大胆すぎる誘拐③
しばらく間をおいてから、アンナは恐る恐る手を挙げた。
「うん?。質問かな?。どうぞ?。」
給仕は笑顔で質問を促す。
「その、誘拐犯さんは今日はどうしてここに?。」
「あ、ちょっと待ってね。今、新しい飲み物を皆の分、持ってくるから。」
そう言って給仕は引っ込んだ。
「おい!しっかりしろ!?。」
エレナはメルロの隣に席を移して白目を向いたままのメルロの肩を揺らして起こした。
「はッ……あれ?……魔王様?……自分は一体……。」
メルロは意識を取り戻して状況把握につとめようとした。
「お客様、お飲み物です。右側失礼しますね~。」
メルロは反射的に左側に首をかしげる。
テーブルに新しい飲み物が全員分並んだあと、エレナとメルロの間を割るようにメルロの右隣に給仕が座り込んだ。
「私もご一緒させていただきますね~~♪。」
そう言って片手に持っているのはピッチャーだった。
それで飲もうというのか……。
皆が唖然としている中、給仕は勢いよく乾杯の音頭を取った。
「それじゃあカンパーーイ♪」
給仕は皆の返事も待たずにごくごくとピッチャーをまるまる飲み干した。
「……ぷっは~~。いいね~~。仕事の後の一杯は、もう最高!。」
その姿にヨハンは思わず声をかけた。
「誘拐犯さん。」
「はい。なんでしょう?。」
「……ステキです。僕と結婚してくれませんか?。」
「「「「「「「うおーい!?。」」」」」」」
皆は叫んだ。
クラウスはヨハンの首を締め自重しないヨハンを責める。
「お前にゃ立派な奥さんがいるだろ!。……そういえばフレデリカ嬢にも求婚してたな……。病気か?お前そういう病気か?。」
アンナは顔に影を落としてクラウスに話しかける。
「クラウス、そのままそいつを黙らせて。後で奥さんにチクってやる。」
「おうよ!」
そしてアンナは給仕に向き直って聞きそびれた質問の答えを求めた。
「それで?、誘拐犯さんは今日はどうしてここに?。」
「どうしてって……。彼に?会いに来ました。」
そう言って給仕はメルロの右手に自分の左手を重ねた。
「ウン!?」
メルロは右手から悪寒が走る。
アンナは質問を続ける。
「……会って、何するつもりなの?……先週も誘拐しましたよね?」
「え……。その……先週と……同じように……オトナの時間を過ごそうと思って……。やだ♪言わせないでよね♪」
給仕は恥ずかしさに悶えながらメルロに一発レバーブローを食らわす。
「がはぁ!?なぜ……。」
メルロは何とか意識を保った。
「アンナ!!アンナ!!?」
エレナはアンナに呼びかける。
アンナは給仕への視線を外さずにエレナの呼びかけに応じる。
「……どうしたの?。」
「クララが……、クララが!『妹の敵を倒した後のブルー●・リー』みたいな顔している!?。」
「……でしょうね。……(かわいそうに)」
アンナは何となくクララの様子が想像ついた。