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それぞれの方針

「では各々個人の今後の方針について話しましょう。自国の方針ではなく、個人の方針です」



ハミルトンの言葉を受け、全員が考え込む。全く考えてないこともなかったが、改めて考え直しているといったところだろう

最初に口を開いたのは、メアリーだった



「特にこれといった方針はないけど、まずはレベルをとにかく上げるつもり。今は10月、イースターの時期までには少なくとも100までは上げる予定。みんなもわかっている通り、レベルは上がるたびに上がりにくくなっていく。妥当な期間だと思うわ」



イースターは確か4月の半ばくらいだったか。つまり半年くらいか……国からの仕事も並行して行うとするとたしかに妥当な期間だと言えるだろう



「俺達は国からの仕事は比較的に少ないから同じ期間だと150は上げれるかな」

「甲斐に全部押し付けるからレベル上げの時間はいっぱい取れる。180はいけるんじゃない?」

「ちょっとお二人さん?何不穏なことをボソボソ言ってるんですか?」



それなりに小さい声で話していたつもりが、近くにいた甲斐にはしっかり聞こえていたらしい。しかし驚いたのは……



「あなた達が180まで上げれるならこっちは200まで上げたるわ!絶対に負けないわ!」



ほぼ対角の位置に座っていたメアリーにも聞こえたことだ。驚いて他のプレイヤーたちに聞こえているか目配せしてみたが、聞こえていなかったみたいでなおさら驚いた。どんなとこの感覚が上がってるんだよ厄介な




「俺もレベル上げは続けていくぜ。なるべく早めに三桁まで乗せたいな。それと並行して有望なやつの育成も進めてくつもりだ。強いのが俺らだけってのも不安だろ?」



次に口にしたのはベルナルドだった。レベル上げは必須だから当然として、人材の育成にまで目を向けているのは脱帽した。見た目だけの話で言えば一番好戦的に見えるが、かなり理性的で頭の良い人物なのかもしれない。



「有望な者といっても選別方法はあるのかい?育成に関しては私も考えていたことではあるが、いかんせん誰を選べば良いのかわかない。もちろん多数のプレイヤーを育てることも大切だが、一騎当千になりうる者は必ず必要になってくる」



ベルナルドの方針に疑問を呈したのはアイザックだった。彼も育成を考えていたらしく、自分が悩んでいた問題をベルナルドへと投げかけた



「んやわからねぇ、そこだけが俺もどうしようか悩んでいたところだ。ステータスやスキルを自己申告してもらうことも考えたが、良くも悪くも嘘を付かれたら無駄な時間を過ごしてしまう。もっとこう、見ただけで相手のステータスなんかを見れれば良いんだがな」




ベルナルドの言葉を聞き、ある疑問が頭をよぎった。自分のステータスを確認するためのステータスプレート、あれを自分以外の人にも見せられたら……



「みんな、ステータスプレートのことは知ってるか?」




それまで黙っていた天馬が声を上げたので少し注目を集めてしまったが、ベルナルドがその疑問に答えてくれた。



「そりゃな、あれがないと自分のステータスを知ることすらできない」

「そう、逆に言えばあれさえ見れればステータスを知ることができる。このステータスプレートが自分以外も見れるんだとしたら……」



そう言って、自分のステータスプレートを出してみんなに見せる。みんなの視線がステータスプレートへと吸い寄せられる。その行動は、自分以外にステータスプレートを見せられるということの証明となった




「なるほど、これはいい。ただこれが偽装可能な場合もある。その場合はどうする?」

「そうだな……実際にそこに書いてあるスキルを使ってもらうのはどうだろう?正直回りくどいとは思うが、確実ではあると思う。それと余談だが、スキルの中にはステータスを見ることのできる”鑑定”というものがある。もし一人でも見つけたらその手間も省けると思う」

「そんなスキルもあるのか。ふむ……よし、これでいこう。各国とまでは言わないが、それぞれ可能な範囲内で有望な人材の確保、育成を進めてくれよ。俺からは以上だ」




それだけ言うと、ベルナルドは腕を組み誰かなど指定しなかったが次、と促した

二人言ったことで時間も取れたのでほとんどが考えもまとまっているようだ。間髪入れずにアイザックが口を開いた。



「私の方針も彼と同じようなものですな。ただ一つだけ付け加えるとしたら有望な人材を二組に分けるつもりです」

「二組?」

「えぇ、有望な人材は存在自体がエクセレント。しかしそれぞれに合ったパフォーマンスというものが必ず存在します。それこそ先程口にしましたが、一騎当千となりうるタイプか、様々なサポートをし、我らの力を底上げしてくれるタイプか。ざっくりいうとこのような感じですね。あえて名称をつけるなら。戦闘型と支援型、といったところですな」



