解っている
「何て云った?」
波木は星月に問う。
「んあ?確実に解っている事があるだろ?この手紙は湯田紗月が書いたモノじゃない。死んだ人が生き返るなんて事は有りはしないよ。一昔前じゃないんだから…。」
そう云うと、珍しく儚げな顔を創る。
「一昔前?一昔前だったら死んだ人が生き返っていたとでも云うのか?ソレもオカシイだろ?」
「いや…。一昔前なら死んだ人が生き返る事だって、結構有り得た話だよ。まぁ。その殆どが、ただの勘違いだけどな。死んだと思っていた人が、実は死んでなかったって云うだけの話だよ。誤診って所だな。誤診。まぁ。今でも有り得なくはないんだろうけども…。だけどソレは肉体があってこそだろ?魂が生き返ったとしても帰るべき肉体が無ければ、成す術は無い。」
星月は右の人差し指を解りやすく左右に振った。
「だとしたら、誰が何故、こんな手紙を書いたんだ?しかも、手紙を受け取ったのは、俺だけじゃないんだぞ。」
「んあ?」
星月呆けた声を出す。
「内容が違う所もあるけど、湯田の家族にも手紙が届いてるんだよ。証拠もある。」
波木はスマホを取り出し、フォト画面を開いた。その画面を星月へ向ける。
「お前。何で最初にソレ云わないの?莫迦なの??」
「いや。俺だって混乱してるんだよ。」
と波木はブツブツと呟く。
黒い便箋には中央に【十字架を背負い生きなさい。】と書いてあった。その周りを囲む様に十二本の十字架が乱雑に描かれ、十字架の交差している付近には、数字とアルファベットが刻まれている。アルファベットの種類はF.М.I.Y。しかし波木が受け取った便箋とは数字が違う様だ。
白い便箋には家族に宛てた内容が記されている。
【ママとパパを残して、先に、この世を去ってしまった親不孝な私を許して下さい。アレから何年経ったのでしょう。私は今でも鮮明に、あの頃を思い出せます。私が産まれた場所。ママとパパは覚えてる?もし、私を忘れる事無く生きていてくれているのなら…。もし、もう一度、私をママとパパの子供でいさせてくれるなら。私が産まれた場所からやり直したい。今でも家族を愛しています。迎えに来てください。生き返らせて下さい。もう二度とママとパパと離れたくない。どうかお願い。私を助けて…。】
桃色の便箋には変わりは無かった。
「最悪だ…。コレは悪戯や悪巫山戯の範囲を優に超えてる。子を思う親の心を踏み躙るなんて…。真っ当な人間が出来る事じゃない…。」
星月は唇を噛む。両の拳を握っている。
星月は波木に向き直り…。
「この事は忘れるんだ。忘れられなくても、コレには、もう二度と関わるな。あたしからの警告だ。」
と云った。静寂が辺りを包む。暫くすると、星月は立ち上がり、波木の肩を叩いて店内を後にした。