オシオキ⑦
「…メルロが酔いつぶれて起きない事をいい事に『いたずら』をしていた。違いますか?」
フレデリカはその時の様子を思い出した。
####### 以下、回想シーン #######
「あーもう!酒臭い?」
アンナはメルロの右肩を抱えていた。
「あ、後、もうちょっとね」
フレデリカはメルロの左肩を抱えていた。
そして、メルロを彼の部屋に連れて行こうとしていた。
「め、珍しいわね。いつもならアンナ達と飲みに行っているのに一人で飲みに行くなんて」
そう言ってフレデリカはメルロの部屋の扉を開けた。
「そ、そうなのよ。いつもならこんなにベロンベロンに酔う事なかったのよね。よいっしょ」
アンナはそう言ってメルロを彼のベットに寝かせた。
「うんしょっと、ああ、もう、大変だったわ……」
フレデリカはメルロの足の位置等を動かしてそう声を漏らした。
アンナ「あああ…」
フレデリカ「疲れた…」
アンナとフレデリカはすぐ退室せずにその場で休んでいた。
「……私好みの男だったら喜んでお世話しますけどね。…好みじゃないから苦痛でしかないわ…ハア…」
アンナは天井に顔を向けて言った。
「……それは私も同じ…ハア…」
フレデリカも天井に顔を向けてアンナの呟きに同意する。
ふと、フレデリカはベアトリスとの会話を思い出していた。
####### 以下、さらなる回想シーン #######
それはベアトリスと夕食を共にしていた時の事だった。
「フレデリカはいい人いないの?」
ベアトリスはフレデリカの男性関係について聞いた。
「う、なに突然……」
フレデリカはベアトリスの問いかけにすこし驚いた。
「いや、私達もそういう年頃でしょ?というか、大分過ぎてる気もするのよね。」
フレデリカはベアトリスが話す内容について理解はしたが、全くその気がなかった。
「そういうベアトリスはどうなの?」
フレデリカはベアトリスの事が気になった。
「わたし?…そうね…、商会の男達の中から何人か候補を見繕ってるけど。」
ベアトリスはそう答えた。
「…いいなぁ私の処は男女の比率が偏りすぎなのよ。」
フレデリカは自分の屋敷で働く男達を思い出していた。
ジョセフはマーガレットの夫だし
ハンスは夫というよりは兄のような存在。
ピーターは子供だし
メルロは「憎きパン泥棒」だ。
相手と呼べる人物は思い当たらなかった。
「私も人の事言えないけど、婚期を過ぎちゃう前になんとかしないとだね。」
ベアトリスはそう言っていた。
####### 以上、さらなる回想シーン #######
(ああ、もう!)
フレデリカはいいと思える男性に出会えない事と、今、自分がしている事について考えた。
屋敷を守る責任は心得ているが、酔いつぶれた「憎きパン泥棒」の世話までしている自分がかわいそうに思えた。
そしてフレデリカはメルロの体に視線を移した。
見ているうちにいたずら心が芽生えた。
「……ねえ、アンナ。ちょっと彼のご自慢の品物を拝見してみない?」
フレデリカはアンナに声を掛けた。
「…え?なに?、いきなり?」
アンナはフレデリカに声を返した。
「…いやね?…いつも恥ずかしげもなく見せつけるかのようにしている彼のご自慢のパンって、どういう風になっているのかなって気になっちゃってね。」
「………」
アンナはフレデリカの言葉を聞いてメルロに視線を移した。
「…傷ついた人を手当する時に使う手袋なら、まだ余裕があったはず。」
アンナはそう言った。
「……よし、準備しよう。」
こうしてアンナとフレデリカは医療用の手袋を嵌めてメルロが寝ているベットの両脇に立った。
その時、窓には二つの陰が動いていた。
####### 以上、回想シーン #######
「…な、なんの事かしら?」
フレデリカはとぼけた。
「…おや、とぼける気ですか?」
『メルロの姿をした誰か』はフレデリカにそう声を掛けた。
「…なんの根拠があってそんな事を言ってるの?…何かの勘違いじゃない?…」
フレデリカはそう言った。
「…ふむ?…勘違いですか?」
『メルロの姿をした誰か』は上に視線を向けて何かを考えるような仕草をした。
それを見てフレデリカは言った。
「そうよ。勘違いよ。…わかったら早くここから解放してほしいんですけど。」
「ふむ。」
『メルロの姿をした誰か』はメモらしきものを開いて言った。
「『アンナとフレデリカは外科手術でもするかのようにメルロのズボンの前を開けてトウサンジュニアのオハヨウからオヤスミまでをじっくり観察した』とクララさんに教えてもらったエレナさんのメモにそう書いてますね。クララさんとエレナさんはお二人のお医者さんごっこを窓からのぞいた時にトウサンジュニアをマジマジと観察してたそうです。」
「エレナァァァァ!?」
フレデリカは自分のいたずらを目撃されていた事に衝撃を受け、叫んだ。