Messages
星月は街中を歩く。心は複雑な感情が渦巻き、行き場を無くしている。けれど、星月の思考が停止する事は無かった。
黒い便箋。白い便箋。そして桃色の便箋。十二本の十字架。十字架に刻まれている数字とアルファベット。十字架を背負い生きる事。蘇りを望む場所。黄泉帰り。蘇り。振り返るな。死者を視るな。禁忌。契約。
十字架を背負う。その本来の意味とは何だったかな…。星月は記憶を呼び起こす。
十字架を背負う。その意味は拭い去る事が出来ない程の罪の意識、精神的な苦痛を死ぬ迄、背負う事。しかし本来の意味であるのなら柵を棄て神に従う事。だったかな…。
星月の思考は言葉で埋まる。
十二本の十字架。波木に届いた便箋も湯田の家族に届いた便箋も何方も十二本。何か意味がある筈だ。乱雑に向きさえ不揃いに描かれている十字架。中央の文字を囲むかの様な構図。一見乱雑に見えて、何かの法則があるのだろうか…。あぁ。一番上の十字架だけは、何方もキッチリと中央に描かれていたな…。
十字架の交差付近に刻まれた数字とアルファベット。数字は桁が揃ってはいない。一桁のモノもあれば数桁のモノもある。アルファベットは何だった?F.М.I.Yだったか…。ソレもランダムに組み合わされている…。数字とアルファベットの関係性…。数字と云えば封筒にもあったな。確か1983.7.23…。
星月の思考は巡る。
黄泉の国。ソレは死者の国。古代の中国では、死者の世界が地下にあると考えられていた。黄は五行説で「土」を表象しているので、本来は地下を指した言葉であり、死後の世界という意味ではなかったのだが、後に死後の世界という意味が加わったのだと云う。直訳すると地下の泉となる。なので黄泉の国は海底にあると云われていたりもする。
黄泉は山の音が変化した言葉と云われている説もあり、山に存在するとも考えられている。大和言葉では、闇が転じたと云う説、夜見が転じたと云う説、閻魔を表す中国語の預弥が転じたと云う説もあるのだそうだ。
星月は考える。ソレはきっと、此の世と彼の世との境界線が必要だったからだ…。死と云う概念を己から遠ざける為に必要だったからだ…。
死体は、何れは朽ちて果てる。腐敗し、無惨な姿となる。だから人目に付かぬ様に、死体を隠す必要があったのだ…。黄泉の国とは、その為の場所なのであろう。ソレは例えば、海の底。山の中。土の中。
人の目が届かない近くて遠い世界…。