セイギノヒイロウ
※本作品には一部の読者様を不快にさせかねない表現がございます。読んでいて不快だと感じましたら、すぐに無理せず本小説を閉じる事を推奨します。
僕たちの街には、ヒーローがいる。
誰しもが憧れて、誰しもが皆頼ってしまう…そんなヒーローがこの街にーーーーーーーーーーーーーーーー
ある日の朝、いつもと何も変わらないある日の朝に、僕は目覚めた
普段と変わらない、いつも通りの朝、だけど僕には、「憂鬱な月曜日が始まった…」などと、パロディネタを披露する余裕はなかった
朝の支度を済ませ、制服に着替え、家を出る。その途中で顔を洗ったり朝食を食べたり、そんな僕を見て、親からはどう映っているんだろう、やはり、いつもと変わらないのだろうか…
期待しても意味がないのはもう分かっている事だ
僕の名前は浅間浩也、高一、16歳、僕は今、通っている高校に向かう道中で、なにかに期待して、スマホからLI○Nアプリを開いて、そこの、男子のグループ欄に一言おはようとだけ呟く、案の定、全員から既読無視をされた
その後も、学校までの電車から降りて、駅の改札から出ようとした時、たまたま僕の後ろに、クラスメイトの秋山聡志がいたようだ
僕は最初それに気が付かずそのまま改札から出ようとした、そうしたらいきなり後ろから聡志が僕にぶつかってきた
「邪魔だどけおい」そう言いながら、僕が転がるほど強い勢いで、その右手で僕を払いのけた
そして、地面に手がついた僕をみて 「wだっせwww」と言いながら、改札口を出ていった
その後、学校に着いて、教室にたどり着いてすぐに僕は、いつものように体育館シューズが、靴紐どうしを複雑に結んで、靴どうしを簡単には解けないようにくっつけられていないかを確認しにいった
案の定、そうなっていた
今日は体育がある日だったから、これを放置しておくわけにはいかないと、今この場で靴紐を元にするために、その場にしゃがんで、他の人からは僕の背中が壁になって靴の事が見えないようにしながら、僕は靴紐を解き始めた
だけどもちろん、朝から教室の隅で不自然にしゃがんでいる姿は、その時教室にきていた全員から、不思議そうに見られていた、何人かには気づかれていたのかもしれない
ただし、先ほどの聡志と、もう1人、聡志と席が隣の佐藤和馬だけは、僕にギリギリ聞こえる程度の声量で、僕を嘲笑っていた
4限が終わり、僕は食堂へ急いだ、また、あいつらに絡まれる前に、さっさと注文を済ませて、どこか人気のない所で昼食を食べようと考えた
食堂へ着いて、僕はさっさとラーメンの注文を終え、あいつら2人に絡まれる前にさっさとこの場から立ち去ろうとした
そんな僕の考えは甘かった、後ろから突然、僕は背中が強く叩かれたのを感じて、振り返ってみると、やはりそこには聡志と和馬の2人がいた
「おいお前美味そうなもん頼んでんじゃん」
「ちょっと来い」
2人は僕を無理矢理、食器の受け取り口から1番離れた、食堂の左奥のテーブルに連れていかれ、そこにラーメンを置かされて「ちょっと俺らにも分けてくれよ」と、聡志が言ってきた
「...、なんで…自分で買えよ…」と、生気の抜けたような、掠れた小声で反論したつもりだった
だが聡志には聞こえなかったのか、聞こえていたが無視したのか「マジ?ありがとう、じゃ全部いただきま〜す」
と言って、和馬と2人でたかるように僕の注文したラーメンを食べ始めた
僕は今日初めてイラっときて「やめろよ、それは僕のだ」と強い声量で前に出た
だが聡志は「邪魔」といいながらラーメンと一緒についてきた箸で僕の右目を突いてきた
「んあぁ」僕は驚いて地面に転げてしまった、それを見て、汚い口の中を見せながら嘲笑う2人
幸いにも咄嗟に眼を瞑ったから眼球には影響はなかったが、それでも失明するかのような感覚と恐怖に晒された
結局、ラーメンは全て食べられた
学校が終わり、僕はなるべく早く、学校から出ていった、家の中なら安全だからだ
駆け足で駅へと急ぐ僕、そんな僕を、いきなり後ろから僕の肩を触って、力強く後ろへ引き戻す、やはり、聡志と和馬だった
「なに急いでんだよ」「そんなに急いで帰る意味ねぇだろ」
僕は、彼らの言葉一つ一つに込められた無言の圧力によって、なにも言い返す事ができなかった
「ちょっと来い」そう言って2人は僕を人気の無い路地裏へと連れていった
「なぁ、俺らこの後マック寄るんだけどよ、金ねぇんだ」
そう言って、僕の前に右手を差し出してきた
「金、借せ」
そうするのが当然かのように、僕にお金を貸せと告げてくる
「なんで僕が…そんなこと…」と、小さく呟いたが、それがどうやらこいつらの耳に入ったようで「あぁ?つべこべ言わずに借せ!」といいながら2人で僕を足で蹴りまくって、僕を一方的に痛めつけてきた、何度も何度も何度も。こいつらの気が済んだ時にはもう、僕は顔中が打ち傷だらけになって倒れていた