アイザックの考えに、皆感嘆する。この中では年長者あり、誰よりも人生経験を積んでいるのが幸いしているのか、とても実用的で大事になってくる視点だと思う



「戦闘型の育成は正直大雑把でも良いのです。自分のスキルをうまく使い、戦場を支配する。これだけを意識すれば良いのです。自分で戦えますからね。しかし支援型はそうはいかないでしょう。自分で戦う力を持っているとは限らないからです。なので成長が遅く戦力になるまで時間がかかってしまう。よって皆さんには支援型のプレイヤーを見つけ次第真っ先に保護、育成をしていただきたいのです。私からは以上です」




まだ具体的な意見を聞いたのは二人だが、皆この世界の思考に馴染むのが早くないか?と少し疑問に思ってしまった。もちろん天馬自身もかなり馴染んでいる部分があるので、余計な話し合いを避けるという意味もあり口には出さなかった。



「わ、私はレベルを上げながら新しくスキルを取得できるか色々試してみます……。も、もちろん育成の方も頑張りましゅ……!」



次に声を上げたのはイタリア代表のカーラだった。話を聞いてる感じ、人見知りか上がり症だと思っていたので、このような場で自分から発言するとは誰も思っておらず、皆少し驚いていた



「スキルの取得って、できるの?」



カーラの方針にいち早く反応したのは、年も近いであろうメアリーだった。



「わ、わかりません……けど、可能性はあると思っています……だ、だってレベルで身体能力などのステータスは変化するのに、スキルは何もない、なんてことはないと思ってます。それがどんな条件なのかまではさっぱりですけど……」



これに関してはほとんどの人たちが考えていなかったことだったのか、カーラの意見を聞いて皆が押し黙った。

成長要素はレベルだけ。これが今の皆の認識となっている。しかしそうではないとすれば、育成というものの意味も更にデカくなってくる。




「これに関しては、我々も試していきましょう。どんなスキルがどんなふうに取得できるかはわかりませんが、数が多いほうが良いでしょう。カーラ様、このことは全世界で取り組もうと思います。貴重な意見ありがとうございます」

「ひゃ、ひゃい!どういたしまして……?」



スキルの取得条件の模索、これの価値をすぐさま読み取ったハミルトンが方針を示し、カーラに感謝の意を示す。

目標がレベル上げだけになっていたメアリーの目が少し輝いて見えるのは、天馬だけではないだろう





「俺はレベル上げは大前提として、魔物に効く兵器の開発も並行していきたいと思っている。もちろん造れる保証はないが、最善は尽くすつもりだ」



フランス代表のアランは、少し現代的に考えをしていた。天馬は、その体格などを見たときから思っていたことを聞いてみた



「違ってたらすまないんだが、アランは元軍人とかそんな感じなのか?」

「……あぁ、その通りだ。表向きは軍人ではないが、今新しく設立している部隊の隊長を務めることになっている。あまり人に聞かせる話ではないが、ここにいる者達ならば問題ないだろう」



ロシアはそんな組織を作るくらいには内々での対策や方針を固めているのだろう。さすがは世界有数の軍事国家とも言える国だ。こういうことに対する対応の速さが尋常じゃない



「俺は元々配属されていた部隊と役割にあったスキルが獲得できたからここまで強くなれた。しかし、自分の得意分野だったものとはかけ離れたものや、そもそもスキルを得られない者も少なくはないだろう。そのような者たちにも戦う手段を提供してあげたいと、俺は思う」



ここにいる人心優しい人多すぎね?っていうのが天馬の感想だ。正直ここまで人のことを考えて生きていける自信は天馬には今のところない。

世界を守ると決めたのも、見ず知らずの誰かのためなどではなく、身近な人を守りたいだけだった。





「私は、自国のプレイヤーをまとめて、複数の組織を作ろうと思っているわ。ロシアと同様に国主導ではあるけれど、今現在自国のプレイヤーの把握を行い、それをいくつかに分けそれぞれの地域で活動させようとしているの。うちは、世界でも1,2を争うほど国土がありますからね」




