悲劇の男
「いつの事かはよく知りませんが、皆さんは酔っていて女性たちに声を掛けていたと、そして男一人に邪魔をされてコテンパンにされたと聞きました。間違いないですか?」少々芝居がかった大げさの振る舞いをしてヨハンが確認した。
「ああ」「そうだ」男の仲間たちが返事をする。
「ああ、…その通りだ!」男はメルロを睨みつけ、悔しそうな声で話した。
「そして、その時の相手が彼だと。……………見間違いじゃないですかぁ?」とマイクも大げさな振る舞いを見せる。
「いいや、見間違えじゃねぇ。」男ははっきりと断言してみせた。
「本当にそうですかねぇ?その時、あなた方もお酒入ってたんでしょう?、彼をよく見てください。そんなに強そうに見えますか?」
「………………いや、そんな事はない、ハズ…」仲間の一人がそう呟いたのを聞いたヨハンは、更に大げさに言って見せた。
「よく見てください!彼、争いごとが嫌いなんです。それに僕らとの腕相撲でもしょっちゅう負けて悔しがる男なんですよ?全然強そうには見えないですよねぇ?」とヨハンは周りにもよく聞こえるように話した。
「それに彼は今、とても悲しい出来事に胸を痛めてるんです。そっとしてやってくれませんか?」とマイクが続けた。
「けッ!なにが悲しい出来事だぁ?」と男は悪態をついた。
「……彼は自分のカアサン(タコ)に逃げられてしまったんです。」とヨハンは急にトーンを落として真顔で話した。
「!…ああ!僕のカアサン(タコ)!?なんで……、ホントに逃げるならお金返してほしかったよぉ!」とメルロは最初の悲しい気持ちを思い出して感情があふれだして、テーブルに伏せてしまった。
突然わめくメルロに男達は唖然としていた。
「そ、それが、どうしたってんだよ。」と男は少し動揺していた。
「そう、彼のカアサン(タコ)は彼にお金を返さないまま夜逃げしたんです。………でも、それだけじゃなかったんです。」とマイクも顔に陰を落として真顔でいった。
「彼のカアサン(タコ)は、いつの間にか二人の男達に喰われていたんです。」とヨハンはマイクの後を引き継いだ。
その言葉に皆静まり返った。
ヨハンは手を組み、続ける。「そしてその二人の男達というのが………………」
「彼の同僚達だったのです。!」ヨハンは視線を上げ、男達にその事実を告げた。
「なん…だと………」男達はそれを聞いて絶句した。
「ああああ!…カアサン(タコ)!…僕が目を離したばっかりに……。カアサン(タコ)…。」とメルロは感情を高ぶらせていた。
「わりますか…この悲劇が…」とヨハンは悲しげに男達に尋ねた。
そして目を見開いてこう言った。
「彼は信じていたカアサン(タコ)に裏切られ!、そして、信頼を寄せていた彼の同僚二人に!、彼のカアサン(タコ)は蹂躙されてしまったんです!!」
「うわーーー!、カアサン(タコ)!!」とメルロは泣き叫んだ。
「…なんて事だ。」「親も親だが…………」「同僚もひどい。どうしてそんな事を………」「ネトラレ……」
男達のほかにも周りで耳を傾けていた客たちもあまりに気の毒な話だと騒めきだした。
「……ど、同僚たちって……お、お前も知ってる奴なのか?」と男はヨハンに尋ねた。
「……ええ、ハンスとジョセフと言います。……」視線を落とし、心底残念そうに言うヨハン。
「ぼ、僕が目を離さなければ、ふ、二人に食べられる事はなかったんだ……おおおいおいおいおい」とメルロがヨハンの言葉に反応する。
「見てください………。この弱弱しい彼を……。彼は金銭的にも精神的にも追い詰められてしまいました。あなた方も人の心を持っているなら、どうか、どうか彼をそっとしておいてやってくれませんか?」とマイクはメルロを慰め、男たちに言った。
しばらくして男の仲間たちは言った。
「なあ、世の中には似ているやつは3人くらいいるって噂だせ?今回ももしかしたらそうなのかもな…。」
すると男はすこし考え込んでから言った。
「はあ……、そうかも知れないな。悪かったな兄ちゃん達。」と男達はその場を去っていった。
ヨハン・マイク「……………………」
ヨハンとマイクは男達が完全にいなくなった事を確認し、二人でハイタッチをした。
ヨハンはメルロに声を掛けた「メルロ、もういいぞ、なんか迫真の演技だったなw!」
マイクも「ホント、こちらの意図を読むとはなかなかやるな。」と言った。しかし、メルロは泣き止まなかった。
「うわーーー!、カアサン(タコ)!!」
ヨハン・マイク「!?」二人は視線を合わせた。
「まさか、本気のガチ泣きかよw」とヨハンは笑った。
「いや、この天然記念物だからこそ、さっきの状況を乗り切ったんだよwさすが!」マイクも笑いながら言った。
「なんだよ。ひどいよ二人共」とメルロは泣き顔をヨハンとマイクに向けた。
「ハハハハハ、いや、よくやったメルロ」とマイクは言った。
「あはははは、今日は飲み明かそうぜ!」ヨハンも嬉しそうに言った。
そして、彼らは酒を片手に笑いながら、この一連の出来事を振り返った。
メルロの演技?が成功し、男たちは去って行ったことで彼らの危機は回避された。
ヨハンとマイクはメルロの運の良さに感心し、彼との友情を深めた。