当たり前のように、倒れた僕から財布を無理矢理奪い出して、そこから現金を取り出した
「お、あるある、けどいつもより少なねぇな」
「っていうか財布の中見現金だけっていうwww」
「マジそれwwいつの時代だよwwwww」
カードを持つと、お前たちが見境なく残高を使い荒らして、最悪永遠に僕の手元に返ってこなくなるだろ、そうなるくらいなら初めからそんなもの持ち歩かず、少額の現金だけ持っていた方が被害は少ない
「ありがとうw」2人はそう言って、僕から奪った現金を持って、僕の元から消えていってくれた
「...」あいつらがいなくなってしばらくした後、僕はふと、空を見上げた、今にも消えかかりそうな、淡い夕方暮れがそこにはあった
僕は…虐められている。
始めからそうだったわけではないはずだ…中学の頃は友達も少しはいたし、特定の誰かには嫌われている…とかもなかったはず、
中学を卒業して、僕は家からは少し離れたところにある、ちょっとした進学校に入学した
そこには僕の知っている友達はいなくて、けど周りの人の何人かは、中学からの地続きの知り合いのようで、そんなよそ者の僕の事が、聡志と和馬は気に食わなかったのか、ある日、2人は僕に向けて明らかな嫌悪の視線を差し向けてきた
そしてそれを境に、文字通り日を追うごとに、嫌がらせから始まった奴らの愚行が、僕へのいじめへと変わっていった
改札を通る邪魔をされる、肩揚げをされる、注文した昼食を食べられる、そんな仕打ちを毎日のようにされた
他の生徒の多くはその事に気づいていたが、誰もこの事に関わりたくはなかったのか、全員が見てみぬフリをしていた
それは、先生どもも同じだった
全員、僕のいじめを、見て見ぬ振りをした
もちろん、親にもこの事はそれとなく伝えたさ、けど親は、「それくらいどこ行ってもある」だとか、「それくらいで逃げるとか言うなよ情けない」などと言って、まともに考えてはくれなかった
本当は全てを赤裸々に伝えるべきなんだろうけど、そんな勇気があるなら、僕はそもそもいじめられてなんかいない
何が原因でこうなったのかとか、僕の何がいけなかったのかとか、そんなことは今更どうでもいい
浩也すっと起き上がり、その際に支えに使った家の壁にもたれかかる
ただ一つ言えることは…「ふざけんなよ!」
僕は両手でその壁を思いっきり叩いた
「なんで僕がこんな目に遭わなくちゃならない!なんでよりによって僕なんだ!どうして僕だけがこんな事になってるんだよ!!!あいつらが悪いんだろ、あいつらが全部悪いに決まってんだろうがよ!!!なのに何故奴らは裁かれない!?何故、なにも悪くない僕がこんな目に遭っている!!!???あいつらが死ねば全部解決することだろうがよぉ!!!」
僕はこの壁を何度も何度も叩きながら、大声で嘆くように必死に泣け叫んだ、どれだけ強く訴えたとしても、僕に返ってくる言葉なんて、なにもないというのに…
「はぁはぁはぁ」僕の瞳から、ボトボトと、涙が溢れ落ちてきた
「…なんで…なんでこうなっだんだよぉーーー…くそがぁぁぁぁぁぁぁ」
泣きながらそう叫んだその時、僕の身体から伸びている影が、突然本来ならあり得ないほどの大きさにまで伸びて、その影から、まるで始めから影の中に入っていたかのように、僕の影からにゅっと、全身赤い防護服のようなタイツ(?)を着用し、戦隊物のヒーローが被っていそうな、こちらも赤い仮面を着用した、正体不明の謎の人物が現れた
「うわぁ」と、僕は思わず後ろに転げてしまうほど驚いてしまった
「!大丈夫かい?」その人は爽やかな男性の声で、僕に馴れ馴れしく話しかけてきた
「え?あ、はい…大丈夫です」
それとなく返事をすると、その後この人は突然訳のわからないことを言い出した
「私を呼んだのは君かい?君が、私に助けを求めたのかい?」
「???」突然、存在自体訳のわからないこの人が、更に訳のわからないことを僕に喋る、あんたの方が勝手に出てきたんだろ、一体どこから出てきたんだ…と、影から現れたのを浩也は見ていなかったので、僕にとっては本当に突然訳のわからない人物が突然僕に話しかけたという事になる。いや、事実そうなのだが
だけどこの時、僕の脳裏が、ある噂を思い出させてくれた
この街にいる、ヒーローの噂を。なんでもこの街にはヒーローがいて、何か困った人の前に現れては、その人にとっての悪を栽培してくれるらしい
僕はこれまでそんな噂、全く信じちゃいなかった
だって本当にヒーローがいるなら、僕はとっくに助けられてもいいはずだからだ
だけどようやく、僕にもその時がやってきたということなのか?
