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いざ新天地へ

鏡華が初討伐を経験して一週間が経ち、二人のレベルもかなり上がってきた。ただ行動範囲が狭いからか、日に日に出くわすモンスターの数が減ってきており、レベルアップの効率という面では下がってきている。


「そろそろ、この家ともお別れかな」



また多くのモンスターを倒してレベルアップをするには、活動する場所を移さないといけない。そうなると必然的に、今住んでいる場所から離れることになる。

天馬の生まれ育った家、鏡華にとっても馴染み深い家を離れるのは心苦しいものがあった。


「別に壊していくわけじゃないし、その気になればまた帰ってこれるよ。掃除はしないとだろうけど」



寂しいというのが顔に出てしまっていたか、鏡華にそう言われてしまった。

でも鏡華の言う通り、なくなるわけではない。幸いなことに、この一週間でわかった範囲だとモンスターは無闇矢鱈に建物を壊すことはなく、むしろ自分たちの巣として使うことも少なくはない。


「じゃあ必要なものだけ持って、日が高いうちに移動しよう」

「でもどうやって持ってくの?バッグに入れていこうにもすごい量になって絶対かさばるよ」


そう言われるだろうと思ってもう魔法で作ってある【異空間収納】に全部ぶち込む。……作ってる最中に思ったんだけど、異空間と亜空間の違いって何なんだろうね。


「へぇーすごい。これいつでも取り出せるの?」

「もちろん、俺がいないと無理だけど」

「え、天馬死んだら全部なくなるの?」

「そうだけど、食べ物がなくなるほうが心配?俺が死んだことを悲しんでよ」

「もちろん悲しむ。けど悲しみに悲しんだあと、さぁこれから頑張ろうとやる気を出しているところに食料がない、こんなに残酷なことがあるかい……」

「あぁ、現実的とかうかなんというか」





我が家にも別れを告げ、モンスターのいそうな方角へと歩き出す。

ちなみに天馬と鏡華が暮らしていたのは兵庫県。一瞬、大阪行くのも考えたがあそこはかなり大きい都市で、人口も多い。その分鏡華のような逸材が生まれる可能性は高い。だから実情はわからないが、意外と何とかなっているかもしれない。逆に岡山は人口も多いとは言えず、さっき言った可能性は低いため、モンスターも多く残っているだろう。


「よし、西に向かおうか」

「おー」




そして建物なんて知ったことかと言わんばかりに、屋根の上をかけて一直線に進む。岡山へと向かう最中も、往復は厳しいからと行けてなかったところまで来るとまだまだモンスターは残っていた。

ゴブリン、オーク、コボルト、キラーウルフ。レベル的には天馬達がもう苦戦することはもうないだろう。

それからしばらくして、岡山に入ったあたりの山道で……




「うわあああああああああ!!」

「「!?」」



はっきり聞こえた、近くにいる

一瞬で助けに行くという判断を下し、声のした方へ全力で走る。

本当に近くにいたこともあり、声の主はすぐに見つかった。その状況は、まさに死の瀬戸際だ。二匹のオークが棍棒と斧を振り上げ、声の主を狙っている。



「鏡華、斧の方お願い」

「了解」



鏡華に簡潔に指示を出し、自分は棍棒を持っているオークに目がけて魔法を放つ


「”氷槍アイスジャベリン”」



掌の上で生み出された氷の槍を、狙い通りに飛ばす。棍棒のオークの頭は爆発四散、その様子を見て斧のオークは混乱いている。そしてその隙は逃さまいと、鏡華も刀を抜く。


「”御上流居合・一華閃いっかせん”」



刀、天照から滲み出す荘厳なオーラが、乱れることなくオークの首を通り、鞘へと戻る。

次の瞬間、オーラの通った場所にあったものはすべて斬れ、オークの首は綺麗に地面へと転がった。




「え、いったい何が……」



オークたちに襲われていた人は、目の前の光景に理解が及ばずしばらく一人でぶつぶつ言っていた。しかしすぐに正気に戻り、天馬達にお礼を言った



「本当にありがとう、正直死ぬ覚悟はしていたし、絶対に死んだと思っていたから困惑してしまって……私は近藤一馬、異世界化対策本部の副本部長をしている。まぁこうみえて政府の人間なんだ」


