便箋
「信じられないよな…。死んだ人から手紙が届くだなんて…。俺もそうだよ。信じられないんだけどさ。ほら。彼女の筆跡って独特だっただろ?縦線が少し長かったり、止め、撥ね、払いとかも最後は丸の様な感じでさ…。」
波木は、そう云うと横に置いてあった鞄へと手を伸ばし、中から封筒を取り出す。そしてソレを星月の前へと差し出し、これなんだけど…。と云うと指で封筒に書かれている文字を指差したのだった。
自然と星月の視線は、その文字へと向かう。
「確かに…。」
其処には名と日付けの様な数字が記されている。1983.7.23。これが日付けだとしても、星月達が産まれるよりも過去の日付けとなる。その数字が波木にも、湯田にも関係があるとは思えなかった。
しかし、星月の記憶にある湯田の筆跡と、其処に書かれている文字の筆跡は一致していた。この文字が彼女によって書かれている可能性は高い。
「中、見ても良いか?」
星月は瞳を大きく開いた。ただでさえ大きな瞳が開くと、益々、精巧な球体人形の様に見えてくる。
「良いよ。彼女の事はもう吹っ切れてはいるから。仕方の無い事だったんだし…。」
堰き止め、独りで抱え込んでいた悩みを吐き出すかの様に積極的に封筒から中身を取り出した。
綺麗な便箋が、テーブルの上に並べられていく。微かに鼻腔を掠める特殊な臭い。
〘ガソリン?〙星月の脳内に浮かんだ言葉。それから直ぐに意識を手紙へと向ける。
其処には三枚の縦長の便箋があったのだった。