僕にようやく、ヒーローが助けにきてくれたのか?
「あ…あの、あなたは、噂の…ヒーロー…なのですか?」
まだ僕の思い込みで、この人はそれの模倣か無関係の変人という可能性もあったから、僕は慎重に聞いてみた
するとその人は少しだけ考えた後こう言った
「ヒーロー…か、私がそのような者なのかは分からないが、私は困っている人の前に無償で現れ、その人にとっての悪を、愛と正義の名の元に成敗する者…正義の味方だ」
本当なのだと、信じてみる事にした
何故ならその人にはよくみると影がなく、また本当にどこからやって来たのかの見当がつかなかったからだ
だから…僕は、縋るように、その人に泣きながら訴えた、叫けぶように泣きながら、その人にただひたすら助けを求めた
「だったら…僕を助けてくださいよ!僕は虐められているぅ!ぞいつらの名は、真朱真路学院1年2組、秋山聡志と佐藤和馬の2人ぃっ、全部!そうだ、全部あいつらが悪いんだ!悪は奴らだ!奴らは僕に様々な虐めをしてきた!僕の心はいま!奴らによって剥がれ落ちそうになっている!奴らは絶対許しちゃならない!あんたもそう思うだろ!悪はあいつらだ!本当に成敗されるべきはあいつらなんだ!!!」
怒りと涙を込めて、僕はヒーローに縋りついた、僕はヒーローに、僕の願いの全てをぶつけた
それは、叶うわけがないと思って諦めていた、切実な願い。『あいつらが、死ねばいいのに』
ヒーローはそんな僕の想いを汲み取ってくれたのか、静かに一度首を縦に振った
「分かった、必ず、私が成敗して見せよう」
「!本当か!?」僕は飛びつくようにヒーローに聞き返した、ずっと、その一言を待っていたような気がした、初めて虐められたあの日から、僕はずっと、誰かが救いの手を差し伸べてくれるのを待っていたんだ
だから、僕は咆哮したいほど嬉しかった、その一言を何度も聞き返して、その度にあの満たされたような気持ちに酔いしれていたいとさえ思った
ヒーローは包むように優しく、僕に言葉を返した
「当然だ、私が悪を必ず倒す、悪は滅っさなければならない」
ヒーローはそう言った後、なんと文字通り僕の影に入り込むようにして、姿を消した、きっと、奴らを倒しに行ったのだろう
「ふは、ふはは、フハハハハハハ…フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
僕は笑うように狂い叫んだ、ようやく僕は救われる、ようやく奴らが打ち滅ぼされる、その事が僕にとっては余りに大きな出来事すぎて、心ではすぐには現実を実感できなかった、だけど体は、もうとっくに分かっている、僕は間違いなく救われたんだフハハハハハハハハハハハハ
約2時間後、マクドナルドを出て、黄色白くライトアップされた夜道を歩く聡志と和馬
だがその2人の歩く先に、先ほどのヒーローがいつの間にか現れ、立っていた
2人はその強烈すぎる服装をしているヒーローの存在に気づいてはいたが、「なんだあいつ」と思いながらも、2人はヒーローを無視して通ろうとした
だが2人が自分に近づいてきたところでヒーローは「お前たちが、聡志と和馬か?」と、鋭く2人に話しかけた
2人は最初驚いて後方へ後ずさったが、聡志はヒーローを変質者の類いか…と考え、「いえ、人違いです」ときっぱり誤魔化して、和馬と一緒に先に進もうとした
しかしヒーローはそんな2人を無視するかのように「そうか…嘘つきは泥棒の始まり、この言葉は本当のようだな、悪に染まりし者は、平然と嘘をつく」と語った