「「え?」」


二人が困惑するのも無理はない。政府の人間のイメージといえば、スーツなどのカッチリとした服装に清潔感のある身だしなみ、貫禄のある立ち居振る舞いなどだ。

だけど彼は、清潔感のあまりない髪に服のしわ、現場に出ているのかと思える作業服のようなものを着て、長靴を履いている。

公務員というだけならまだ納得はできたが、とても今言った通りの立場だとは思えなかった



「驚いてるね、それもそうだろう。山道を歩くのにスーツなんかは着ないよ、登山服なんかも考えたけどあれはすぐには見つからなくてね」

「そ、それでどうしてここに?」

「あぁ、実は異世界化対策本部の作戦の一環としてなるべく高レベルのレベル持ち、我々は【プレイヤー】と呼んでいるのだが、そのプレイヤーを勧誘しているところなんだ」



プレイヤー……天馬や鏡華のようにレベルという概念が発現した者は意外と少なく、半分以上の人たちがこの世界になる前の状態と同じだそう

ただレベルが発現したからと言って、現状を生き抜けるかは怪しいところだ。世界、常識、そして自分の体にも劇的な変化が起き、それに適応できたものも少ないだろう。



「とは言うもののレベルの高さ問わず勧誘しているけどね、この世界で戦える力があるというのは素晴らしいことだから。対策本部は一人でも多くのプレイヤーを集めるべく、勧誘に出かけた職員にそれぞれノルマを課した……」

「そんなブラック企業みたいな……そのノルマって?」

「合計レベル15以上のプレイヤーの勧誘!ちなみに今確認されている最高レベルは8!かなりブラックなノルマさ!」

「え?」



最高レベル8?そりゃこの世界になってまだそんなに経ってないし、”今確認されている”だからこれからどんどん更新されていくだろうけど……ちょっとまずいかもな

神久夜が言うには、世界の混合はなるべく似通っている要素から順に進むらしい、つまり時間が経つにつれて強力なモンスターが現れるようになる。それがいつかわからない以上、早急なレベル上げが必要だ。



「近藤さんの顔とその話聞いてなんとなく察したよ、付いてきてくれってことでしょ?」

「話が早くてすごく助かる。今言ったレベル8のプレイヤーを目の当たりにしたことはあるが、比べるまでもなく君たちのほうが強いとわかる。どうか日本を、この世界を救うために力を貸してくれ」



真剣な顔つきで深々と頭を下げる。それだけこの世界を守りたいうことなのかな……いい人だ。



「こちらこそ、大きな組織と連携を組めるのはすごくありがたい。鏡華もいい?」

「天馬がいいって言うならいいよ、信じてるから」



そう言って、近藤さんの手を取る。その時の表情ときたら、本当に嬉しそうで、応えるべき期待がまた一つ増えたな



「ところで、二人のレベルはいくつなんだ?正直予想しようにも検討もつかないんだが……は?」


二人でパッとステータスプレートを見せると、近藤さんは言葉を失っていた。今の天馬のレベルは30、鏡華は20だ。ノルマが合計レベル15だったことを考えると、一気に三倍以上の成果を上げたことになる。それに加え、今現在の最高レベルが8だったことを考えると、逆に反応に困るだろうなー



「よ、よし。早速対策本部の拠点まで行くか。一番近いのは大阪府だな、東京まで行けたらいいんだが、移動手段がことごとく潰されていて、歩いていくとなるとかなりの日数をかけることになる。道中モンスターに出くわさないとも限らないしね」

「あーそれならなんとかなりますよ、多分」

「え?」



神久夜が教えてくれた異世界の魔法知識の中に、便利なものがあったの思い出す。というか今思い出せば基礎的なことと便利な魔法の知識しかなかった気がする。神久夜の気遣いに感謝だな


