業務提携
水無瀬さんに連絡を取ってから2週間が経った。
どうやら相手は企業勢Vtuberというものだったらしく、企業に所属しているため都合の会う日が少なく、今のところ通話などはしていない。
そんな相手が、どうして俺にコーチングを依頼して来たのかというと、近々HEROXのカジュアル大会があるらしい。
大会名は【DO CUP】
優勝商品は大会運営から好きな物を買って貰えるという大盤振る舞いの大会で、DOと言うのは【Dream Over】というeスポーツチームの略称で、俺が出ていた世界大会にも出場していたチームだ。
ぶっちゃけると、俺も第一回大会に呼ばれたのだが別の大会と被っていて出られなかった。
そして今回の大会出場基準は最高ランクがマスターまでという事で、俺は出られない。
その代わりにコーチとして、チームに就くことは可能なのでその制度を利用して俺に申し込んできたという。
最近チームを抜けた事もあって、誘いやすかったのもあるのだろう。
「あーそういえば水無瀬さんとのやつ、明日やります。時間は夜8時からでカスタムを観戦して、それで口出しするみたいな形式らしいです」
『マジか! 急に来たな!』
『もう、2週間近く待ったぞ!』
『コーチングってことは、やっぱDOCUPが関係してる?』
DOCUPに関しても2週間ほど前から告知されていて、明日から練習カスタムが始まるとの事。
大会本番は1週間後、その間毎日練習カスタムが行われ、水無瀬さんもこの一週間は熱を入れるためスケジュールは空けているとのこと。
「リーダーおいっす、今日も頑張りますか」
「お、きたきた。そういえば4KAGIもコーチングの依頼来たんだっけ?」
興味深い話をしているので、俺もミュートを解除して会話に参加する。
「G4siinが前に言ってたやつか、4KAGIもコーチングするのか?」
「あーそう、俺もVtuberコーチングすることになりまして、名前は一ノ瀬さんだったかな? 結構人気らしくてチャンネル見に行ったら40万人登録者いましたわ!」
4KAGIが珍しく嬉しそうに話している。
そういえば、俺がコーチングする予定の水無瀬さんも登録者が30万人ぐらい居た気がするな。
みんな有名な人からコーチングを頼まれているのか。
元チームメンバーとしては嬉しい限りだが、それで道を踏み間違えてしまえば大きな炎上に繋がってしまう。
可能性の話だが、無いわけではないから心配だ。
「実は俺も結構前からコーチングの依頼来てたんだよね」
「あー、見ましたよ切り抜き。水無瀬さんでしたっけ」
「そうそう、明日から。4KAGIさんとG4siinさんも明日から?」
「そうだね」
「自分も明日からですね」
「んじゃ、敵同士になるのか」
「まーでも、コーチングとか初めてなんで分かんない部分は連携しません?」
「それはありだね。俺もコーチングは初めてだからな」
「俺もだわ。んじゃ、分かんない部分連絡取り合いますか」
こうして業務提携のような物を結んだ後、俺たちはいつも通りの長時間ランクマをしてG4siinは4時に抜け、4KAGIと俺もカスタム開始一時間前の7時に解散した。
正直な事を言うと、長時間配信からのコーチングは普通に怠いと言うか疲れもあって普通にやりたくない。
だが、俺のわがままでを頼ってくれた水無瀬さんに押し付けるのは人として最低。
それに、チームを抜けて初めて頼ってくれたんだ、精一杯取り組まないとリスナーや相手リスナーに失礼だ。
俺は手に持っていたサラダチキンを食べ、参加者が集まり始めているDiscardの専用サーバーに入った。