないのに、王子がデビュタントのエスコートをするって前代未聞じゃないですか? え、ちょっと待ってください。私、めちゃくちゃ目立ってません? ヤダヤダ、私は目立ちたくないタイプなんですけど~!!


と心の中で泣き叫んだところで、時すでに遅しです。会場内全ての人の視線を浴びつつ、私達は中央へと進みました。緊張からか、王子の腕に添えている手が強張っています。


「大丈夫だよ、アニータ」

「うぅ」


王子の顔を見れば、穏やかに微笑んでいました。さすが王子。第三王子でも、こういう場に慣れていますね。ですが、私は初めてなんですよー!!


王子は国王陛下の横に立ちました。それを見た国王陛下は頷くと、椅子から立ち上がります。


「皆の者。今日はセドリックのために、よく集まってくれた。これで息子も成人となる。どうか、祝ってやってくれ。それから上手くいけば、後で良い知らせがある」


良い知らせって何でしょうかね? あ、というか私、王子の誕生日プレゼントを用意していませんでした! 慌ただしくて、それどころではなかった所為ですけど。


あと、お金の問題もありますね。給金を貯めていたので多少お金はありますが、王族である王子に喜んでもらえるレベルのプレゼントを買える程の金額ではありません。さて、どうしたものでしょうか。


国王陛下が目配せすると、王子が一歩前に出ました。


あ、この時には私のエスコートは終了していますよ。今、私は王子の数歩ほど後方にいます。そうです、主役でもないのに少し高い位置から会場内を見下ろしているのです。必死に存在感を消して息を潜めていますが、そこにいる人間は誰だ?という視線が下から刺さって痛い! 一人は心細くても、そっちにいる方が良かった!


「今日は私のために、お集りいただき感謝します。これからも、この国のため精進していきますので、どうかお力添えください」


王子の手短な挨拶が終わると、会場から一斉に拍手が湧きました。当然、私も拍手を送ります。王子、後でプレゼントに何が欲しいか教えてくださいね!


「さて、次はアニータの番だ」


振り返った王子に促されて、私は王妃様の御前に歩を進めました。令嬢のデビュタントは王妃様から花を賜り、それを胸に差すことで完了します。


あぁ、緊張MAXです。大丈夫、大丈夫。ちゃんと練習しましたから。練習通りにすれば大丈夫。今、私の顔は強張っているに違いありません。許してください。つい先日まで平民だったのですから。


私は礼→花授与→胸に差す→礼と練習した通りにします。やりました! 無事、やり遂げました!


さて、御前を失礼しますよ!という時、国王陛下と王妃様が口を開きました。


「カエル王子などと呼ばれていた我が息子も、今では立派な第三王子となった。それもこれも貴女のおかげだな」

「えぇ、そうです。女性よりカエルを好んでいたセドリックが、今や一人の女性に心を寄せたのです。この子、変わったところがありますけどね。カエルに対する愛情を見ていれば分かります。きっと貴女にも惜しみない愛情を注ぐことでしょう」


えっ、何て? 私のおかげだと言いましたか? ん、愛情って何の事ですか?

聞き間違いかと戸惑っていると、王子が私の手を取りました。


「さぁ、踊ろう。アニータ!」


そして、そのまま中央へと歩み出ます。それを察したのか、音楽が奏でられ始めました。


そうでしたね。私が今日ここにいるのは王子と踊る為でした。その為の練習を、知らず知らずの内にしていたのですからね。私達は寄り添い、踊り始めます。それに合わせて、徐々にダンスに参加するペアが増えていきました。

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