「一応掴まって、対象範囲とかあるのかわからないし……」

「何するの?天馬」

「んー、跳ぶ」



「【空間跳躍】」



昼でも眩しいほどの光が天馬を起点に、直接触れている者にも連鎖していく。驚いているのも束の間、一気に上空へと跳び、雲より少し低いくらいの高さを東京の方に向かって高速で進みだした

一分もしないうちに、東京のシンボルと言っても過言ではない東京スカイツリーの前に到着した



「どどど、どういうことだ?あんな山奥から一瞬で東京まで……固有スキルってものか?」



まさかの結果に、近藤さんは頭も感情もついていってないみたいだ。一方の鏡華はというと、初めて直接見たスカイツリーに少しだけ感動していた。

とは言うものの俺も子どものときに来たきりなので、少し思い出にふけってしまった。



「ん?誰か来てる?」



スカイツリーとは真逆の方向から、それなりの数の集団が近づいていることに気付いた。鏡華も気付いたみたいで、一応天照に手を添えている

天馬も軽く臨戦態勢を取り、姿が見えるのを待つ



「この辺だ!あの光が落ちたのは!何があるかわからない!気をつけろ!」


先頭に立つ派手髪の男が、あとに続く人たちに警戒を促す。見たところまともな装備を持っているのは派手髪だけで、あとの人たちは鉄パイプだったり金属バットだったりの鈍器が多めだった

誰かはわからないが、集団のうち一人が天馬たちに気付く。先頭の派手髪が速攻してきた



「誰だお前ら!!」

「問答無用で襲ってくるやつがあるか!!鏡華!」


意外と鋭い攻撃に虚を突かれたが、紙一重で躱す。そのまま攻撃を引き付けつつ、鏡華に合図を出す。それをちゃんと受けっ取ったようで、派手髪に向かって斬撃を放った。さすがに手加減をしようと思ったみたいで良く刃の向きを見てみたら峰打ちだった。斬撃に峰打ちとかがあるのかはわからないけど……



「ガッ!?」


綺麗に脇腹に斬撃を喰らい、白目を剥いてその場に倒れた

恐らくリーダーだった派手髪が一瞬でやられ、残りの人達も呆然としている。近藤さんがその集団と天馬の近くで伸びている派手髪を見て、頭を抱えた



「桜田さん、こちらが先程話したレベル8のプレイヤーです。恐らくさっきの光を見て何かあったのかと確認しに来たんでしょう」

「ここに来てから10分も経ってないのに、早いですね」

「桜田さん達は知らないと思いますが、この辺はモンスターが結構いるんですよ。レベル上げの最中とかそんな感じだと思いますね」



近藤さんの仮定を決定づけるように、残った人たちが全員で頷く。それにしてはモンスターが少ない気がするが……何気なくステータスプレートを見てみると、レベルが2も上がっていた。恐らく飛んできた俺達の下敷きになったんだろう。久しぶりに幸運って感じがするな



「ひと悶着ありましたけど、対策本部へご案内します。ここからは比較的近いです。彼はあなた達お願いします」



と集団に指示を出し、天馬を鏡華を対策本部へと連れて行く。その道中に東京の景色を見たが、日本の首都と呼べるか怪しい雰囲気になっていた。よくテレビの全国ニュースなんかで東京の景色は何度か見てきた。人が飽和し、どうやってスマホを見ながらそんなスムーズに歩けているんだとずっと思っていたあの東京が、今はもう影も形もなかった。



「東京は……どのくらい出たんですか?」



何がとは言わない。この景色を見て素直に気になったのと、現実を受け止めないといけなと思った。



「確認できている限りで100万は……ただ元の人口から100万を抜いた数が避難所にいるのかと言われれば、そういうわけではないんです。あくまで確認できている範囲であって、今後もっと増える可能性が……」


近藤さんには辛いことを口にさせた気がする。でも思ったより被害が大きくて、自分がこれからすることへの覚悟が決まった気がした。これ以上被害を増やさないためにも、これからの行動が重要になってくるな





「ここです」

「ここは……」



近藤さんが案内してくれたところは、東京国立博物館だった。行ったことはないが、多くの文化財が保管されているのに、ここを対策本部として使えるんだろうか……



「一応重要文化財などは地下の大金庫に移動させてあります。ここまで綺麗に残った大きい建物がここくらいしかなく……一応皇居も残ってはいますが、使うわけにはいかないのでこちらを使ってるんですよ」