聡志達は、これガチでヤバいやつか?と思い、適当な言い訳をつけてとにかくこの場を離れようとした
構わずヒーローは続けて「悪は、滅っさなければならない」と呟き、その直後、突然左足を前に出し、右足を軸に体を回転させて相手を蹴り上げる[回し蹴り]を聡志に行い、それで聡志の首を吹き飛ばして殺害した
聡志の首が地面でバウンドする
和馬は一瞬何が起きたのか分からなかったが、すぐに我に返り、「うああああああああああああああああ」と悲鳴を上げてその場から逃げ出した
ヒーローは「!逃すか!」と、助走をつけて飛び上がり、その勢いに乗って足を前に突き出す[跳び蹴り]を行い、その勢いで和馬の腹部を貫通させ、殺害した
しかし、ここは夜でもライトアップされた明かりで輝かしく賑わう都市の中心、ここでこれほど大胆な事をすれば当然多くの人がこの光景を目撃し、そしてそのほとんどの人からの悲鳴や驚愕の声が都市部で鳴り響いた
その中の誰かがこの事を警察に電話をかけたらしく、その約7分後に警察がヒーローの元に駆けつけてきた
ヒーローはその間、何故かその場にとどまり続け、なにもせずただ突っ立っていたらしい
「警察です!」「大人しくしなさい!」と警察がヒーローに向かって叫ぶ
ヒーローはそれを聞き、ようやく警官達の方を振り向いた
警官達がヒーローに銃口を向けながらゆっくりと近づいていく中、それを見たヒーローは突然ポケットから拳銃を取り出した
それを見た警官は当然驚き、更に強く銃口をヒーローに突きつける
「大人しくしなさい!」
しかしヒーローは警官達のことなど視えていないかのように「あなた達は悪ではない、それは紛れもなく正義、この世に、悪と正義しかないのなら…だが、同時に新たな悪を検知した、悪は、滅っさなければならない」と言い残して、その銃口で自らの頭を撃ち抜き、倒れた
警官達はすぐにヒーローに駆け寄り、その状態を確認した後、すぐに彼らの上司にあたる警部にこの事を連絡した
都市部は、一瞬にして騒然とした景色に変わり果てた
僕は、自分の家の2階にある自分の部屋で、なにもせずただボーっと過ごしていた
そんな事をしていたら、突然、僕の影があり得ないほどに伸びていって、その中から夕方のヒーローが現れた
「!ヒーロー様!」僕は飛びつくようにヒーロー様に近づいた
「ヒーロー様、奴らは討伐出来たのですか?悪は成敗されたのですか!?」
疑いもせず、ただ理想の回答だけを求めて、僕はヒーロー様に尋ねる
「あぁ、悪は滅びた、だが同時に、新たな悪も確認された」
後者の言葉などどうでもいいくらいに、僕は前者の言葉に喜びを感じた、だが、ヒーロー様が僕を前にして、明らかな戦闘時の構えをとられたから、流石に我に返って聞いてみた
「え?ヒーロー様?なにを…」
「お前は必ず私が倒す!浅間浩也!!!」
ヒーローはそう言って、ゆっくりと僕に近づいてくる
「は?いや、ちょ…m」
ヒーローは僕の首元に回し蹴りを入れ込んだ
その瞬間僕の意識は消え堕ち、部屋中に僕の返り血が飛び散った
「悪は、滅っさなければならない」
僕らの街には、ヒーローがいる。
誰しもが憧れて、誰しもが皆頼ってしまう…そんなヒーローが、この街にはいる。
今日も何処かで誰かの悪を、
ヒーローが裁くのは悪だけです、この世に正義と悪しかないなら、ヒーローが倒すのは当然悪。
ヒーローは困っている人の前に姿を見せる、正義の象徴、そして、それにとっての悪を裁きに行くのが、ヒーローであるのです、しかし、その過程で新しい悪を発見した暁には、もちろんそちらも成敗していく…ヒーローが裁くのは、悪だけなのですから