現段階で解る事
「十字架を背負い生きなさい。一般的に使われている意味合いとしては、拭い去る事が出来ない程の罪の意識、精神的な苦痛を死ぬ迄、背負う事。だが言葉の本来の意味は、柵を棄て神に従う事と云われているんだよ。まぁ。そこら辺は、とりあえず置いとくとして…。」
「置いちゃうの?」
神木はポカンとする。
「置いちゃう。置いちゃう。現時点ではちと解らん。だから置いといちゃう。まあ。ソレでだ、十字架を背負う。この言葉をイメージするにキリストが思い浮かぶ。キリストは処刑される為に処刑の道具を背負い処刑される場所へと向かうのだけど…。」
そう云うと乱雑に描かれている十字架を指差した。
「この十字架は向かうべき方向を意味しているのではないかと仮定した。そうだなぁ。風見鶏ってあるだろ??屋根の上部やらに取り付けられるヤツ。下部には東西南北の四方位が十字型で示されているよな?まぁ。なんだかんだ云っても鶏とキリストには逸話があるんだよ。キリストの弟子ペテロがキリストを三度否認した時に、鶏が鳴いたと云う逸話がね。それで【罪への警告の象徴】として鶏をモチーフとした風向計、風見鶏が教会に飾られる様になったらしいね。」
星月は便箋に描かれている十字架を幾度も人差し指で叩く…。
「ソレでだ。するとどうだ?十字架の交差している付近に刻まれている数字とアルファベットが、途端に重要な意味を成している事が解ってくる。向かうべき方向が解ったのなら、どれだけ進むのかが重要だろ?そう距離だよ。数字とアルファベットが意味しているのは距離だったんだ。」
空白の欄に文字を数字を刻む。
「Fはフィート。Мはマイル。Iはインチ。Yはヤード。んで数字とアルファベットで組み合わせた距離を計測する。」
「ちょっと待って…。何でアルファベットが距離の単位だって解ったの?ソレと普通に考えるとМはメートルになる様な…。」
「んあ?封筒に書かれていた数字に意味があったんだ。あの数字は、やっぱり日付けを意味していたんだよ。1983年7月23日。その日、民間航空史上に残る有名な航空事故が遭った。ギムリー・グライダー又はエア・カナダ143便滑空事故と呼ばれる航空事故だ。事故の原因となる過失はフライトに必要な給油量の計算時に起こったとされている。その時、エア・カナダではヤード・ポンド法からメートル法への移行の最中だった。そして事故を起こした機体は、同社のシステムにメートル法を用いる最初の機体だった。要はヒューマンエラーだ。ってな訳で続けるよ。」
「あっ。はい…。」
神木は思考を保とうとしている。
「んでだ。このMessageの場合、Iつまりインチの距離は無関係となる。」
「えっ?何で?」
想像もしなかった言葉に神木は唖然としている。そんな神木の様子を視た星月は、優しく諭す様に言葉を紡ぐ。
「十字架の意味を考えてみた。十字を切ると云うだろう?アレの意味なのだが、十字架の縦の線は、英語の大文字のI、私を意味する。横の線は、そのIつまりは私を切る(kill、殺す)事を意味する。要は、自らの生命を捧げ、他者を生かす事…。自己犠牲だな。」
星月は、人差し指で縦線を空に描き、続けて横に人差し指を引いた。
「方向。距離が解ったのなら、始点が解らなければ意味が無い。ソレは何処かと云うと。」
星月は白色の便箋を指差し…。【甦り】を望む場所が新たな人生の始まりの場所。そして死へと、再び歩き始める、始まりの場所だ。と云った。