「なるほど」



近藤さんに案内されるまま、博物館の中に入る。警察の格好をした人たちが入口を警備していた。近藤さんがポケットからなにか取り出すと、警察の人たちは敬礼をして扉を開けてくれた。

扉の先が見えると、思わず息を呑んだ。

慌ただしく走り回る人たちが数え切れないほど降り、いくつも並んでいる長机には大量の紙。それらを手に、様々な議論が飛び交う。よくネットでは政府は無能、税金の無駄遣いをしているなど言われているが、実際こういう場面を見れば、そんな言葉は出てこない。



「近藤さん!帰ってきたんですね!もしかして後ろの二人が……」

「ああ、私のスカウトしたプレイヤーさ!」



議論に耳を傾けながら紙と見つめ合っていた女性が近藤さんに気付き、こちらに走ってきた。それに釣られるように、議論を重ねていた人たちもこちらに寄ってきた



「よく帰ってきた近藤……みんなを見送ったあとに流石に無理難題を押し付けてしまったかと後悔したんだが、無事で良かった」

「無理難題はまぁ否定しないけど、あの時送り出してくれなければこの二人に会えなかった。だからむしろ感謝してるよ」



友情を感じる会話だが、この会話から分かる通り……


「よく来てくれた。俺は相羽銀次、異世界化対策本部本部長で、君たちを連れてきた近藤の同僚だ。早速だが、名前を聞いてもいいか?」

「桜田天馬です。よろしくお願いします」

「御上鏡華、よろしくです」



自己紹介をし、相羽さんと軽く握手をする。鏡華の人見知り、久々に見た気がする。他にも職員?がいたので、軽く挨拶をしておいた



「ところで近藤。お前が連れてきたのはこの二人だけに見えるけど、ノルマはクリアしたのか?」

「お前……さっき後悔がなんとかって言ってなかったか?それでもそこに拘るか……」



近藤さんのジト目をバツが悪そうな顔で受け止める相羽さんを、誰一人擁護はしなかった……



「まぁそんなもの遥かに超えているからな!聞いて驚け!この二人の合計レベルは50だ!大金星もいいとこだろ!」

「は?」



本人たちの前で手柄自慢、近藤さんってこんなキャラだったのか。せめて本人がいないところでしてくれと苦笑する




「いやいや近藤、確かにそんなプレイヤーがいたらすごく嬉しいが、そこまでのレベルアップは現実的に不可能だ。お前もわかっているだろう」

「と言ってもな、実際に目にして確認したんだ。それに俺がお前に嘘をついたこともないし、あんまり疑うと二人に失礼だろう」


近藤さんの言葉に、相羽さんが固まった。確かに、というような顔をして、天馬と鏡華の方に改めて顔を向ける



「真っ先に疑って申し訳ない。良ければ、レベルを見せてくれないか」



そう言って、天馬たち頭を下げる。ちゃんと反省して、こんな子どもに頭まで下げれる。対策本部のトップが、この人で良かったとちょっと思った。


「「ステータスプレート」」

「なっ!これは……まさか本当、というかそれ以上だったとは……」

「あれ、ぴったり50だったと思うんだけど」

「ああ、さっきの【空間跳躍】でこっちに着いた時、モンスターを下敷きにしたみたいでちょっとレベルが上ったんですよ」



少しだけレベルが上った経緯を近藤さんに説明すると、近藤さんだけでなく周りにいた人たちも驚いていた。相羽さん曰く、レベルにも寄るがモンスターを倒したとしてもちょっとやそっとじゃレベルアップはしないらしい。



「いやしかし、スカイツリー周辺は最近高レベルのモンスターの確認がされている。もしかしたらそれを下敷きに……したじ、きに……頭がおかしくなりそうだ」



この時相羽さんが言っていた高レベルのモンスターとはレベル15のオークと数匹のゴブリンだったらしいが、これを知るのはまだまだ先のことだ

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