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ある記憶喪失者の日常  作者: ねぶた
19章 Oh!ヨメサンバ
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いつか見た夢の続き

「………父上は……武士としての務めを全うするのです。」綺麗な着物を着た女性からそう告げられた。


母上は震えながら自分の手を握って話をした。


彼女の表情や声には深い悲しみと不安が滲み出ていた。


父は切腹だった。


だが、お殿様の責を代わりに引き受ける大事な役目だとの事だった。


自分にはそれが分からなかった。


分かりたくなかった。


母は厳しかったが、父のように立派になる為だと分かっていたので期待に答えられるようにしたかった。


だが、その父がいなくなる。


いや、母の話からするともういなくなったのだ。


不安、孤独、疑念、様々な思いが体を駆け巡っていた。


今、自分がいる処は本当に自分の家なのか。


今の母は本当に自分が知っている人なのか。


気が付いた時には家を飛び出していた。


このままそこに居てもなにも変えられない。


寺子屋で知り合った子達の処へ行っても同じ事。


生みの母と父の処に行っても家に連れ戻されるだけ。


では、どうすればいいのか………。


不安を抱えたまま歩いていた。


このままブラブラしていても何れ見つかり、家に連れ戻される。


連れ戻された後はどうなるのか。


先ほど感じた理不尽さを味わい続ける事になるのか。


自分一人ではなにもできない事は分かっていた。


その現実をただ我慢して受け入れる事はしたくなかった。


もうすぐ日が落ちる。


その日が落ちる先にある山を目にした。


そして、その山に向かって駆け出した。


そこは隠忍オニが住むと言われる山だった。



山の中に入った時は既に辺りは暗くなっていた。


周囲には木々の影が立ち込め、風の音だけでなく、夜の生き物の囁きも聞こえてきた気がした。


ゆっくり歩く。しかし、暗すぎて前が見えない。


しばらくすると川のせせらぎが聞こえてきた。


明るくなるまで川の傍に居る事にした。


目を覚ますと周りは明るくなっていた。


川沿いを行けるところまで歩いてから山の中に入っていった。


山の中を歩いて暫くすると、歩きやすい処がある事に気が付いた。


獣道なのだろうか。その道と思われる場所に沿って歩いた。


歩いた先に祠のようなものが現れた。


なぜ、こんなものがこんな山奥にあるか不思議に思った。


木の扉が半開きになっており、中の様子が見えた。


扉を軽く押し開け、中の様子を見た。


薄暗い中に小さな祭壇があり、そこには古びたお守りやろうそくが並べられていた。


人が居る証拠だった。


祠の雰囲気に引かれ、心の中で何か特別なものを感じた。


人が居るという事は、誰かが祈りを捧げたり、願い事をしたりする場所として使われているのかも知れない。


少し迷った後、手を合わせ、心の中で願い事を思い浮かべた。


祠の存在に感謝し、再び道を進むことにした。


遠くで何かが動いた事に気が付いた。


人だ。


そう思って近くの木の陰に隠れて様子を見た。


その人影は一人であり、こちらに近づいている。


そしてその人影に違和感を覚えた。


脛がやたら長いように感じた。


身を隠しながら、近づいてくる人影を待った。


ゆっくりとした足取りで獣道を進んでいるようだった。


近づいてくる人影は杖のようなものを持っているようだった。


そして、違和感の正体が見えてきた。


履いているものは下駄だろうか。


下駄にしては歯が異様に長い。


そして、歯が一枚しかない。


頭には何か六角の箱なのだろうか、額の上辺りに飾りを付けていた。


初めて見る姿だった。


その人影の後を付いていく事にした。


彼は静かに身を隠しながら、人影が進む道を辿りました。


人影はゆっくりとした足取りで進む。


その後をついていくうちに、周りの景色が変わっていくことに気が付いた。


山の中を進んでいるその筈だった。


だというのに、この不思議な光景は何のか。


時折、人影は立ち止まり、周りを見回すような仕草を見せた。


その度に身をひそめ、姿を隠した。


人影に悟られないように慎重に動いた。


やがて、人影は山の奥深くに辿り着いた。


すると、遠くに煙が立ち上っているのが見えた。


人影はそこを目指しているようだった。



人影の後を追い、煙の立ち上る場所へと向かって行った。


煙が濃くなり、焚き火の匂いが漂ってきた。


やがて、木々の隙間から明るい光が差し込む場所に到着した。



そこには開けた場所になっていて小屋なのか、家なのか、似たような建物が幾つもあった。


周りと違って一回り大きな建物から煙が上がっていた。


建物の周りには不思議な雰囲気を持つ人々が集まっていた。


人影は広場に入り、周囲の人々と交流していた。


彼らは明るく笑顔でお互いを迎え入れているようだった。


その人々の姿がハッキリ見える処まで来て驚いた。


先ほどの人影と違って、顔や体にさまざまな模様を持っていた。


模様はひとによって様々だった。


人々は明るい笑顔で交流していた。


この場所がどのような場所なのか、なぜ人々が様々な模様を持っているのかに興味を惹かれた。


しばらくその様子を眺めていた。


気が付いた時にはその中へと足を進めていた。


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