中国代表の王も、自身含め国の方針を話す。

これも、とてもすごい合理的なものだと思う。中国でなくても、国一つを少数で回るのは無理がある。そこで複数のプレイヤーで組織を作り、それぞれで活動する地域を割り当て担当させる。これの有用性を皆理解したのか、全員自国ならどうするか、などを考えていた。




「念の為お伺いしますが、我らも同じようなことをしても問題はありませんか?」

「ええ、構わないわよ」


ハミルトンの問いに、王が即答で返す。これに他の皆も満足したのか、良かったと言わんばかりにうなづいている。



「ちなみに、その組織名はなんて言うんだ?呼び方があるなら各国で統一したほうが認識に間違いが起きないと思うんだが」

「特に決まってないわね、この際だし皆で決めてもらってもいいわよ?」

「おお!それはいいな!じゃあシンプルに【レジスタンス】なんてどうだ?」

「あとはゲームとかだと【ギルド】ってあるよな」



発言者からの許しが出た瞬間、ベルナルドと甲斐が真っ先に候補を出す。どちらが名前になっても違和感はない。しかしこの2つだと、ゲームをしていたから【ギルド】のほうが天馬の中では馴染みがある。

他に意見が出そうな雰囲気もないので、この2つの決選投票を行うことになった。

結果は7対3で【ギルド】の勝ち。ちなみに日本勢は全員【ギルド】へと投票した。天馬曰く、馴染があるから。鏡華曰く、何でも良かったから天馬に合わせた。甲斐曰く、自分が候補に出したのに選ばないわけ無いでしょ、とのこと。





「では例の組織の総称は【ギルド】となりました。しかしそれぞれのギルドの名称は別でつけるとしましょう。そうでないと今度は区別がつかなくなります」

「さ、賛成です……全部ギルドって呼び方はごちゃごちゃになりそうですし、【イタリアギルド】って国名をつけるだけも味気無いでしゅし……」



また考えることが増えた、と横からぼそっと聞こえたが、聞こえなかったことにしよう。なぜなら意外と天馬は興味を持っていたからだ。





「俺の方針はレベル上げよりも育成や国の依頼を片付けるかなぁ。正直俺はこの二人には追いつける気がしないから、この二人が思う存分レベル上げに専念できるように尽くすつもりだ。もちろんレベルを上げないって意味じゃないぞ?」

「甲斐……」



甲斐が前線から引こうとしていたことに驚いたし、そんなことを思っていたのに軽く感動を覚えた。このことにはさすがの鏡華も驚いたようで、目を見開いて甲斐を見ている。



「まぁ甲斐が決めたなら文句ないよ。けどそしたら次からはこの場に来れないかもよ?」

「ここに参加できるくらいのレベルは維持し続けるぜ?あんまりレベル上げに積極的にならなくなるってだけ」




甲斐の方針を聞いた面々は、日本側に問題がないなら応援すると言ってくれた。そのことに甲斐は頭を下げて皆にお礼を言った。



「目指せ、レベル200」

「あ、俺も同じで」

「……いやそれだけ!?」



最後まで残ったものとは思えないほど、簡潔でハイレベルな方針だった。さきほどメアリーが対抗心からか200までいく!と言っていたが、内心無理だと思っていた。他の皆も、まずは3桁に乗せるという目標でレベル上げをするつもりだったのだ



「あなた達がどれだけすごくてなんでレベル上げに対するモチベがそこまであるのかはわからないけど、もう少し現実的な数字で良いんじゃない?期限を設けてないとはいえ、あんまり焦ってもいいことなんてないわよ?」



対抗心を燃やしていたメアリーから、正直な感想をもらった。お前たちには無理だ、と言われているわけではなく、純粋に、言葉通りの意味なんだろう



「モンスターがそれまで大人しくしてくれるなら、私もそうする」

「!」

「けど、それらを待ってくれるほど、向こうもお人好しじゃない。早く強くなりたいのは、焦りじゃなくて必要なことだから。……大丈夫、焦ってはない」

「……そう、ならいいわ」




鏡華とメアリー、正反対のような性格をしている二人の会話を聞き、皆の気が引き締まる。わかっていなかったわけじゃない。モンスターにこちらの事情は通用しない。しかし、いざ言葉にして言われると、緊張感が走る




「それでは一通りの方針はわかったことですし、お開きにして元の場所に戻りましょう。ここで得た情報は各国で共有していただいて構いません。それでは皆さん、これからよろしくお願いいたします」



ハミルトンの言葉でその場を締め、紀野総理たちが待つ講堂へと向かい、そこでもトントン拍子に会議を閉会し、解散となった

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