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ある記憶喪失者の日常  作者: ねぶた
15章 動き出す教会
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描かれたもの

※1 この印がついている処から数行は以下の何れかの曲を聞きながら読むとフレデリカの心情を感じ取ることができ、物語をより楽しむ事ができると思います。


モーツァルト《レクイエム》「怒りの日」

https://www.youtube.com/watch?v=Opwq0C0hjOg


ヴェルディ《レクイエム》「怒りの日」

https://www.youtube.com/watch?v=Glim_Q2Ni2A


そしてフレデリカは、アクアを手にした事による先の未来を想像した。


そして、その想像通りに体が勝手に動き出した。


「あ…う、嘘、まって、そ、そんな、いや…いや…」口では否定しながらも真っ白なキャンパスに体が向いていた。


アクアは彼女の手中にありながらも、その力を制御することはできなかった。


恐怖と焦りがフレデリカを支配し、彼女は周囲のメイドたちに助けを求める視線を送った。


だが、周りの皆は、フレデリカの手に握られているのがアクアだと事に気付いていない様子だった。


メルロは謝罪の表情でフレデリカに近づき、声を落として言った。


「フレデリカ様、自分とエレナは、アクアを用いて新たな可能性を追求していました。しかし、その力を制御する方法をまだ見つけていないのが実情です。申し訳ありませんが、一時的にその力に身を委ねてもらいたいと思います。私たちがサポートしますので、どうかお許しをください」


フレデリカはメルロの言葉に混乱し、彼を睨みつけた。


「メ、メルロ、……あなた?…、は、謀ったわね!?」と叫びました。


その言葉を聞いたメルロは、満足そう笑みを浮かべ、悪い顔をしていた。


「あ…あ…、い、いやよ、そんなの…嘘よ…」


※1

次の瞬間、フレデリカは食堂の壁にものすごい勢いで勝手に動くペン『アクア』を走らせた。というより勝手に走った。


壁にはどこの国の物なのか分からない文字が、大きさも並びもバラバラに書かれていった。


「(|| ゜Д゜) はああああああぁぁぁぁぁぁああ!?、いぃやぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」


フレデリカはアクアの力によって制御不能な状態に陥り、目を見開きながら恐怖と混乱に満ちた悲痛な叫びを上げた。


アンナ「え!?、なに!?」


クララ「フレデリカ様?」


エレナ「あ、あれ!?止められない!!」


メイド3人はフレデリカの奇行を止めようと必死になったが、その力には太刀打ちできなかった。


食堂の壁には彼女の意図しない文字が乱雑に書き連ねられ、その光景はまるで混沌の象徴とも言えるものだった。


メルロは忘れていなかった。


以前、皆に「勝手に動くペン『アクア』」を紹介した時、ペンはクララに対し、自分の意図していない言葉を書き出してその場を混乱させた。


アクアを取り上げてその混乱を収めていたが、一瞬の隙を突かれ、アクアをフレデリカに取り上げられた。


その時、メルロは悪い予感を感じていたが、それは現実のものとなった。


フレデリカに握られたアクアは「くっそこの!蛇食女スネークイーターめ」とまるで「自分がその時思った事」を読み取ったかのように書き出したのだった。


殴られる事を警戒して距離を取り謝罪した。


それに対し、フレデリカは気にしていないと言って返却の為にアクアを差し出していた。


不安と緊張感を抱えて近づいたメルロにまっていたのは平手打ちと拳と膝の連打だった。


上上下下右左右左、ボディ、アンダー、ボディ、アンダー「コ!…ラ………ボッ!」とメルロは攻撃を受けて呻いていた。


「…気にしていないって言ったのに…」とメルロはいつか必ず仕返ししてやると心に誓っていた。


その時の復讐が今成就したのだ。ハハハハハハッなんて心地のいい叫び声だw。


ハンスは何が起こったか大体を理解しメルロの顔を一瞥し呟いた。


「お、お前もヤルときゃヤルんだなぁ?」


壁一面に見知らぬ文字を埋め尽くしたフレデリカは、ようやくアクアから解放され、自ら汚した壁を見つめながら体と声を震わせていた。


先程まで爽やかさを感じさせていた白い壁には奇怪な文字が並べられ、まるで呪いようだった。


「あ…、あ…か…イ………は………ね……」と言葉にならず、ひどく絶望していた。


そして震えながらメルロに体を向けた。


「ひ、ひどいわ………この間の…し、仕返しだとしても、これはあんまりよ。」と涙目でメルロに訴えかけた。


皆は気の毒そうにフレデリカを見つめていた。


メルロは目を閉じ、静かに声をかけた。


「フレデリカ様、どうかこちらへ来てください。」


「…?」この上何があるというのか。そう考えながらもその言葉に従った。


「壁を見てください。」とメルロが言う。


「…………!?…………」フレデリカは驚愕した。


壁には文字の羅列で描かれたフレデリカの姿絵があった。


フレデリカは驚愕しながらも、壁に描かれた自身の姿絵を見つめた。


文字の羅列が織り成す彼女の姿は、驚くほど細かく緻密に描かれていた。


「これは…私の姿ですか?」フレデリカは戸惑いを隠せなかった。


ハンス「これはすごい」


ジョセフ「また、見事な姿絵ですね。」


アンナ「素敵。」


クララ「…すばらしいですね。」


エレナ「なるほど、……そういう事か。」


皆も口々に感想を述べていく。


エレナはここでようやくアクアの存在に気が付いた。


アクアが描く姿絵の事を知っているのはメルロとエレナの二人だけだった。


メルロは穏やかな声で説明した。


「フレデリカ様、この姿絵はアクアが描き出したものです。私たちはアクアの力を制御できていないため、あなたにとっては予測不可能な出来事が起こってしまいました。しかし、この姿絵には何か意味があるのかもしれません。私たちはこれを解読し、アクアの力をより有益なものに変える手掛かりとしたいのです。」


フレデリカはまだ困惑しながらも、メルロの言葉に少し希望を見出した。


彼女は自分の姿絵をじっと見つめ、考え込んだ。


「そうね。この姿絵に込められたメッセージや意味を解読してみましょう。もしかしたら、私たちがアクアの力を制御する方法や、新たな可能性を見つける手掛かりが隠されているかもしれません。」


「でも、なんだかうまく言いくるめられている気がしないでも無いんだけど…」とジト目で睨むフレデリカにメルロは言った。


「……気のせいです。」と視線を逸らした。


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